英国式ブラスバンド
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英国式ブラスバンド(British brass band)とは、サクソルン属の金管楽器と直管楽器のトロンボーン、打楽器で構成される金管バンド。日本では吹奏楽の事をさして「ブラスバンド」と言うことがあるが、イギリスでは吹奏楽はウィンド・バンド(wind band)として明確に区別されている。
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[編集] 歴史
その歴史は古く、19世紀後半にイギリスで確立された。始まりは、救世軍が街角で募金などを募るために演奏していた小規模な金管バンドだったようである。救世軍の世界各地のブラスバンドは世界的にも有名である。後に炭鉱労働者の息抜きや安らぎのために結成された金管バンドが各地に普及し、現在のような形に発展した。
現在の英国では町に1つはバンドがある、というほど普及しており、2000程の団体が活動しているといわれている。地域に密着した存在となっているようで、企業がバンドのスポンサーになるのも通例である。他にも米国や豪州、欧州各地でブラスバンドは盛んであり、日本でも徐々に定着しつつある。
[編集] 使用楽器・編成
代表的な編成は以下の通りである。
- コルネット(Cornet)セクション
- 通常10名と最も人数が多いセクションである。多くの場合前列と後列に分かれ、前列はフロント・ロー・コルネット(Front Row Cornet)と呼ばれ、ソロ・コルネットと呼ばれるパートが配置される。後列はバック・ロー・コルネット(Back Row Cornet)と呼ばれ、ソプラノ・コルネット、リピエーノ・コルネット、セカンド・コルネット、サード・コルネットと各パートが配置される。ソプラノ・コルネットはE♭の調性を持ち、実音に対し短3度低い音で記譜される。それ以外のコルネットはB♭の調性を持ち、実音に対し長2度高い音で記譜される。いずれもト音譜表で記譜される。
- ソロ・コルネット(Solo Cornet)
- 通常4名。主に主旋律を担当する。ソロ・コルネットの首席奏者はプリンシパル・ソロ・コルネット(Principal Solo Corent)と呼び、コンサートマスターのような扱いを受け、単独ソロを担当することが多く音楽性の豊かな奏者が担当することが多い。その補佐をする奏者1名をアシスタント・プリンシパル・ソロ・コルネット(Assistant Principal Solo Cornet)、残りの2名をトゥッティ・ソロ・コルネット(Tutti Solo Cornet)と呼ぶ。
- ソプラノ・コルネット(Soprano Cornet)
- 通常1名。主旋律の最高音を担当したり、ソロを担当したりする。ブラスバンドの華やかさの決め手となる重要なポジション。管の長さが短いために安定した音程をとりにくい楽器とされる。楽器の改良がB♭管のコルネットに比べ進んでいないことも困難さに拍車をかけている。
- リピアノ・コルネット(Repiano Cornet)
- 1番目の伴奏パート。通常1名。副旋律を担当したり、ハーモニーを構成していたりするなど、さまざまな役割の演奏を要求される。
- セカンド・コルネット(Second Cornet)
- 2番目の伴奏パート。通常2名。主にハーモニーや打ち込みを担当し、サード・コルネットとともにホーンセクションとの音色の融和も求められる。
- サード・コルネット(Third Cornet)
- 3番目の伴奏パート。通常2名。主にハーモニーや打ち込みを担当し、セカンド・コルネットとともにホーンセクションとの音色の融和も求められる。
- ホーンセクション
- 英国式ブラスバンドにおいて特徴的なパートであり、英国式ブラスバンドとしてのサウンドを決定付ける。
- フリューゲルホルン(Flugelhorn)
- 通常1名。コルネットと同じB♭の調性を持つ。柔らかな音色のため、ゆったりとした場面でソロを担当することが多い。コルネットに比べて高音域の演奏が難しい。実音に対し長2度高い音にてト音譜表で記譜される。
- テナーホーン(Tenor Horn)
- 日本ではアルトホルン(Alto Horn)とも呼ばれる。通常3名で、ソロ、ファースト、セカンドの3パートに分かれていることが多い。E♭の調性を持ち、ソプラノ・コルネットの1オクターブ下の音域を受け持つ。通常ハーモニーを担当する。あまり楽器の改良が進んでおらず、高音域や低音域の演奏が他の楽器に比べ難しい。実音に対し長6度高い音にてト音譜表で記譜される。
- バリトン(Baritone)
- バリトンホーンと呼ばれることもまれにある。通常2名でファースト、セカンドに分かれていることが多い。B♭の調性を持ち、コルネットの1オクターブ下の音域を受け持つ。ユーフォニアムよりも若干細めの管である。あまり目立たないパートではあるが、音楽的にも座席でもテナーホーン、トロンボーン、ユーフォニアムの間に位置するため、各パートとの連携が多く重要である。実音に対し長9度高い音にてト音譜表で記譜される。
- トロンボーン(Trombone)セクション
- B♭の調性を持ち、バリトン、ユーフォニアムと同じくコルネットの1オクターブ下の音域を担当する。円錐管主体の英国式ブラスバンドの中で唯一の円筒管楽器として、ピストンではなくスライドという柔軟な音程調節機構を持つ楽器として極めて重要である。鋭く硬い音形でサウンドにメリハリを持たせたり、完全な和音を構成し他の楽器とハーモニーを組んだりする。
