本文批評
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本文批評(ほんもんひひょう、英: Textual criticism, 独:Textkritik, 仏:Critique textuelle)とは、文献学において、ある文書の現存する写本から、可能な限り、その文書の元来の形を復元する作業を言う。本文批判、正文批判(批評)、テキスト批判(批評)とも呼ばれる。
古い時代の文書は、多くの場合、人の手によって写される写本の形で伝わった。写本の際には、誤記・脱字のミスがあったり、また、意図的に原本から外れて書き換えられたりされたが、こうして書き写された文書が、今度は他の写本に写される。この、伝言ゲームのようなシステムは、結果として、様々な異本(ヴァリアント)を生むこととなった。世界で最も現存する写本数の多い文書は新約聖書であるが、その異本も膨大で、例えばオリジナルであるギリシア語テキストの場合、ほぼ一節ごとに異なる読み(これを「異読」と呼ぶ)があるほどである。この多くの異読の中から、オリジナルの文章(本文)を見つけることが、本文批評の主たる目的である。
本文批評の方法論で、古典的な二つの原則がある。一つは、より難しい読みがより可能性がある(lectio difficilior lectio potior)、もう一つは、より短い読みがより可能性がある(lectio brevior lectio potior)というものであるが、実際には、どちらも当てはまらない場合が結構あり、不動の原則というわけでもない。