断章のグリム
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『断章のグリム』（だんしょうのグリム）は、甲田学人/著、三日月かける/イラストのライトノベル。電撃文庫刊。
目次 |
[編集] 既刊一覧
断章のグリム
- I 灰かぶり ISBN 4840233888 2006年4月25日 初版発行
- II ヘンゼルとグレーテル ISBN 4840234833 2006年7月25日 初版発行
- III 人魚姫・上 ISBN 4840236356 2006年12月25日 初版発行
[編集] 掲載一覧
- 電撃hp VOLUME43 2006 AUGUST p.218 DENGEKI MYSTERY&HORROR2006 断章のグリム断章 断章のアイソーポス
[編集] 概要・備考
- ＜神の悪夢＞の原理は、ユング心理学を根底に置いている。
- 著者は、用いる童話はグリムのものに限らないかもしれない、としている。実際、「断章のグリムⅢ」では人魚姫の副題（テーマ？）がつけられているが、人魚姫はアンデルセン童話である。このことで、あとがきでは自らを確信犯といっている。ちなみに、電撃hp Vol.43に掲載された短編『断章のアイソーポス』もイソップ寓話がモチーフ。
- 著者の前作『Missing』と比較されることが多々ある。
- 前作との直接的な繋がりは『ジョン・デルタ』という人物（ただし作中での立場は異なる）のみである。それに対する読者の見解の一つが、「デルタが作り出した何万もの平行世界の一つが今作の世界であり、また一つがMissingの世界であろう」というもの。ある種のパラレルワールドのようなものと見ている。
- 明確な敵と武器が登場したことで戦闘アクションとしての面が強まったため、前作よりも現実味は薄れたが、その分描写の残酷さは増した。
- 学校を舞台とし、特殊な能力を使って戦闘をすることから、『学園異能』ものに組み入れられている。しかし実際には、クライマックスの戦闘シーンを除き、所々に学校での描写がはさまれるのみである。
- 物語は「クリック？ クラック！」という文句から始まる。あとがきも同様の文句で始まり、最後に締めの文句が入る（なおⅢ巻のあとがきには締めの文句がない。著者曰く「まだお話は続くので」とのこと）。
[編集] ストーリー
この世界に存在する怪現象は、全て＜神の悪夢＞の欠片であり、この悪夢の泡は人間の意識に浮かび上がると、急速に人の恐怖や悪意や狂気と混ざり合い、現実世界を変質させながら溢れ出し、悪夢の物語を作り上げる。
普通を信条とする白野蒼衣と、過去を引きずりつつ悪夢と戦う時槻雪乃。人間の狂気が生み出した灰かぶりの悪夢の中で出会った二人が辿る物語。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] 登場人物
[編集] 主要キャラクター
- 白野蒼衣（しらの あおい） …＜目醒めのアリス＞
- 普通を信条とし、普通を愛する平凡な少年。自分がやらなくてもいいことがあったとすると、そのことは誰かがやるからいい、という干渉を避けることがある。私立典領（てんりょう）高校1年A組。真面目だがぼんやりしがちな性格で、少々天然が入っている。幼い頃に＜泡禍＞に遭い、＜断章＞を持った。その時、幼馴染みの葉耶（はや）を拒絶したことで死なせてしまったため、それ以来葉耶と似ている少女を放っておけず、また人の頼みを断るのも苦手。特に雪乃に対しては完全に葉耶と重ねて見ていて、もう死なせはしないと誓っているが、それは雪乃を侮辱する事にも繋がるため本人には言わず知らぬ振りをしている。
