危険物取扱者
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
危険物取扱者(きけんぶつとりあつかいしゃ、英Hazardous Materials Officer)は、危険物を取り扱い、またはその取扱いに立ち会うために必要となる日本の国家資格である。危険物そのもの及び資格についての詳細は消防法及びその下位法規により規定される。危険物取扱者の資格保有を証明するため都道府県知事から交付される公文書を危険物取扱者免状という。資格取得のための試験の実施は、都道府県知事からの委託を受けた財団法人消防試験研究センター(各都道府県支部)が実施する。1971年(昭和46年)5月31日まで(旧制度時代)の呼称は危険物取扱主任者。
日本以外の多くの国にも、同様の制度・規制が存在する。
目次 |
[編集] 分類
- 甲種(すべての種類の危険物の取扱いと立会いができる)
- 乙種(第1類~第6類のうち自分が免状を持っている類の危険物の取扱いと立会いができる、危険物の詳細は危険物参照)
- 乙種第1類 - 酸化性固体(塩素酸カリウムなど)
- 乙種第2類 - 可燃性固体(マグネシウムなど)
- 乙種第3類 - 自然発火性物質及び禁水性物質(ナトリウムなど)
- 乙種第4類 - 引火性液体(各類の中で取得者数及び社会的需要が最も多い。以下乙4と略記)
- 乙種第5類 - 自己反応性物質(ニトログリセリンなど)
- 乙種第6類 - 酸化性液体(過酸化水素など)
- 丙種(第4類に属する危険物のうちガソリン、灯油、軽油など指定されたものの取扱いができる。立会いはできない)
有資格者が作業に立ち会うことにより、無資格者も危険物の取扱いができるようになる。これを利用してセルフガソリンスタンドが運用できている。セルフスタンドでは、事務所内でモニターカメラなどにより甲種か乙種4類の危険物取扱者資格保持者の遠隔監視が行われている。危険が発生すれば遠隔ででもバルブ閉鎖などの措置がとられることになっている。
[編集] 乙種第4類
最も必要とされるのは、「乙種第4類危険物取扱者」、略称「乙4」である。これは第4類である引火性液体、すなわちガソリンや灯油などの取扱いあるいは立会いができるため、ガソリンスタンドでは必須の資格である。また、タンクローリーで引火性液体を輸送する場合、運転免許のほかに運転者自身が危険物取扱者の資格を有するか、危険物取扱者の有資格者を同乗させる必要がある。
[編集] 試験
試験は消防法に基づく国家試験として、委任を受けた消防試験研究センターが実施する。全国で年間2回から4回程度、需要の多い乙種第4類だけは東京でほぼ毎月行われている。受験地の制限はなく、全国どこで受験しても差し支えないが、合格した場合の免状申請先は受験地の都道府県知事(手数料として貼付する都道府県収入証紙も受験地のもの)となるので注意が必要である。甲種は受験資格の制限があるが、乙種・丙種は誰でも受験することが可能である。乙種第1類から第6類まで全ての試験に合格すれば、甲種取扱者同様(完全に同等ではない。危険物保安監督者の節参照)にすべての危険物を取り扱うことができるため、甲種の受験資格のない人がこの方法で全類取得するケースもある。
試験は3科目あり、所定の時間内にすべての科目を受験する(受験者が自由に時間配分できる)。ただし、既所持資格などにより一部科目の免除制度がある(後述)。
合格点は、科目免除の有無にかかわらず受験するすべての科目それぞれの正解が60%以上あることである。この場合、免除された科目・問題は正解率算出の分母・分子には含まれず、実際に解答範囲となった部分のみで正解率が計算される。
[編集] 甲種
5者択一で、試験時間は2時間30分
- 危険物に関する法令:15問
- 物理学及び化学:10問
- 危険物の性質並びにその火災予防及び消火の方法:20問
[編集] 乙種
5者択一で、試験時間は2時間
- 危険物に関する法令:15問
- 基礎的な物理及び基礎的な化学:10問
- 危険物の性質並びにその火災予防及び消火の方法:10問
[編集] 丙種
4者択一で、試験時間は1時間15分
- 危険物に関する法令:10問
- 燃焼及び消火に関する基礎知識:5問
- 危険物の性質並びにその火災予防及び消火の方法:10問
[編集] 一部免除
- 既に乙種の一部の類の免状を所持する者が未取得の他の類を受験する場合は、試験科目の「危険物に関する法令」と「基礎的な物理学及び基礎的な化学」の全部の問題が免除となり、試験時間は35分となる。また、火薬類保安責任者の免状を所持している者が乙種第1類あるいは乙種第5類を受験する場合は、試験科目の「基礎的な物理学及び基礎的な化学」のうち6問と「危険物の性質並びにその火災予防及び消火の方法」のうち5問が免除され、それぞれ4問と5問となり、「危険物に関する法令」15問とあわせて試験時間は1時間30分となる。(上記の両方の免除条件を満たす場合は、それらの対象部分は全て免除され、試験科目は「危険物の性質並びにその火災予防及び消火の方法」前半5問だけとなる。試験時間は35分)
