成形炸薬弾
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成形炸薬弾(せいけいさくやくだん)は、モンロー/ノイマン効果を利用する砲弾のこと。対戦車榴弾(たいせんしゃりゅうだん、HEAT (High Explosive Anti-Tank))とも呼ばれる。また、成型炸薬弾という表記も見られる。
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[編集] 概要
円柱状の炸薬の片側を漏斗状や半球状にへこませそこに金属板を装備し、へこませた側と反対側から起爆させることにより漏斗状に装着しておいた金属が液状化して数km/sの高速で飛び出し(メタルジェット)戦車などの装甲を貫徹する。弾体が回転していると、その遠心力でメタルジェットの速度が遅くなって拡散するため、滑腔砲や低初速のライフル砲からの発射が望ましいが、現在ではスリップリングの取り付けにより数rpm程度の回転数に押さえる事で、高初速大口径の戦車砲から発射された場合でも効果を減ずる事は無い。
HEATは現在の物で漏斗の直径の約5~8倍の、第二次世界大戦期のもので2倍程度の均質圧延装甲(RHA:Rolled Homogeneous Armor、スチールの合金)を貫通することが可能である。着弾時の速度によらず貫通力が一定なため対戦車ミサイルなどに用いられている。
理想的な弾頭に思えるが、メタルジェットの射程はわずか数十センチ程度であり、爆発反応装甲 (ERA) 等を用意せずとも装甲の数十センチ手前に鎖のカーテンをつるしておくだけで無効化できてしまう弱点がある。また、雨、雪、砂嵐等の悪天候の場合にも同様の事象が発生するので使用できない。
しかし、最近では二重の弾頭を備えたタイプや、大抵の兵器の弱点でもある上部を狙ったホップアップするものなどが採用され始めている。
中にはAPFSDSを応用した射程強化型も出ている(しかし、多目的砲弾としてのソフトキルが主な使用目的)。
現代においてHEATは対戦車用の砲弾として戦車に搭載されることは殆どなく、対戦車用の砲弾としてはAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)が搭載されることが多い。その理由としてHEATは数値上はAPFSDSと同程度の威力を示すが、現在の戦車に多く使われる複合装甲に対してはAPFSDSに比べ有効ではなく、また、全天候性に欠けるためである。
[編集] 多目的対戦車榴弾
近年の戦車では多目的対戦車榴弾 (HEAT-MP: High Explosive Anti-Tank Multi-Purpose) が装備されていることが多い。これは、弾体のメタルジェット形成を阻害しない個所に鋼球を貼付し、爆発時に周囲に飛散するようにしたもので、榴弾の代用としても使用される。ただ、同口径の榴弾と比較して威力で劣り(90式戦車の120mm滑腔砲のHEAT-MPと74式戦車の105mmライフル砲の榴弾が同程度)、砲の初速が高いため、危害範囲が円形ではなく漏斗状になるため通常の榴弾として運用しづらい側面がある。
[編集] 魚雷
アメリカのMk50や日本の97式魚雷などの最新型魚雷には、成形炸薬弾頭が用いられている。これは、潜水艦の耐圧船殻の強化・二重化に対抗するほか、魚雷の誘導精度の向上により船体への直撃が見込めるようになったためである。