- Ⅰ巻の事件を経て、＜神狩屋＞の＜騎士＞として活動するようになるが、親に本当のことは言えないので「部活動（郷土史研究会）を始めた」ということにしている。親は、彼女ができたこと（思い込み）や部活に入って部活動に精を出していること、外泊するようになった（三巻時）などの事柄に、普通すぎて何にもない性格の蒼衣を見てきたせいか、安心している。
- ＜断章＞の＜効果＞は、『相手を全て“理解”する・または思いを“共有”した上で“拒絶”をすると、＜悪夢の泡＞が相手の元に全て還り、悪夢もろとも相手を破滅させる』。共感しやすい蒼衣が一たび拒絶をすれば敵味方関係なくあっさり殺してしまうため、扱いが非常に難しく危険。また理解・共有できるまでは完全に無防備という難点も。
- 時槻雪乃（ときつき ゆきの） …＜雪の女王＞
- ＜泡禍＞以来、非日常に身を置き続けることを望む少女。市立第一高校1年4組。両親と姉を＜泡禍＞によって失い、それ以来は伯父夫婦に引き取られる。伯父夫婦の希望によって一応高校に在籍しているものの、＜騎士団＞の活動のために成績は悪く、クラスでもイジメにあっている。人目を惹く、きつい印象の美貌。ポニーテールのようにまとめた髪を、ゴシックロリータのリボンで括っている。
- 誰に対しても冷徹で、仲良くしようとする者も全て拒否する。＜泡禍＞に復讐し続けることを何より望んでいて、自分が死ぬのも誰を殺すのも厭わないと決めているが、その決意はやはりどこかまだ不安定である。蒼衣ののんきな態度に、日々調子を狂わされている。そのせいか、蒼衣に対して「殺すわよ」と凄むこともしばしば。戦闘時にはゴシックロリータの衣装に身を包む（本人曰く戦闘服のようなもので、普段は鞄にしまって持ち歩いている）。
- ＜断章＞の＜効果＞は、『自分に痛みを与えて憎しみを思い出すことで灼熱の炎を具現化させる』。戦闘時にはカッターナイフで自身を傷つけて炎を顕現させている。ちなみに、その炎は気を緩めればすぐ消える。風乃の断章詩に同意すれば、威力の強い炎を得ることができる。＜断章＞で焼き殺してきた＜異形＞を思い出すため肉類が食べられず、ビタミン剤やサプリメントで栄養を摂取している。
- 時槻風乃（ときつき かぜの）
- 雪乃の姉で、雪乃の＜断章＞の一部。雪乃に取り付いている亡霊。雪乃とそっくりの美貌。かつて自らが生んだ＜泡禍＞の時、両親を殺し自分も死んだ。その際、惨劇を目撃した雪乃が＜断章保持者＞となった。あまりに純粋な悪意を常に湛えていて、その気配と微笑みは怖気を走らせる。雪乃と、＜断章＞を共有できる蒼衣にしか姿は見えないし声も聞こえない。妹以外で唯一人、自分を直接認識できる蒼衣のことを気に入っている。
- ＜泡禍＞の気配を何より敏感に察知することが出来、雪乃の了承を得て雪乃の苦痛を最大限まで吸い上げることで実体を持つこともできる。彼女の出す炎は何より強く、全てを一瞬で燃やし尽くせる。物事を負の方へ負の方へと運ぶのが好きで＜泡禍＞のこととなるととても楽しげ。なお、雪乃の＜断章＞やゴシックロリータの衣装、自傷癖、全てを拒絶する生活は全て風乃がオリジナルである。
- 田上颯姫（たのうえ さつき） …＜食害＞
- 中学生くらいの少女で、髪に付けているカラフルなヘアピンが特徴。＜神狩屋＞のお手伝いを住み込みでしている。＜断章＞により常に記憶を喰われ続けているので、物忘れがあまりに激しく、学校には行っていない。彼女が首から提げている手帳は、反復しない記憶を補うためのものだが、彼女がメモし忘れると役に立たない。身の上は悲惨だが、辛そうなところは決して表に出さない。頭の中には記憶を喰う無数の蟲がいて、耳栓を外せば外にも出てくる。
- ＜断章＞の＜効果＞は『記憶を喰う蟲を使うことで、人の記憶を消したり、一般人に立ち入って欲しくない現場に一般人を近付けないようにする』。
- 鹿狩雅孝（かがり まさたか） …＜黄泉戸契（ヨモツヘグリ）＞
