ヴァージニア級原子力潜水艦
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ヴァージニア級原子力潜水艦 | |
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艦級概観 | |
艦種 | 攻撃型原子力潜水艦 |
計画番号 | |
艦名 | 州名。1番艦はバージニア州に因む。 |
同型艦 | |
前級 | シーウルフ級原子力潜水艦 |
次級 | - |
性能諸元 | |
排水量 | 水中:7,800t |
全長 | 114.8m |
全幅 | 10.4m |
吃水 | 9.3m |
予備浮力 | |
機関 | 原子力ギアード・タービン推進 GE S9G型加圧水型原子炉×1基 蒸気タービン×2基/1軸推進、 40,000SHP |
電池 | |
最大速力 | (公表値):水中25kt+、(推定値):水中34kt |
潜航深度 | |
航続力 | |
乗員 | 134名 |
探索装置 | |
武装 | 533mm魚雷発射管×4 魚雷・ミサイル(トマホーク巡航ミサイル、 ハープーン)×38、または機雷。 無人潜水艇の使用も可能 トマホーク用垂直発射管(VLS)×12基 |
ヴァージニア級原子力潜水艦(-きゅうげんしりょくせんすいかん Virginia Class)は、アメリカ海軍が現在調達中の攻撃型原子力潜水艦。艦名はアメリカ合衆国の州名がつけられている。2004年10月に1番艦が就役した。
目次 |
[編集] 開発の経緯
冷戦末期アメリカ海軍は、主力攻撃型原潜であるロサンゼルス級原子力潜水艦の後継としてシーウルフ級原子力潜水艦を開発した。シーウルフ級はソ連潜水艦に対抗すべく攻撃能力、静粛性、速力、潜航深度などすべての面において最高レベルの性能をもった潜水艦として開発されたが、その反面高価なものとなってしまった。そのため、冷戦の終結による予算縮小もあって、建造は3隻で打ち切られた。
当初からシーウルフ級は高価であるため量産は不可能と考えられ、シーウルフ級より性能を若干落とし価格を下げた安価な潜水艦でロサンゼルス級を代替することが計画され、計画名もセンチュリオンと名付けられた。これがヴァージニア級の原点となる。センチュリオンは冷戦時にはそれほど注目されていなかったが、冷戦終結に伴う予算縮小が現実化するにつれ注目されることとなり、1992年には計画名がNSSN (New Attack Submarine) へ変更され本格的な開発が開始された。
NSSNは、静粛性はシーウルフ級並ながらロサンゼルス級より一回り小さい船体で、速力をはじめとした能力も若干低下させた潜水艦が予定されていた。だが、後に沿岸浅海域(littoral area)からの陸上攻撃能力を重視した米海軍の新戦略である「from the sea」に基づく陸上攻撃能力の向上やSEAL輸送能力の付与などにより、最終的には静粛性はシーウルフ級並、その他の面はロサンゼルス級以上シーウルフ級以下の性能を持つ潜水艦となった。結果として価格も高騰してしまい、調達性が低下してしまったのは皮肉な話である。
[編集] コスト削減策
冷戦終結後に登場したヴァージニア級には、かつてほどの潤沢な予算を振り向けるわけにはいかなくなった。そこで、コスト削減に意が用いられることになった。
その例の一つが民生品転用(COTS: commercial off the shelf)と呼ばれる手法で、純粋に軍用に開発されたのではない、一般に使用されている商用民生品を導入するというものである。民生品(特にコンピューター)は、軍用に比べ安価で性能がいいものの、信頼性に欠けるため、使用する場合は交換を容易にするなど、メンテナンスのための配慮が欠かせなくなる。ヴァージニア級では、船体をパーツの交換が容易なモジュール構造とすることで、民生品の信頼性の低さを補っている。また、ヴァージニア級は長期にわたっての建造が予定されており、その途中での装備変更も計画されているが、上記の様にモジュール構造を用いることでアップグレードも比較的簡単に行うことができるとされている。
また、原子炉の核燃料棒の寿命は艦の寿命と等しいものを採用した。いままでの原子力潜水艦では、おおむね10年ほどで核燃料棒の交換をしなければならず、そのつど艦体を切断しての大がかりな工事が必要であった。このような工事それ自体もさりながら、工事に必要な長期のドック入りによる空白を埋めるために、代艦をも一定数準備しなければならず、これらがコスト上昇の大きな要因となっていた。ヴァージニア級においても、ドック入りを伴う整備は不可欠であることは変わらないが、特にコストの大きい核燃料棒交換工事の必要を事実上なくしたことによる、コスト節減が期待されている。
[編集] 船体の構造と特徴
[編集] 構造
船体内部は前から順にソナー、トマホーク用垂直発射管、発令所、居住区、原子炉区画、機械室と後期型ロサンゼルス級と基本的には変わっていない。セイルは後期型ロサンゼルス級やシーウルフ級と同じように潜望鏡や対水上レーダー、シュノーケルなどが装備され潜舵を装備していない。ただ、潜望鏡は非船殻貫通型と呼ばれる新しい仕組みが採用されている。この非船殻貫通型潜望鏡は、簡単に言うと、テレビカメラで外部を撮影し、その信号を発令所のディスプレイに送信するというものである。従来の光学的な潜望鏡と異なり船殻に穴を開けて潜望鏡を設置する必要がなくなるため、耐圧船殻の開口部を減らし、強度を増すことが出来る。
スクリューは静粛性に効果のあるシュラウドリング(一種のカバー)を取り付けており、スクリュー形状も変わったとも言われるが、形状が確認できる確かな情報源はない。ソナーは従来と同じように艦首に装備する球状アレイと曳航式アレイに加えて、船体側面に装備する大型のフランクアレイが追加された。また、沿岸浅海域での活動を念頭に、高周波ソナーが強化されている。船体はアクティブソナー対策としてソナー部分など一部をのぞき吸音タイルで覆われているが、これはロサンゼルス級以来行われているのと同様である。
[編集] 兵装
ヴァージニア級の兵装は533mm魚雷発射管4門にトマホーク用VLS12基で後期型ロス級と同様である。シーウルフ級の660mm魚雷発射管8門と比べると戦闘能力は下がったかのような印象を受けるかも知れないが、魚雷発射管室内の弾庫の搭載数(魚雷・ミサイル38発)とトマホーク用VLSを合わせればシーウルフ級と同数である。なお、魚雷発射管は、従来と同様に機雷の使用も可能である。
[編集] SEAL支援装備
ヴァージニア級はSEALの活動が開発時から想定された最初の艦で、最大40人程度のSEALを輸送することができる。船体上部にはSEAL輸送用の小型潜水艇ASDS (Advanced SEAL Delivery System) の装備が可能で、直接アクアラングを装備したSEALが出入りするためのハッチも備えている。
[編集] 同型艦
2005年現在、ヴァージニア級は調達中である。しばらくの間は年1隻ずつ、その後年2隻ずつ調達し、最終的に30隻程度が導入される予定である。
- ヴァージニア (USS Virginia, SSN-774):就役中
- テキサス (USS Texas, SSN-775):就役中
- ハワイ (USS Hawaii, SSN-776):2007年就役予定
- ノースカロライナ (USS North Carolina, SSN-777):2006年就役予定
- ニューハンプシャー (USS New Hampshire, SSN-778):2010年就役予定
- ニューメキシコ (USS New Mexico, SSN-779):2010年就役予定