婚姻の無効
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婚姻の無効(こんいんのむこう、Annulment)とは結婚が無効であるということを宣言する法的手順のことである。婚姻の無効は、法廷が結婚関係の終わりを認める離婚とは異なり、そもそもその婚姻関係が成り立っていなかったことを示すものである。
日本においては民法742条から748条に婚姻の無効についての条項がある。
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[編集] 婚姻の無効の法的基礎付け
婚姻の無効が宣言されるための条件は、各国の法体系によって異なり、偽証・重婚・精神的な原因による不能などが一般的な理由とされる。一般的には以下のような理由があげられることが多い。
- 配偶者が結婚時にすでに別人と結婚している場合(重婚)
- 配偶者が幼すぎる場合、また幼いに関わらず保護者のゆるしなく婚姻しようとした場合。
- 配偶者が結婚時にアルコール中毒や薬物中毒である場合。
- 配偶者が結婚時に精神的な理由により不能である場合
- 結婚が強制的にあるいは偽証にもとづいて行われた場合
- 配偶者に「結婚の能力」がない場合。(すなわち肉体的に性的不能である場合)
- 婚姻の当事者たちが法律によって結婚できない関係にある場合。(近親婚など)
[編集] カトリック教会における婚姻の無効
カトリック教会では伝統的に信徒の婚姻関係は神の前で結ぶものであり、それを解くこと、すなわち離婚はできないと教えてきた。にも関わらず特別な場合に限って婚姻の無効が認められることがある。ただ、カトリック教会において婚姻の無効は決して「離婚」の同義語ではない。カトリック教会が婚姻の永遠性をうたい離婚を認めないとしながら、婚姻の無効を認めていることが実質的な離婚への抜け道になっていると批判するものもある。とはいってもやはり婚姻の秘跡は離婚とはまったく異質なものである。すなわち、結婚が成立した上でその関係を解消する離婚とは異なり、婚姻の無効は結婚の成立の時点へさかのぼってその是非を問うからである。婚姻の無効を実質的な離婚の手段として濫用することは、カトリック教会における本来の意図から離れたものであるため、婚姻の無効はそう簡単には認められない。本来の意図は、カトリック教会が婚姻を(旧約聖書にあるように)神の前で「男女が一体になる」ものであることを示すものである。
「このような理由により、カトリック教会は教会裁判所による厳密な審査のあとで婚姻の無効(婚姻関係そのものが成立していなかったということ)を判断することができる。その場合、婚姻の無効が成立した二人は自由に結婚することができる。」(カトリック教会のカテキズム1629条)
カトリック教会の中でも、この婚姻の無効の成立によってその夫婦の間に生まれた子供が正式な子供と認められなくなるのではないかと危惧するものもあるが、教会法1137条は婚姻の無効が成立した場合でもその子供は正式な婚姻の下に生まれたものとして認められるとしている。
カトリック教会においての婚姻の無効の認定は、法的な離婚とは別種のものである。とはいっても教会が婚姻の無効を認めるほどのケースであれば、法的にも離婚が成立し、事実上離婚している場合がほとんどである。
もし結婚しようとする者に、かつて結婚した事実を示すものがあるなら、カトリック教会ではその婚姻の無効が認められない限り結婚式をあげることができない。それはどちらかがカトリック教会でないところで結婚していた場合でもそうである。カトリック教会では、洗礼を受けたもの同士が自由意志によって婚姻の関係を結んだ場合、決して解消することができないとみなしている。
[編集] ニューヨーク州における婚姻の無効
アメリカ合衆国、ニューヨーク州においても婚姻の無効が認められるが、その理由としてはほとんどが婚姻における偽証である。「偽証」とは被告が原告に対し、結婚を目的に意図的な偽証をすることをさしている。そして偽証は本質的な部分に関わるものであることが必要であり、被告の偽りの証言によって原告が結婚を決意したことが求められる。結婚に先立って行われた「偽証」および結婚後のその偽証が明らかになったということの証明として(たとえ被告が自ら認めた場合であっても)証人や客観的な証拠が必要となる。婚姻の無効の訴えが認められるのは三年間までである。これは婚姻の日時から数えてではなく、婚姻における偽証が明らかになってから三年間である。ニューヨーク州においてほかに婚姻の無効が認められる条件として以下のようなものがあげられる。
- 婚姻の未完成(夫婦間での性交渉がないこと)
- 別居状態
- 結婚後1年以内
- お互いの了解
- 重婚
最近の風潮として、離婚した芸能人や有名人が自らの経歴に離婚歴を残さないために「婚姻の無効」を申請する例がある。(2004年にブリトニー・スピアーズが申請、2005年にはレニー・ゼルウィガーも申請したといわれる。)
[編集] 歴史における婚姻の無効の例
歴史上でもいくつかの婚姻の無効をめぐる有名なケースがしられている。たとえば15世紀のフランス王ルイ12世は、ルイ11世の娘ジャンヌと結婚していたが、シャルル8世が男系後継者なしで死亡したことで王位に就いた。ルイ12世はブルターニュ公領を望み、シャルル8世の妻であったフランス王妃アンヌ(ブルターニュ公領相続人)と結婚するため、ジャンヌとの婚姻の無効を申請している。この許可を得るため、時のローマ教皇アレクサンデル6世に多くの好条件を申し出た。(たとえば教皇の庶子チェーザレ・ボルジャにヴァランス公位を授け、フランス王族と婚姻させること、さらにローマの守備隊を提供するなど)。このような贈賄により望みどおり婚姻の無効の認定を得ることに成功している。
また イングランドのヘンリー8世は生涯6度結婚したが、そのうち4度の結婚について婚姻が無効であったとした。最初の王妃キャサリン・オブ・アラゴンについては、「ヘンリー8世の兄アーサーの妻であったため、自分との結婚は重婚にあたる」として婚姻の無効を時のローマ教皇クレメンス7世に申請した。しかしキャサリンの甥にあたる神聖ローマ皇帝カール5世の横槍が入ったため認められなかった。怒ったヘンリー8世はローマ教皇と絶縁し、その後英国国教会が成立する端緒となった。こうしてローマ教皇庁の干渉を廃し、英国の教会を意のままに動かせるようになったことで、ヘンリー8世は教会にしか認められない婚姻の無効の認定を自由に受けられるようになった。以後、アン・ブーリン(後に処刑)、キャサリン・ハワード(後に処刑)、アン・オブ・クレーヴズについてそれぞれ婚姻の無効を理由に離婚・再婚を繰り返した。
[編集] 民法での規定
第742条により次の場合無効となる。
- 人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。
- 当事者が婚姻の届出をしないとき。ただし、その届出が戸籍法に定める方式を欠くだけであるときは、婚姻は、そのためにその効力を妨げられず、追認により有効となる場合がある。