S-2 (航空機)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
S-2はアメリカ合衆国のグラマンが開発した艦上対潜哨戒機。レシプロ双発機であり、初飛行は1952年。愛称はトラッカー(Tracker)。アメリカ海軍のみならず、各国海軍で使用された。
目次 |
[編集] 開発
第二次世界大戦中に大きく発達したレーダーは、水上目標の監視・捜索機器として、潜水艦捜索の重要な機器となっていた。しかし、1940年代後半の水上捜索レーダーは大型であり、艦載機に搭載した場合、レーダー以外の搭載は不能の状態にあった。そのため、艦上対潜哨戒機であるグラマンAFガーディアンでは、2機が一組となり、1機がレーダーを搭載し水上目標捜索を行い、もう1機が攻撃を行うというハンターキラー・システムを採用していた。当然のことながら、2基一組で運用を行うことは、負担が大きく、航空母艦の搭載機数の制限もあって、1機で捜索・攻撃を行う機体が求められた。
アメリカ海軍は1950年1月20日に各航空機メーカーに対し、1機で潜水艦の捜索・攻撃を行う機体の要求を出した。各社はこれに応えて、提案を出し、その中から6月2日にグラマン社のG-89案が採用となった。10月31日にXS2F-1の名称で試作機2機が発注されている。初飛行を待たずに追加発注が行われ、追加試作機YS2F-1が15機、量産機S2F-1が294機、発注されている。なお、試作機の初飛行は1952年12月4日のことである。部隊配備は朝鮮戦争の影響もあり、1954年2月から開始され、第26対潜飛行隊(VS-26)が最初である。なお、1962年により、S-2に名称は変更となっている。総生産機数は1,284機。
S-2の機体を元にして、C-1輸送機およびE-1早期警戒機が開発された。
[編集] 機体
主翼は高翼配置の直線翼であり、ハードポイントが3箇所にある。ハードポイントには、魚雷、爆雷、2.75インチロケット弾を搭載する。エンジンは大直径の星型レシプロエンジンであり、左右の主翼に各1機づつ搭載している。エンジンナセルの後部には各8個のソノブイを搭載している。胴体は太く短い形であり、尾部に引き込み式のMADブームを持つ。機体下面には引き込み式にAPS-38水上捜索レーダーを搭載し、機内爆弾槽には魚雷または爆雷を搭載する。機体上部には電子戦用のアンテナがあるが、これはD型以降では取り外された。右主翼にはサーチライトを搭載している。艦載機であるため、主翼は上方に折りたためるようになっており、Y字型の着艦フックも胴体後部に装備している。
[編集] 派生型
- XS2F-1:試作機。2機製造。
- YS2F-1:増加試作機。15機製造。
- S-2A:旧称S2F-1。初期量産型。740機製造。
- TS-2A:旧称S2F-1T。練習機型。対潜機材を搭載せず。228機改修。
- US-2A:旧称S2F-1U。多用途機型。対潜機材を搭載せず。標的曳航などを行った。ソノブイ投下口はふさがれている。64機改修。
- S-2B:旧称S2F-1S。ソナー関連を改良。138機改修。
- US-2B:多用途機型。対潜機材を搭載せず。爆弾槽を改修、5名分の座席が設けられている。主に人員輸送などを行った。
- S-2C:旧称S2F-2。核爆雷搭載用に爆弾槽左側を拡大した型。空力的な変化に伴いエンジンナセル後端を前型よりすぼませ、水平尾翼も拡大されている。1954年7月12日初飛行。60機製造。なお、核爆弾の小型化により、短期間でその意義を失った。
- RS-2C:旧称S2F-2P。C型の偵察機型。1機改修。
- US-2C:旧称S2F-2U。C型の多用途機型。50機改修。
- S-2D:旧称S2F-3。エンジンの強化・換装、爆弾槽の拡大、電子機材の更新、ソノブイ搭載数の増加、主翼・尾翼の拡大などの各種強化。1959年5月20日初飛行。100機製造。
- ES-2D:電子戦試験機。6機改修。
- S-2E:旧称S2F-3S。電子機材を更新。252機製造。
- S-2G:電子装備を更新。1970年代にE型より49機改修。
- S-2T:エンジンをターボプロップエンジンに換装した型。
- CS2F-1:デハヴィランド・カナダで製造。S2F-1よりアンテナなどを改良。42機製造。
- CS2F-2:デハヴィランド・カナダで製造。CS2F-1より対潜機材を改良。57機製造。
- CS2F-3:デハヴィランド・カナダで製造。電子機材を改良。43機製造。
[編集] 運用国
[編集] アメリカ海軍
1954年より運用が開始され、1976年まで用いられた。多用途機型はアメリカ海兵隊でも使用された。2006年現在でも、払い下げ機が消防機として用いられている。
[編集] アルゼンチン海軍
6機が空母ベインティシンコ・デ・マヨなどの母艦対潜航空隊として、1960年代から運用されていた。2000年代でも、それらは運用可能であり、ブラジル海軍の空母・サン・パウロ上で訓練を行うときもある。
[編集] ブラジル海軍
空母ミナス・ジェライスの母艦対潜航空隊として運用されていた。1990年代に退役している。
[編集] ペルー海軍
1975年から1989年にかけて、S-2EとS-2Gを運用した。
[編集] オーストラリア海軍
空母メルボルンの母艦対潜航空隊として運用されていた。運用期間は1967年から1984年。
[編集] カナダ海軍
空母ボナヴェンチャーの母艦対潜航空隊として運用されていた。母艦での運用期間は1956年から1970年。1974年までは陸上対潜哨戒機として運用された。その後、1990年までは漁業監視機として転用された。なお、機体はデハヴィランド・カナダで製造されたため、CS2F-1,-2,-3と呼称された。
[編集] オランダ海軍
1960年より17機を使用。空母カレル・ドールマンの母艦対潜航空隊として運用されていた。後に陸上からの運用になり、一部機体はトルコに売却。
[編集] ウルグアイ海軍
1965年より使用開始。
[編集] イタリア空軍
1957年より使用開始。1978年まで運用。
[編集] トルコ海軍
1971年より使用開始。アメリカ海軍とオランダ海軍より中古機体を購入。
[編集] 中華民国空軍
1978年より使用開始。2000年代においても主力対潜哨戒機として運用中。
[編集] タイ海軍
1967年より運用開始。1990年代に退役。
[編集] ベネズエラ海軍
1970年代より運用開始。
[編集] 韓国海軍
1990年代まで運用を行っていた。
[編集] 海上自衛隊
1957年4月からアメリカより60機の新造機供与を受けた。1984年3月まで陸上機として運用された。愛称は「あおたか」。部内呼称はS2F-1。標的曳航用としてS2F-Uが4機、多用途機としてS2F-Cが2機改修された。退役後は一部機体を除き、アメリカに返還されたが、鹿屋航空基地史料館などで機体展示が行われている。
[編集] 要目(S-2F)
- 全長:13.26m
- 全幅:22.12m
- 全高:13.26m
- 自重:8.3t
- エンジン:ライトR-1820-82WA星型レシプロエンジン(1,525馬力)2基
- 最大速度:450km/h
- 航続距離:2,170km
- 乗員:4名(操縦士2名、武器員2名)
- 武装:魚雷・爆雷・ロケット弾など