ミスファイアリングシステム
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ミスファイアリングシステム(miss-firing system)とは、自動車のエンジン制御システムの一つ。ミスファイア、いわゆる失火を意図的に起こすシステムであり、これによりスポーツ走行において有利な効果を発生させる。
ただし、名称は同じでも、その使用される状況によって全く異なる内容の装置を意味する。
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[編集] 使用状況と目的
[編集] ターボラグ解消の目的
アクセルオフ時にタービン直前の排気管内(エキゾーストマニホールド内)で未燃焼ガスを燃焼させることでタービンを回し、常にブーストをかけ続けることでターボラグを解消する装置のこと。通常は、こちらのシステムの事を指す場合が多い。
主に中低速の加速力を重要視するWRC等のラリー競技やダートトライアル競技、またジムカーナなどの低速重視やドラッグレースなどのゼロ加速でその有効性を発揮させる事が多く、多くの中低速競技車両およびドラッグマシンがこの機構を採用している。ミスファイアリングシステムはシフトチェンジや減速などのアクセルオフ時にも燃料を噴射し続け、未燃焼ガスを作り出し、シリンダー内で爆発させずそのままエキゾーストマニホールドまで送り出す。未燃焼ガスはエキゾーストマニホールドの熱によって燃焼を始め、タービンの回転が落ちることなくアクセルを踏める為、通常のターボ車よりも加速力を得られる。
[編集] リミッターとしての作動
回転数が危険域に入った際、点火をカットすることによりミスファイヤーさせる。市販車のリミッターには燃料カット方式が使われるのだが、ハイチューンの車になると燃料がカットされた瞬間に希薄燃焼→ノッキング→エンジンブローという悪循環を招く場合があるために、燃料を供給し、シリンダー冷却をさせながら、点火させないで回転数を抑制させる方法が取られる。
またこの方法はシフトアップ時に連動させることにより、アクセルを踏みっ放しでシフトアップする事を可能に出来る。
ピットインが必要となるレースカーの殆どに、ボタンを押すことによりリミット速度以上にならないように点火カットする機構が備え付けられている。
[編集] 名称と装置の作動
名称としては富士重工業がミスファイアリングシステム、トヨタ自動車がアンチラグシステム(フレッシュエアシステムとも)、三菱自動車では2次エア供給システム(PCCS)と各社によって呼び方と若干の装置の違いはあるものの総称してミスファイアリングシステムと呼ばれることが多い。 装置についてはミスファイアリングシステムとアンチラグシステムについては前述した通りであるが、2次エア供給システムについてはスロットルからエキゾーストマニホールドのルートとは別にパイプを設け、アクセルオフ時にスロットル手前まで来ているタービンやインタークーラーで加圧された空気を、ブローオフバルブが開く前に2次エアパイプに導き、そのままエキゾーストマニホールド内に直接送り込む事で未燃焼ガスを作り出さずとも排気ガスとなったものでも燃料を噴射し続けることによって再度燃焼させることが出来る。
なお、このシステムはエキゾーストマニホールド内である1次排圧で燃焼させないとタービンが回らずに意味がない。タービン以降である2次排圧で燃焼させても意図的にアフターファイアを作り出しているのと同義であり、触媒装置(キャタライザー)などの排気系パーツへのダメージが高く、使用し続けていることで車検不適合な状態になる事が多い。また音に関してはポンポンと太鼓を叩いたような音からバンバンとそのまま爆発音といったような感じのものなどもある。
[編集] トラクションコントロールの目的
F1等のサーキットレースで使用される車においては、コーナリング時に過剰なトラクションがかかることを防ぐために、エンジンのうち何気筒かの点火をカットすることでエンジンの回転数を落とさずに一時的にエンジンパワーを下げるシステムのことを指す。いわゆるトラクションコントロールシステムの一形態である。