- ＜断章騎士団＞の活動拠点＜ロッジ＞を兼ねる骨董品店＜神狩屋＞の店主。また＜ロッジ＞の世話役でもある。皆には神狩屋さんと呼ばれている。大学時代に勉強していたらしく、オカルト等に詳しい。また商売柄、骨の分析も出来る。困ったような笑顔と若白髪が特徴。過去遭った＜泡禍＞は、全ての＜騎士＞の中でもあまりに悲惨すぎるものらしい。
- ＜断章＞の＜効果＞は、『自分の血などを口にさせることで怪我を治癒できる』。しかし一度で大怪我を治そうとするのは勿論危険(一般人に使用したら“異形化”してしまう）。“決して死ねない”身体らしい。その身体を作ったのは『日本版の「人魚姫」』（内容：人魚姫を食べると、永遠の命を得ることができる）からだと推測される。
- 夏木夢見子（なつき ゆみこ） …＜グランギニョルの索引ひき＞
- 過去の＜泡禍＞により心を壊し、感情を一切出さない少女。＜神狩屋＞の書庫で絵本や童話に囲まれて暮らしており、一日中絵本を眺めている。常にぬいぐるみを抱きしめている。ビスクドールのドレスのような服を着て、また表情の動きは一切無いので、まるで本物の人形のよう。
- ＜断章＞の＜効果＞は『童話の形をとるほど大きな＜泡禍＞を感知し、その童話を予言する』。しかし童話形の＜泡禍＞自体が稀なので、本来は滅多に出ないらしいが、蒼衣と出会って以降頻繁に発動するようになる。雪乃はそのことを怪訝に思っているが、風乃に言わせると「アリス（蒼衣）とウサギ（夢見子）が出逢って何の物語も始まらないことはあり得ない」とのこと。
[編集] サブキャラクター
- 瀧修司（たき しゅうじ） …＜葬儀屋＞
- 関東圏で最も有名な＜騎士＞の一人。自分の＜断章＞と長く付き合いすぎたせいで、人間を逸脱しかかっているため、その気配は異様といえる。寡黙でほとんど喋らない。190cmを越える巨躯の持ち主。常に喪服を着ていて、車は黒塗りのバン。
- ＜断章＞の＜効果＞は『その手で切り刻んだ者を血の一滴まで再生させる』。世間に出せない死体を切り刻んで自宅に持ち帰り、再生できなくなるまで燃やして処理するのが彼の仕事である（なお神狩屋によると、本業は陶芸とのこと）。可南子とは恋人同士らしい。
- 戸塚可南子（とつか かなこ）
- 瀧の助手をしている。＜断章保持者＞であるかは不明。瀧と同じく常に喪服を着ている。
- ＜名無し＞（アノニマス） …＜名無し＞
- いつも色々な場所を飛び回っている、スマートな女性。『名前を喰って物の情報を隠蔽する』という＜効果＞の＜断章＞を持つ。自身も名前を喰われてしまったため名前が無く、情報が死んでいるので＜泡＞に関わる者以外には彼女の姿を認知することはできない。
- 群草宗平（むらくさ そうへい） …＜アンデルセンの棺＞
- とある海沿いの町にある＜ロッジ＞の世話役。しかし彼の＜ロッジ＞には＜騎士＞がいないため、＜神狩屋＞に応援を頼むことがあり、かねてから雪乃とも面識がある。頑固で無愛想だが、蒼衣や雪乃のような若輩者でも対等に扱う。神狩屋が＜断章＞を持った事件について知る数少ない人物の一人。
- ＜断章＞の＜効果＞は、『自分自身と死体を外部から完全に隔離する』。本人によると滅多に使うことはないらしい。
- 敷島譲（しきしま ゆずる）
- 蒼衣の友達。大きな身体でオーバーな仕草をする。明るく冗談好き。三巻では、オヤジくさい服の趣味でいじられている。
- 佐和野弓彦（さわの ゆみひこ）
- 蒼衣の友達。譲とは幼い頃からの幼馴染み。感情をあまり表に出さないアンニュイな性格。趣味は敷島いじり。
- 溝口葉耶（みぞぐち はや）
- 蒼衣の幼い頃の友達であり初恋の相手でもあった少女。家庭や周囲の環境のせいで幼稚園時からリストカッターで、蒼衣だけが心の寄る辺だった。破滅願望が強く、蒼衣とはいつもオカルティックな儀式めいた遊びばかりしていた。小学生の時に唯一の味方だった蒼衣に拒絶され、蒼衣の＜泡禍＞に巻き込まれて死んでしまう。
