摩耶夫人
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摩耶夫人(まや-ふじん/ぶにん)は仏教の始祖釈迦の生母。摩耶とするのはサンスクリット語マーヤーの音写であるが、中国や日本ではこの名で信仰を集めた。
生没年不詳。コーリヤ族の出身とされ、釈迦族の王シュッドーダナ(浄飯王)に嫁して、前566年(前624年、前463年とする説もある)に釈迦を生み、釈迦の生後間もなく没した。釈迦は摩耶夫人の妹マハープラジャーパティーが後妻となって養育した。
仏書によれば、摩耶夫人は六本の牙を持つ白い象が胎内に入る夢を見て釈迦を懐妊したとされており、その出産の様も、郷里に帰る途中に立寄ったルンビニーの園で花を手折ろうと手を伸ばしたところ、右脇から釈迦が生まれたと伝える。これはリグ・ヴェーダに、人間は原人から生まれたが、政治家は胸脇から生まれたとされることから政治家すなわちクシャトリア階級の出産は脇から生まれたと表現されることによる。
『摩訶摩耶経』や『華厳経』入法界品などの仏典に天上の摩耶夫人はしばしば登場し、ことに『摩訶摩耶経』に収められている、釈迦が悟りを得て後、天上に上って摩耶夫人に報告したとされる説話は有名で、その帰途の様を「三道宝階」として仏教美術の好題材のひとつとなっている。
如上のインドにおける信仰が、中国・日本に伝播し、ことに日本においては日蓮宗の寺院で摩耶夫人を尊崇することが多い。一般には安産、子育て、婦人病などの利益をもたらすとされているが、明恵上人や泉鏡花のように幼時に母を亡くした「母恋い」のこころから信仰を行う人もすくなくない。