- 丙種は、5年以上消防団員として勤務し、かつ、消防学校の教育訓練のうち基礎教育、普通教育又は専科教育の警防科を卒業した者の場合、「燃焼及び消火に関する基礎知識」の試験科目が免除され、試験時間は1時間となる。
[編集] 乙種の複数類同時受験
乙種の一部の類の免状を既に所持する者が、乙種の未取得の類の受験を希望する場合は、都道府県によっては同一試験日に最大3つの類までを同時受験することができる(受験料は各類ごとに必要)。法令に基づく国家試験ではあるが、制度の詳細が都道府県知事(実質的には消防試験研究センター)に委任されているため、ある程度の地域別の裁量(差異)が許されており、消防試験研究センターの支部(2006年の例では兵庫県支部)によっては複数類同時受験を認めないところもある。このような場合に、短期間での複数類取得を目指すときは、他の都道府県で受験することが必要となる。この同時受験により複数の類に同時合格した場合については、甲乙丙すべてが1枚の免状に併記される形状(つまり申請する免状の枚数自体は1枚)であるが、免状申請手数料は当該合格科目の数だけ必要となる(送料等は1枚分)。
[編集] 受験資格
- 甲種
- 大学等(大学、短期大学、高等専門学校及び大学、短期大学、高等専門学校の専攻科、外国における大学等、防衛大学校、職業能力開発総合大学校、職業能力開発大学校、職業能力開発短期大学校、その他)において化学に関する学科等を卒業した者
- 大学等(大学、短期大学、高等専門学校、大学院、放送大学,放送大学大学院、大学、短期大学、高等専門学校の専攻科、防衛大学校、防衛医科大学校、職業能力開発総合大学校、職業能力開発大学校、職業能力開発短期大学校、水産大学校、海上保安大学校、気象大学校、外国における大学等、その他)において化学に関する授業科目を15単位以上修得した者
- 乙種危険物取扱者免状を有する者(乙種危険物取扱者免状の交付を受けた後、危険物製造所等における危険物取扱の実務経験が2年以上の者)
- その他の者(修士、博士の学位を授与された者で化学の事項を専攻した者(外国の同学位も含む。)、工業の教科に関する高校の教員の普通免許状を有する者(教科の専攻科目が化学に関するものであるもの))
- 乙種
- 指定なし
- 丙種
- 指定なし
また、免状交付についても、受験資格があり合格した者は誰でも免状交付を受けることができる。
[編集] 保安講習
危険物取扱作業に従事している有資格者は、法令に基づく保安講習を3年に1回は受ける必要がある(実務に就いていない場合は受講の必要はない)。
実務に就いていなかった者が従事することになった場合は、その日から1年以内に受講する必要がある。ただし、以前に保安講習を受けたことがある場合は、間隔が3年より開かないように受講しさえすれば充分である(新たに免状の交付を受けて従事することになった場合も、交付日から3年以内に最初の保安講習を受ければよい)。
[編集] 免状の写真の書換え
- 10年に1回、実務に就く就かないに関係なく写真の更新(を伴う免状の再発行)が必要である。写真の更新を怠っても直ちに失効するわけではないが、消防法関連法令の規定の建前上(あくまで理論上のものではあるが)当該写真更新の懈怠が悪質とみなされるなど最悪の場合には「免状返納命令」が発せられる可能性が皆無ではないので、期限内の写真更新が望ましいことはもちろんのこと、いわゆるペーパー危険物取扱者がうっかり更新を失念していた場合でも期限超過を気づいた時点で、その旨を消防試験研究センターに説明して速やかに手続を取ることが肝要である。
[編集] 危険物保安監督者
- 意義
- 政令に定める製造所等の所有者等は危険物の取扱い作業に関し、その危険物の取扱いのできる危険物取扱者の中から危険物保安監督者を選任し、保安の監督をさせなければならないこととなっている。危険物保安監督者を選任した時は、遅滞なく、市町村長に届けなければならず、解任した時も同様に行う。
- 資格
- 一定規模以上あるいは特定の危険物施設においては、危険物保安監督者を定めなければならないことになっている。
- 甲種危険物取扱者
- 6か月以上の危険物取扱の実務経験を有すること
