破門
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破門(はもん)とは、宗教、流派、派閥に属している者を意図的に除外すること。破門される理由は多々存在しているが、ことのほか重い処罰として使用される場合が多い。
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[編集] 宗教的破門
キリスト教の一部教派およびユダヤ教において、異端的信仰をもつ信者になされる措置のひとつ。直接的関係は無いが仏教でも同様の趣旨で行われることがある。
ユダヤ教における破門は、呪いおよび共同体からの追放という形を取る。呪いの対象は追放者のみならず、今後追放者とかかわった場合の共同体の成員を含むため、破門は追放者のみならず他の共同体成員への禁止効果をももつ。ユダヤ教からの破門者として有名な者にスピノザがある。アムステルダムのユダヤ人共同体におけるスピノザの破門状には「今後、彼から1メートルの距離に近寄るものは呪われよ」とある(原文で使われていた当時の単位系を置き換えた)。
キリスト教における破門も、原義においては強い呪い(アナテマ)の意を持つ。具体的には領聖など秘跡(機密)に与るなど、信者に与えられている教会内での宗教的権利を無期限に停止することを意味する。また破門された者と交流を持つことは基本的に禁止される。この結果、たんに宗教的意味でだけではなく、中世のアジール権など教会が信者に与えた世俗的効果をもつ保護も一切与えられなくなるため、中世から近世にかけて破門は社会からの追放に等しい意味を持った。また破門者は教会の墓地に葬られることができない。破門は教会の決定事項であり、破門を行うものは教会に属する聖職者に限られる。
古代の公会議では異端とされた神学者が教会から破門された。教義の違いをめぐる争いがおこるときには、論争の当事者双方が互いを異端として告発することがまま起こるが、これが聖職者同士のとき、時に相互破門と呼ばれる状態が起こる。大シスマとして知られるローマ・カトリック教会と東方正教会の分裂は、双方の最高責任者であるローマ教皇とコンスタンティノポリス総主教の相互破門である。
ローマ・カトリック教会では破門にも幾つかの段階があり、もっとも大きな処分は大破門と呼ばれ、聖職者が公衆の目の前で破門宣告を行った。近代における有名な破門の例にはマルティン・ルターやジョルダーノ・ブルーノの破門がある。東方正教会ではトルストイが晩年の著作が無神論的であるとの理由でロシア正教会から破門されている。
現在のローマ・カトリック教会法にも破門の規定はあるが、実際に信者に行われることはほとんどない。まれに聖職者に対して破門処分が行われることがあるに留まる。ただし自動破門と呼ばれる処分が規定されており、これに該当する行為を行った信者は教会の宣告をまたず破門状態に置かれる。
中国政府公認の宗教団体中国カトリック愛国会がローマ教皇の意向を無視して任命した司教2名を、ローマ教皇庁が2006年5月4日に破門した。
[編集] 流派的破門
**流と名乗る芸能職において家元や師匠の意思によりその指揮下から追放されることも破門と呼ぶ。茶道、華道など道をなのるものには記述が見られるが、相撲界、落語界にも記述がしばしば見られ、家伝の場合破門と勘当を同時に行うことがある。
師弟間でのその芸事についての考え方が違う場合に異端として破門されることが多いが、ただ単に芸事や生活に対して怠惰であり、流派を名乗るにふさわしくない場合にも破門の適用が考えられる。また稀有なケースとしては落語立川流 の例のように「上納金が納められなかった」ために破門される場合もある。
宗教的な破門とはちがって破門されたものの活動が致命的に阻害されないケースもあり、破門された弟子は他の流派に鞍替えしたり、場合によっては独自に活動を再開できることもたびたびある。他方、大相撲の世界では師匠より破門された力士はほぼ全てが引退を余儀なくされる。
[編集] 派閥的破門
[編集] ヤクザの破門
ヤクザ世界のおける懲罰の一つで、「絶縁」に次いで重い処罰。組に対する迷惑に対してなされ、組は破門した旨を義理回状により、関係の組に通知する。この義理回状(破門状)を受けた組織は、破門をされた者を客分としたり、結縁したり、商談、交際など一切のことについて相手としてはならないこととされ、これを破ることは敵対行為とみなされる。したがって、破門・絶縁されたものは、ヤクザ世界に残ることはできない。なお、破門と絶縁の差異は、破門には復縁の可能性があるのに対して、絶縁には建前上それがないという点にある。