アフォーダンス
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アフォーダンス(affordance)とは、空間において、物と生体との間に出来する相互補完的な事態のこと。アメリカの知覚心理学者ジェームズ・ギブソンによる造語で、生態光学、生態心理学の基底的概念である。
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[編集] 概論
元々は、ギブソンが1940年代から関わったパイロットの訓練に関する研究から始まり、1966年、自身の著『生態学的視覚論―ヒトの知覚世界を探る』において提唱されたもの。これは、(他動)afford(~を与える)に接尾語-anceを加えて名詞、形容詞化した造語で、これまでの知覚、認知とは異なった見地から物と人との関わりを定義する。
アファーダンス概念の起源はゲシュタルト心理学者クルト・コフカの要求特性(demand character)の概念、あるいは同じゲシュタルト心理学者クルト・レヴィンの誘発特性(invitation character)ないし誘発性(valence)の概念にあるとギブソンは自ら述べている。さらに遡って生物学者ユクスキュルの環世界概念との類縁性を見て取ることもできる。
1988年、ドナルド・ノーマンはデザインの認知心理学的研究の中で、人間の主観性に依存するものとしてアフォーダンスを再定義した。この立場においては、人間の主観に作用するひとつの性質として理解される。ただし、この立場は、必ずしもギブソンと一致したわけではなかったという。
[編集] 客観的アフォーダンスと主観的アフォーダンスについて
[編集] 客観的アフォーダンス
ジェイムズ・J・ギブソンによるアフォーダンスには次のような性質がある。
- 潜在するすべての動作可能性
- 客観的に計測できる
- 人間の持つ、可能性を認知する能力から独立している
- 動作主の能力に依存する
[編集] 主観的アフォーダンス
客観的アフォーダンスに反論の立場をとったドナルド・ノーマンは、1988年、アフォーダンスについて次のような性質を加え、アフォーダンスは主観的なものであるとした。
- アフォーダンスは、動作主の目的や計画、確信、興味などに依存する。
[編集] 両アフォーダンスの性質
次の例を考える。 「『1.2mの高さがある何段かの段差』は、はいはいをする赤ちゃんに対して、『上る』という動作をアフォードしない」
[編集] 客観的アフォーダンスの考え方
「この『段差』は、赤ちゃんがそれを認知するかしないかにかかわらず、『上る』その他の動作可能性をすべて示しているが、しかし赤ちゃんの能力を超越するものである。よって赤ちゃんがこの『段差』を『上る』ことはない」
[編集] 主観的アフォーダンスの考え方
「『上る』という経験の無い赤ちゃんに対して『上る』ということを示すことはできない。赤ちゃんが認知できない以上、この『段差』は赤ちゃんに対して『上る』というアフォーダンスを提示してはいないといえる」
[編集] 主観的アフォーダンスの、客観的アフォーダンスに対する反論
部屋に椅子とボールがある。もしアフォーダンスが動作主の主観にかかわらず、客観的な能力限界によってすべての動作可能性の中からある動作を選択させるものであるならば、この部屋に入った男は次のような行動をとるだろう。すなわち、椅子を投げ、ボールに座るのだ。なぜならどちらも客観的にその行動が可能であるからだ。ではなぜ私たちはそういった行動をとらずに、椅子に座り、ボールを投げるのか。それは過去にそういった経験、つまり、ある物体の本質とそれが示すアフォーダンスとの関連性を経験しており、それが呼び覚まされているからだ。
[編集] 非調和的アフォーダンス
物体の本質と、それが示すアフォーダンスとに乖離があった場合でも、動作主はアフォーダンスに従った行動、すなわちその物体の本質と関係ない行動をとる。
[編集] 関連項目
- ジェームズ・ギブソン
- ドナルド・ノーマン
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