[編集] 今までに＜泡禍＞の中心となったキャラクター
- 杜塚眞衣子（もりづか まいこ）
- 不遇な家庭環境により『シンデレラ』の童話の形をした＜泡禍＞に捕まった、＜異端の灰かぶり＞。臆病で目立たぬ性格で、蒼衣が好きだった。
- 媛沢遥火（ひめざわ はるか）
- 過去に経験した事件が連鎖して『ヘンゼルとグレーテル』の童話の形をした＜泡禍＞に捕まった。＜グレーテル＞であり＜魔女＞。雪乃のクラスメイトで学級委員長をしており、周囲を寄せ付けない雪乃に唯一話しかけてくる生徒だった。
- 衣川遊美（きぬがわ ゆうみ）
- 『断章のアイソーポス』に登場。友達の持っていた雑誌に載っていた占いを実行してしまうことで天罰を受けてしまう。
[編集] 用語
- 神の悪夢の泡
- 人間の集合意識の底にいる＜神様＞が見た大きな悪夢が、切り離されて泡となり、小さく分かれながらそれぞれの人間の意識下に浮かび上がってくるもの。
- 泡禍（ほうか、またはバブル・ペリル）
- 人間の意識下に浮かび上がってきた＜悪夢の泡＞が、その人間が始めから持っていた恐怖と混ざり合い、更にその容量が人間の器の規定値を越えた時に外の周囲に溢れ出してしまって起こるもの。世で一般に怪奇現象と呼ばれている。泡が大きいと童話の形をとる（その原理はユング心理学に基づいている）。
- マリシャス・テイル
- ジョン・デルタという童話作家が書いた、＜悪夢の泡＞について記されている自費出版本。原題は『人に科せられし残酷なる運命と戦うべき騎士たちの為に記す，深みより来たる大いなる泡の秘密、あるいは悪意のある物語』という非常に長い名前。またの名を『悪意ある物語』。内容は、神の悪夢に関する幻想物語と、その不可避である厄災についての人類への警告、この恐ろしい事実を書き記す自分（著者）の罪の懺悔。断章騎士団にとっての聖典とも言える存在。
- 潜有者（インキュベーター）
- ＜神の悪夢の泡＞が意識下に浮かび上がった人間。童話の形をとるほど泡が大きい場合はほぼ助からない。
- 異形（デイジェネレーション）
- ＜泡禍＞に関わった人間の内、＜泡禍＞により人間の姿を逸脱し怪物化してしまったもの。周囲に＜泡禍＞を垂れ流す為、殺すしか措置は無い。
- 異端
- ＜泡禍＞の悪夢に耐え切れなくなり、発狂した＜潜有者＞や＜断章保持者＞。放っておけば悪夢が際限なく撒き散らされて被害が拡大するだけなので、＜異形＞と同様殺すしかない。
- 断章（フラグメント）
- ＜潜有者＞の内、＜泡禍＞から奇跡的に生還した者の意識下に残された泡の欠片。
- 効果（エフェクト）
- ＜断章＞を有用した時に表れる力。上手く使えば役立つものの、常に暴発して身を滅ぼす危険を孕んでいる。
- 断章保持者（ホルダー）
- ＜断章＞を意識下に残してしまった人間。いつ＜泡禍＞が再発するか分からない危険こそあるが、うまくコントロール出来るようになれば＜断章＞を役立てる事も出来る。
- 断章騎士団（オーダー・オブ・ザ・フラグメンツ）
- ＜保持者＞の中でも＜断章＞を使って＜泡禍＞に立ち向かい、闘い、この先の被害者を救うために活動する者の集まり。
- 騎士（オーダー）
- ＜断章騎士団＞に所属している＜保持者＞。
- 断章詩
- ＜保持者＞が＜効果＞を発動させる際に唱える、＜泡禍＞に遭った時の恐怖やトラウマなどを思い出しやすい言葉。この言葉を唱えると、自分の中の＜断章＞の力をより発揮しやすい。内容は個々で違っていて、唱える必要のない者は唱えない。
- ロッジ
- 全世界に散在する、＜騎士＞達の活動拠点。主にサポートや情報収集を担当する。＜神狩屋＞もその一つ。騎士のいないロッジも多く……
以上で、作品の核心的な内容についての記述は終わりです。
[編集] 関連項目
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