国籍条項
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国籍条項(こくせきじょうこう、natinality clause)とは、公権力の行使又は国家意思の形成への参画に携わる公務員の任用資格の一つとして「日本国民に限る」というような日本国籍を要求する条項のことをいう。採用・昇任試験に際して日本国籍を要求するため、これらの試験の受験資格の有無として問題となることが多い。
外務公務員については、日本の対外的な主権を代表する権限を有することに鑑み、法律上、日本国籍が就任要件になっている(外務公務員法第7条第1項)が、その他の一般の公務員については、法律上は日本国籍を就任要件として明記していない。しかし、1953年3月25日に「法の明文の規定が存在するわけではないが、公務員に関する当然の法理として、公権力の行使または国家意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには、日本国籍を必要とするものと解すべきである」とする内閣法制局の見解(いわゆる「当然の法理」)が示され、国家公務員・地方公務員ともに、定型的な職務に従事する官職を除き、採用試験の受験資格につき日本国籍を要求するようになった(国家公務員につき、人事院規則八−一八第8条1項3号)。
このような見解が出されたのは、いわゆる内地の戸籍法の適用を受けない者につき、日本国との平和条約の発効により日本国籍を失うという行政解釈がされたことに伴い、外地出身の公務員の身分について疑義が生じたことが背景にあるとされている。この見解により、外地出身者は自動的に公務員身分を喪失することはないものの、一定の官職に就くことはできないこととされた。
その後、地方公共団体レベルでは国籍条項の撤廃の動きが広がっており、国レベルでも教育分野や医療分野、技術職については緩和されてきている。現在では自治体のほとんどが外国人に採用の道を開き、自治省(現総務省)も1996年11月「条件付き撤廃」を容認した。
いわゆる「当然の法理」は、法の下の平等(日本国憲法第14条)や職業選択の自由(憲法第22条)と、国民主権のそれぞれの原理が、外国人が公の意思形成や公権力の行使に当たる際に生じる対立関係における、限界的な法理上の解決として示された理論であると考えられている。
[編集] 管理職選考資格確認訴訟
保健婦として東京都に採用されていた在日韓国人2世が、1994年から1995年にかけて管理職への昇任試験を受験しようとしたところ、受験資格の国籍条項を理由に都が受験を拒否したのは不当だとして提訴した。1996年5月16日の判決で東京地裁は都の管理職受験拒否は違憲・違法ではないとした。1997年11月26日の判決で東京高裁は違憲・違法とした。2005年1月26日、最高裁大法廷は、地方公務員法において一般職への外国人採用が認められることを確認し、他方で管理職については「当然の法理」を援用し、公権力の行使又は公の意思の形成などに関わる蓋然性の高い管理職を日本人に限ることが直ちに違憲とはいえない旨を判示し、管理職への外国人登用の禁止が違憲とした原判決を破棄し、請求を棄却した。
[編集] 外部リンク
- 人事院規則八−一八(採用試験)(法令データ提供システム)