- 通常2名で、ファースト、セカンドに分かれている。まれにソロ・トロンボーン奏者のいるバンドもある。ファースト・トロンボーンはテナー・トロンボーンを、セカンド・トロンボーンはテナーバス・トロンボーンを使用することが主流である。実音に対し長9度高い音にてト音譜表で記譜される。
- バス・トロンボーン(Bass Trombone)
- 通常1名。トロンボーンセクションの3番目として、またベース・セクションのトップとして活躍する重要なパート。太い独特の音色からソロを担当することもよくある。英国式ブラスバンドでは唯一、ヘ音譜表で実音にて記譜される。
- ユーフォニアム(Euphonium)
- 通常2名。B♭の調性を持ち、バリトン、トロンボーンと同様にコルネットの1オクターブ下の音域を受け持つ。ソロ・コルネットと同様、主にメロディーラインを受け持つ。柔らかい音を持ち機動性に富み、ソロ楽器として活躍する。バリトンとセクションを構成したり、ベースセクションと連携することもあるが、比較的独立したセクションと考えられていることが多い。実音に対し長9度高い音にてト音譜表で記譜される。
- ベースセクション
- 低音域を支えるセクション。典型的にはアップライト式のバス(バス・チューバ)を使用するのが主流である。他の演奏形態ではめったにみられないミュートを使用する機会が多いのも特徴的である。
- E♭バス
- E♭の調性を持つバスを使用し、通常2名。日本国内では「エスバス」と呼ばれることが多い。管の長さの割に大きいベルを持ち、豊かで柔らかな音色がする。演奏が容易で広い音域を持ち、機動性に富むのでソロを受け持つことがある。実音に対し長13度高い音にてト音譜表で記譜される。
- BB♭バス
- B♭の調性を持つバスを使用し、通常2名。日本国内では「ベーバス」と呼ばれることが多い。最低音域を担当し、太く安定したサウンドを生み出す。見た目は鈍重な楽器だがE♭バス同様に音域が広く、想像以上の機動性を持つ。他の演奏形態のチューバの譜面に比べて平均的に1オクターブ前後低い音域を担当するため、高度な基礎能力が奏者に要求される。実音に対し長16度高い音にてト音譜表で記譜される。
- パーカッションセクション(Percussion)
- 打楽器全般を通常3名で担当する。典型的編成としてはティンパニ1名、ドラムセット1名、グロッケンシュピールやシロフォンといった鍵盤打楽器1名というのが多い。3名という人数を最大限に活用するため、楽器の持ち替えが多用される。
多くの楽曲はこの28人編成を前提に作曲、編曲されている。
[編集] サウンド
他の演奏形態では金管楽器の鋭く刺激的な音色が要求されるが、英国式ブラスバンドではパイプオルガンのような荘厳でやわらかく落ち着いたサウンドがする。これは、楽器のベルが観客に向くことなく配置され、サラウンド感のあるほどよく調和された間接音を聴衆が聞くことになるからである。他の編成に比べビブラートを多用することも、特有のサウンドを生み出す要因の一つとなっている。そのため、賛美歌のような美しいハーモニーを持つ楽曲の演奏に適しており、救世軍の布教活動に極めて効果をもたらした。一般に座席配置は『コの字型』と言われるが、実際には馬蹄形に配置することが多く、実際その方がよりよい音がすることが多い。
[編集] 音楽
ブラスバンドは金管楽器と打楽器で演奏するため、楽器の扱われ方も他ジャンルと異なり、幅広い技術と音楽性が要求される。時には甘美な酔わせる歌いぶりから、不可能と思われる超絶技巧、演奏会場を揺さぶる圧倒的破壊音量と魅了される部分が多くある。また、休符が極端に少ないことからも、耐久性・持久性も要求される。また、楽器によってはピッチ(音程)調整が難しいものも多く、楽器そのものをコントロールする力も必要とする。
ブラスバンドのオリジナル作品というのは多くあり、古くはエルガー、ヴォーン・ウィリアムズ、ホルストなどの大作曲家も作曲している。またブラスバンドを中心とする作曲家が他ジャンルからブラスバンドへのアレンジを積極的に行ってもいる。
作品の内容は幅広いが、大曲・組曲になれば30分を超えるものがあり、難易度も高い。課題曲に選ばれる曲も、各楽器の持てる能力を最大限発揮できるよう広音域に渡って書かれているものが多い。
またブラス作品の特徴とも言えるのは、ソロ曲が多いことである。その楽器の持ち味を活かした曲が多い。また技巧的なものが多く、5線をはるかに逸脱して書かれることが多い。また、そう記譜するのは演奏者(特にアマチュア)で達人レベルの者が多いということである。
[編集] 主な作・編曲家と主な作品
- フィリップ・スパークPhilip Sparke(Orient Express,Jubilee Overture,Hymn of the Highlands)
- ヤン・ヴァン・デル・ローストJan Van der Roost(Marcury,Albion)
- Goff Richards(ONE DAY,Saddleworth Festival Overture)
- Peter Graham(The Essence of Time,Summon the Dragon)
- Torstein A. Nirsen(Circius,Vitae Lux)
- Eric Ball(Resurgam,The Kingdom Triumphant)
- Philip Wilby(JAZZ,Masquerade)
