繰り込み
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繰り込み(くりこみ)とは、場の量子論で使われる、計算結果が無限大に発散してしまうのを防ぐ数学的な技法である。
繰り込みという言葉は、元金とそこから派生した利子を合わせて新しい元金とする操作に比喩して命名された。
量子力学における不確定性関係から、短時間ならばエネルギーが保存しないような中間状態に遷移することが可能である。場の量子論ではそのような中間状態が無限にあり、そのためにしばしばこのような補正は発散する。
例えば量子電磁力学において、電子が(仮想的な)光子を放出してこれを再び自分で吸収する過程が存在する。これは電子が自身の作る電磁場中において持つ電磁的なエネルギーへの寄与を与え、自己エネルギーと呼ばれる。 また、光子から(仮想的)電子と(仮想的)陽電子が対生成し、再結合して対消滅し光子に戻るという過程も起こる。このように電子の周囲の真空に電子と陽電子が絶えず対生成、対消滅していることを真空偏極という。
これらの電磁相互作用による輻射補正は普通に計算すると無限大の結果を与える。重要なことは、これらの無限大が、電子の質量や電荷という、理論のパラメタの再定義によって吸収されるということである。それゆえ、観測される電子の質量、電荷を計算結果、つまり「裸の」質量、電荷と輻射補正との和と等しいと置くことによって、無限大を取り除くことができる。この操作を繰り込みという。
繰り込みは場の量子論では特別な事情がない限り必要であるが、無限大を「繰り込む」パラメタが有限個で済むかどうかというのは重要である。このように、有限個のパラメタで理論のすべての無限大を取り除くことができる理論を繰り込み可能であるという。量子電磁力学、ワインバーグ・サラム理論、量子色力学は繰り込み可能であることが知られている。一方、重力を記述する一般相対性理論は繰り込みが不可能であるので量子化すると破綻するとされている。 そのため、重力の寄与が無視できなくなる高エネルギー領域においては一般相対性理論に代わる量子重力理論が必要と考えられている。
繰り込みの理解は、ケネス・ウィルソンの繰り込み群により、単なる数学的技法を越えて、場の理論の本質と関係して非常に深く理解されるようになった。
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