宇宙の元素合成
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宇宙の元素合成(うちゅうのげんそごうせい、nucleosynthesis)とは、我々の宇宙に存在する元素の原子核が作られた物理過程を指す言葉である。核種合成という訳語を用いる場合もある。
我々の宇宙に存在する元素の合成過程は大きく二つの過程、すなわちビッグバンによる初期宇宙での元素合成と恒星内部での核融合による元素合成に分けられる。
[編集] ビッグバン元素合成
宇宙のごく初期において存在した元素は水素原子核-単体の陽子-と単体の中性子だけである。宇宙が十分に冷えてくると陽子同士が衝突して重水素が作られるようになる。重水素に陽子が捕獲されると三重水素もしくはヘリウム3(3He)となる。さらに陽子を捕獲してヘリウム4(4He)までは簡単に作られる。この中で水素が最も安定であり4Heも安定であるのでこの二つの元素がたまる。しかし質量数5の安定な元素は存在しないので宇宙の初期における元素合成はこれ以上進まない。ごく少数この先のLi(リチウム)やBe(ベリリウム)が作られるが質量数8の安定な原子核も存在しないのでこれ以上進むことはまずない。
[編集] 恒星での元素合成
一方大部分の元素は恒星の中で作られた。恒星における元素合成のプロセスは核融合によるものと中性子捕獲によるものに大別される。
H(水素)が集まっている太陽の様な恒星のなかでは核融合がメインのプロセスとなる。まず、Hが燃焼して4He(ヘリウム)が生成される。He同士が二つ集まると質量数 8 の 8Be(ベリリウム)が出来るが、これは不安定なのですぐに崩壊してしまう。しかしながら、恒星内部に He がたまっていき、十分大きな密度と温度になると、そのBeが崩壊するまでのわずかな間に第三のHeが融合して12C(炭素)を作ることが出来る(トリプルアルファ反応)。この C は安定であるので更にCとHeが融合してO(酸素)を作ったり、OとOが融合してSi(ケイ素)とHeを作ったりするなど、その後の核反応プロセスが続いていくことが可能になる。恒星の内部ではこれ以外にも幾つかの過程を経てFe(鉄)までの軽い元素が出来る。それは、FeとSiは全元素の中で最も安定な元素である為、恒星の内部ではこれ以上に重い元素は合成されないからである。
それに対して鉄より重い元素は中性子捕獲によって作られる。重元素が恒星の寿命程度の時間スケールでゆっくりと中性子捕獲を行う過程は Sプロセス(Slow Process)と呼ばれる。巨大な恒星がその寿命を終える時、超新星爆発(supernovae)を起こす。その際の膨大な圧力や熱といったエネルギーによってU(ウラン)以上の重い核までを一度に大量に生成する。この元素合成は一瞬でなされる為、Rプロセス(Rapid Process)と呼ばれる。中性子過剰核などの不安定核を経由する反応であるため、このプロセスの詳細なシナリオを解明するための実験が行われている。生成された重い核の多くは不安定ですぐに崩壊して(鉄などの安定な)軽い核へと移行するが、UやPb(鉛)の様な長寿命元素は現在でも地球に存在している。