- 実務経験がどの類におけるものであるかにかかわらず(6か月の実務経験ひとつで)他の類も含めたいずれの危険物保安監督者にもなることができる。例えば実務経験を第4類のみで有していた場合、第4類の危険物保安監督者はもちろんのこと、他の第1,2,3,5,6類の危険物保安監督者になることもできる。
- 6か月以上の危険物取扱の実務経験を有すること
- 乙種危険物取扱者
- 該当する類の免状交付を受けていること
- 該当する類ごとに6か月以上の危険物取扱の実務経験を有すること
- 類ごとに実務経験が必要となる。例えば実務経験を第4類のみで有していた場合、仮に免状上で他の類(第1,2,3,5,6類)を有していても第4類以外の危険物保安監督者となることはできない。これが甲種取得者と乙種全類取得者の決定的な違いとなる。
- 丙種危険物取扱者
- 選任資格なし
- 甲種危険物取扱者
- 一定規模以上あるいは特定の危険物施設においては、危険物保安監督者を定めなければならないことになっている。
- 責務
- 危険物取扱者に課せられた責務に加え、危険物の取扱作業に関して保安の監督をする場合は、誠実にその職務を行わなければならない。
- 業務
- 製造所等の所有者等が危険物保安監督者に行わせなければならない業務は次の通りである。
- 1.危険物取扱作業場所での作業者に対して、貯蔵、取扱いに関する基準、予防規程等に定める保安基準に適合するように必要な指示を与えること。
- 2.火災等発生時に作業者を指揮して応急処置を講ずることと直ちに消防機関へ通報すること。
- 3.危険物施設保安員を置く施設の場合は危険物保安員への必要な指示をし、危険物施設保安員を置かない施設の場合は次の業務を行うこと。
- ア.構造、設備の技術上の基準に適合するよう施設の維持のための定期点検及び臨時点検の実施、記録及び記録の保存をする。
- イ.施設の以上を発見した場合の連絡及び適当な措置を行う。
- ウ.火災の発生又はその危険が著しい時の緊急措置をする。
- エ.計測装置、制御装置、安全装置等の機能保持のための保安管理をする。
- オ.その他施設の構造及び設備の保安に関し必要な業務
- 4.火災等の災害防止のため隣接危険物施設等の関係者との連絡を保つこと。
- 5.前記の他、危険物取扱作業者の保安に関し必要な監督業務を行うこと。
- 製造所等の所有者等が危険物保安監督者に行わせなければならない業務は次の通りである。
- 解任命令
- 市町村長等は、危険物保安監督者が消防法あるいは消防法に基づく命令の規定に違反した時、又はその業務を行わせることが公共の安全の維持もしくは災害の発生防止に支障を及ぼす恐れがあると認める時は、製造所等の所有者、管理者又は占有者に対し、危険物保安監督者の解任を命ずることができる。
[編集] 危険物保安統括管理者
- 意義
- 大量の危険物を貯蔵し、取扱う製造所等は、統合的な保安管理を充実し効果的な保安の活動体制をとる必要がある。指定数量が3000倍以上の第4類の危険物を取扱う事業所の内、一定以上の規模のものについては、事業所全般における危険物の保安に関する業務を統括・管理する者、いわゆる危険物保安統括管理者を定めて、遅滞なく届け出ることが義務付けられている。また、解任した時も同様に届け出なければならない。
- 資格
- 危険物保安統括管理者は、その事業所の事業に関して統括責任を有する者である。
- 業務
- 危険物保安統括管理者は、その事業所における危険物及び危険物施設の保安業務を統括的に管理し、事業所全体としての安全を確保するものである。
- 解任命令
- 市町村長等は、危険物保安統括管理者が消防法あるいは消防法に基づく命令の規定に違反した時、又はその業務を行わせることが公共の安全の維持もしくは災害の発生防止に支障を及ぼす恐れがあると認める時は、製造所等の所有者、管理者又は占有者に対し、危険物保安統括管理者の解任を命ずることができる。
[編集] 危険物施設保安員
- 意義
- 製造所等において危険物保安監督者の下で、その構造及び設備に係る保安業務を行う者であり、その製造所等の所有者、管理者又は占有者にその選任が義務付けられている。
- 資格
- 選任されるに当っては特に資格は要しない。適任又は解任に当っての届出の制度は特に定められていない。
- 業務
- 製造所等の所有者等が危険物施設保安員に行わせなければならない業務は次の通りである。
- 1.施設の維持のための定期点検、臨時点検の実施、記録及び記録の保存
- 2.施設の異状を発見した場合の危険物保安監督者等への連絡の措置
- 3.火災が発生した時又は火災発生の危険が著しい場合の応急措置
- 4.計測装置、制御装置、安全装置等の機能保持のための保安管理
- 5.上記の他、施設の構造、設備の保安に関し必要な業務
- 製造所等の所有者等が危険物施設保安員に行わせなければならない業務は次の通りである。