解雇
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解雇(かいこ)とは、事業または事業所に使用され、賃金を支払われる労働者が、労働契約(雇用契約)を解除されることをいう。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効とされる(労働基準法第18条の2)。労働契約が満了した時や、自ら退職を申し出た時は解雇に該当しない。
「解雇」の語は民間の事業所または事業者の被雇用者が失職させられることに用い、公務員が職を解かれることは解雇ではなく、「免職」という。
解雇を頭部・頚部を切断されて死亡することに喩えて、「馘首(かくしゅ)(する・される)」と言い、俗にはより平易に「首(を切る・切られる、にする・になる、が飛ぶ)」と言い、「クビ」または「くび」と仮名書きにされることも多い。
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[編集] 解雇の制限
民法において規定されている雇用契約(労働契約)は当事者の交渉力や社会的地位が同等であることを前提としており、期間の定めの無い雇用契約(これは一般的な雇用契約の形である)は当事者のどちらからでも一方的に解約を申し入れることができる。しかし現代社会においては使用者の方が労働者よりも強い立場にあるのが通常であるから、労働基準法などの労働法や判例法理によって全面的に修正されている。
まず、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となる。[1]
さらに、使用者は次の期間においては労働者を解雇してはならない。[2]ただし、使用者が平均賃金の1200日分の打切補償(労働基準法第81条)を支払う場合、または天災事変その他やむを得ない理由がある場合には、次の期間においても労働基準監督署長の認可を得た上で解雇することができる[3]
- 労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり、療養のため休業する期間及びその後の30日間
- 産前産後の女性が規定により休業する期間およびその後30日間
さらに使用者は、労働者が労働基準法違反の事実を労働基準監督署に申告した場合(労働基準法)、労働組合として正当な行為を行なった場合(労働組合法)、はそれを理由に解雇してはならない。
また、使用者ごとに定める就業規則(労働基準法89条以下)には解雇の原因となる行為、すなわち普通解雇事由が定められているのが普通である。通常、これに違反すれば解雇されることになる。しかし裁判所は、たとえ労働者に就業規則違反などの落ち度があった場合であっても具体的な事情から考えて「解雇権の濫用」であるといえるならばその解雇は無効であるとして、使用者による解雇権の行使を制限してきた。これが解雇権濫用の法理と呼ばれるものである。つまり、紛争になっている解雇について具体的事情にてらして考えると、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができないという場合には解雇権の濫用として解雇の意思表示は無効になる。この法理は、その後の改正によって労働基準法18条の2に明記されることとなった。
[編集] 解雇の予告
使用者が労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前に予告をしなければならない。30日前に予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない(労働基準法20条)。
予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合は短縮できる。予告手当を支払わず、労働者を即時解雇できるのは、次の事由により労働基準監督署長の認定を受けた場合である。
- 天災事変その他やむを得ない事由。
- 労働者の責に帰すべき事由(一般的には「懲戒解雇」事由に属するものに相当し、「普通解雇」には属さない。)
以下の労働者には適用されない(第21条)
- 1ヶ月未満の日々雇い入れられる者。
- 2ヶ月以内の期間を定め使用されるものでその期間を超えない者。
- 季節業務に4ヶ月以内の期間を定め使用されるものでその期間を超えない者。
- 14日以内の試用期間中の者。
[編集] 解雇予告手当
労働基準法第20条による支払いを解雇予告手当という。ここで言う「平均賃金」とは解雇予告日から遡って3か月分の平均賃金を指す。また「平均賃金」の内訳は基本手当、住宅手当、家族手当、資格手当、地域手当、技術手当、食事手当、年4回以上支給される賞与などを含めたうえでの平均で、年3回未満の賞与や残業手当、通勤手当は含まない。また、家賃補助を受けている場合、実際の家賃とその1/3の金額の方が労働者が実際に支払っている金額より大きい場合は、その差額を平均賃金の計算に含める。 尚、「解雇予告手当」は税制上では「退職所得」となるため、退職金が存在する場合は、それと合算して退職所得とする。
[編集] 年次有給休暇との関係
解雇予告が行われると、最短で30日後に解雇となるため、30日を越える年次有給休暇を保持している場合は、解雇期日まで取得が可能となり、それ以降の分は法定最低付与分である場合は無効となり、法定以上の付与の分は買取が可能となる。ただし、解雇予告手当てが支払われる場合は、解雇期日を短縮されるため、年次有給休暇は無効となる日数が増える。解雇は退職と違い労働者の予期せぬことなのでよく、トラブルとなり法律での保護など、議論を呼んでいる。
[編集] 解雇の種類(法律上)
解雇という呼び名は単に普通解雇を指す場合と解雇全般を指す場合もあるが 解雇の種類は次の3つに分類される。
- 懲戒解雇;著しく重大な違反(例:犯罪行為、着服・横領、経歴詐称、業務の妨害等)をした場合に行なわれる懲罰として行なわれる解雇。解雇事由は就業規則に列記されたものでなければならない。
- 普通解雇;単に解雇と呼ぶ場合もあり、就業規則による解雇事由をもって行なわれる契約解除(解雇)。
- 整理解雇;普通解雇に属するものではあるが、過去の裁判の判例により現れてきた慣例であり、倒産などの回避を目的とするための人員整理として行なわれる解雇。尚、整理解雇の実施には裁判の判例で慣例となった「整理解雇の四要件」によらなければならない。
[編集] 解雇の種類(法律規定外の慣習)
また懲戒解雇の緩やかな制裁として法律上の用語ではない諭旨解雇(ゆしかいこ)が存在する。これは懲戒解雇に相当するが、本人が懲戒事実に関して深く反省しているのでこれを承諾するという意味であり、その上で使用者側の懲戒解雇を実施するに当たってのデメリットや労働者側の不利益の被り方を低くする処置として行なう解雇である。しかし解雇が(自己都合)退職よりも経済的な面での処遇がよくなることが多く制裁の意味をなさないため、諭旨解雇ではなく本人が自発的に行なう諭旨退職にすることが多い。