- Derek Bourgeois(Concerto Grosso,Blitz)
- John Golland(Sounds,Peace)
- Kenneth Downie(Purcell Variation,Rejoice)
- George Lloyd(English Heritage,Diversions on a Bass Theme)
[編集] コンテスト全容
昔から、ブラスバンドコンテストはより向上心を煽るため、切磋琢磨するためイギリスでは盛んに行われていたが、近年になって世界各地で催されている。
代表的なものには以下がある。
- National Brass Band Championship(全英選手権)
- European Brass Band Championship(ヨーロッパ選手権)
- All England Masters Brass Band Championship(全英マスターズ)
- British Open Brass Band Championship(全英オープン)
内容はセクション毎に階層分けされ、演奏レベルで区分される。ほとんどが課題曲と自由曲(他に行進曲や賛美歌など)で審査され、審査はブラインド審査といって、予め渡されたスコアによって減点方法で評価する。
全英オープンはプロ・アマ混合の大会であるが、ほとんどはアマチュアの大会である。しかしその内容はプロ以上の演奏を聴かせてくれる。聴衆を常に感動させ、とくにチャンピオンシップセクションの優勝演奏は、人間業とは思えないほどの素晴らしい演奏を披露し、年々そのレベルは上がり非常にハイレベルなものになっている。そして反応は演奏後の聴衆が大拍手大喝采で応えていることからもうかがえる。
[編集] 名門バンド
スポンサーによって名前が変わることがあるが、英国などのブラスバンドでは100年以上も続くバンドもある。
- The Black Dyke Band(since 1855)
- 歴史があり、ブラスバンドで最も成功を収めたといわれる。
- The YBS Band(since 1855)
- スタープレーヤーを多く抱え、Dr.David King氏を迎えてからはEBBC6連覇など、その業績は輝かしい。世界の頂点とも言えるバンド。
- Buy as You View Band(since 1884)
- Fairey FP(Music) Band(since 1937)
- Foden Richardson Band(since 1900)
- Brighouse & Rastrick Band(since 1881)
- The International Staff Band(since 1891)
- 救世軍イギリス万国本営に拠点を置くスタッフバンド。救世軍内で最も実力がある。
[編集] 日本の主要なバンド
- Japan Staff Band(救世軍)
- 代表は鈴木肇(Hjime Suzuki)日本音楽部最高責任者。その他吹奏楽連盟の役員も勤める。
ブラスバンドの歴史おいて大きく貢献した世界で最も大きなブラスバンド。 世界8ヶ所にスタッフバンドはある。スタッフバンドとはその国の本部(本営)に所属する。 日本では各方面からメンバーが集まっているが、本来は本営に所属する士官・下士官・特務大尉・兵士等で構成される。 小隊(教会)バンドや連隊(連合)バンドを含むと世界に約10万人のプレーヤーがいる。 救世軍のブラスバンドは活動的で、救世軍の礼拝には欠かせない。「歩く銀色のパイプオルガン」とも呼ばれている。
- BREEZE BRASS BAND
- 大阪で活動する、日本を代表するプロのブラスバンド。1996年のヨーロピアンツアーで高い評価を受ける。多くの作品を日本に紹介し、ブラスバンドを知らしめた功績は大きい。
- VIVID BRASS TOKYO
- 関東で活動するプロのブラスバンド。ブラスバンドの新しいサウンドを求めて活動中。
- 宇都宮ブラスソサエティ
- 1977年発足の老舗バンド。
- 東京シティコンサートブラス
- 2000年3月発足。指揮者にRichard Evans を招いて精力的に活動中。
- OSAKA HARMONY BRASS
- 2000年6月発足。2003年にオーストラリアチャンピオンシップにて6位入賞。指揮は岡本篤彦氏。日本を代表するバンドのひとつ。
- BRIGHT BRASS ☆ STORM
- 1997年4月発足。大阪初のアマチュア・ブラスバンド。指揮は上村和義氏。マスバンド形式をとる日本ではまだ珍しい形式のバンド。
- 洗足学園音楽大学ブリティッシュ・ブラス
- 国内の音楽大学で初めて結成されたブラスバンド。主に金管楽器専攻の学生で結成。従来のオリジナル曲の他、多方面の奏者との競演や邦人作品などを取り上げている。
[編集] 伝説の演奏
- New Jerusalem(Wilby)
- NBBC1992決勝課題曲。グライムソープが逆転優勝。
- The Year of The Dragon(Sparke)
- EBBC1992においてその名を残したBritannia Building Society Band奇跡の演奏。
- これこそ名演といえる演奏。
- Cambridge Variations(Sparke)
- 1992年イングランドマスターズで、BNFLバンドが優勝したときの演奏(課題曲)。
- 2004年イングランドマスターズのCDに再録されている。
[編集] 関連項目
- ブラス!(映画、原題 Brassed off)