ベンゾピレン
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ベンゾピレン | |
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IUPAC名 | Benzo[pqr]tetraphene |
別名 | ベンゾ[a]ピレン |
分子式 | C20H12 |
分子量 | 252.3 g/mol |
CAS登録番号 | [50-32-8] |
形状 | 黄色の結晶性固体 |
密度と相 | 1.4 g/cm3, |
相対蒸気密度 | 8.7(空気 = 1) |
融点 | 179 ℃ |
沸点 | 310~312 ℃(1.3kPa) |
昇華点 | {{{昇華点}}} ℃ |
SMILES | c1\cc2\cc/cc3ccc4 cc5ccccc5c1c4c23 |
出典 | 国際化学物質安全性カード |
ベンゾピレン(benzopyrene)とは、化学式C20H12で表される、5つのベンゼン環が結合した分子。300℃から600℃の間で不完全燃焼する。コールタールや自動車の排気ガス(特にディーゼルエンジン)、タバコの煙、焦げた食べ物の一部などに含まれる。
強い発がん性を持ち、体内で酸化されると近くのDNAを傷つけ、DNAを破壊された細胞はガン細胞へと変化する。IARCの発がん性評価では、グループ2Bの「発がん性の可能性が高い物質」に分類されている。
1930年にコールタールから主要発がん性物質として単離され、1977年に発がん機構が解明された。
ベンゾピレンと癌の関係について、長年様々なことが研究されてきた。人におけるがんの発生がベンゾピレンに由来するものだと証明するのは非常に難しいことだった。カンザス州立大学の研究者が喫煙者におけるビタミンAと肺気腫との関連性を証明した。ベンゾピレンがビタミンAを欠乏させることがラットを用いた実験で判明したため、ベンゾピレンと肺気腫との関連性も証明された。
1996年10月18日、ベンゾピレンを含んでいるタバコの煙を吸うことが肺がんの原因となるということが初めて証明され、論文が公開された。喫煙によりベンゾピレンは肺の細胞に対して遺伝子に対する損傷を与える。そして悪性の肺腫瘍にかかっている肺の細胞内のDNAに対しても同様の損傷が観察できる。
2001年、アメリカ国立癌研究所は十分に焼いたバーベキュー、特にステーキ、鶏肉の皮、そしてハンバーガー等の食べ物にも一定量のベンゾピレンが含まれているという報告を出した。日本の研究者は、焼いた牛肉に変異原が含まれており、DNAの化学構造を変化させる可能性があるとの報告を出した。
[編集] 発がん機構
ベンゾピレンジオールエポキシドは3つの酵素反応を経て発がん性を誘発させる物質となる。ベンゾピレンはまずシトクロムP4501A1により(+)-ベンゾ[a]ピレン-7,8-オキシド及び他の生成物となる。これがエポキシド加水分解酵素による代謝により(-)-ベンゾ[a]ピレン-7,8-ジヒドロジオールとなる。これがシトクロムP4501A1と反応しベンゾピレンジオールエポキシド((+)-7R,8S-ジヒドロキシ-9S,10R-エポキシ-7,8,9,10-テトラヒドロベンゾ[a]ピレン)を生成させるが、これが発がん性物質となる。
エポキシ酸素の電子を偏った状態で保持しているエポキシドの2つの炭素は求電子的である。このためこの分子がDNAにインターカレートし、求核性のグアニン塩基のN2位と共有結合を形成する。X線結晶構造解析により、結合形成がDNAを変形させていることが示されている。これが通常のDNA複製過程においてエラーを引き起こし、がんの原因となる。この機構はグアニンのN7位に結合するアフラトキシンのものと似ている。
[編集] 参考文献(英語)
- "ベンゾピレンとビタミンA欠乏の関連性について"
- "バーベキューとベンゾピレン"
- "喫煙者におけるベンゾピレンによる肺がんについて"
- "焦げたトースト中のベンゾピレンの量について"
- "ベンゾピレンのDNAインターカレート"
- "ベンゾ[a]ピレン-7,8-ジオール-9,10-エポキシドとN2-デオキシグアニジンとの付加化合物の結晶・分子構造"
[編集] 関連項目
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