石田一松
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石田 一松（いしだ いちまつ、本名同じ、1902年11月18日 - 1956年1月11日）は、広島県安芸郡出身の演歌師、演歌歌手。作詞家、作曲家。お笑いタレントで、吉本興業所属。戦後は並行して政治家、衆議院議員を勤め、タレント議員・第一号とされる。法政大学卒業。身長五尺四寸、体重十七貫。（自著記載より）
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[編集] 生涯・人物
[編集] 生い立ち
広島県安芸郡府中村字山田(現在の安芸郡府中町)生まれ。3歳で実母とは生き別れ、その後4人の継母に育てられた。うち3人の継母から虐めらたという。父が米相場で失敗し苦学して広島市の私立明道中学に学ぶ（明道中学は当時、広島市中心部田中町にあり修道中学、広陵中学と並ぶ広島市の私立三中と言われたが、硬骨蛮風の校風が遠因で1923年廃校になったと言われている。他の出身者には黒島亀人、西村伊作らがいる）。同校角力部（相撲部）に所属、「明道のイシ」と呼ばれ22、3人の沖仲士（人夫）と大喧嘩し同校を退校。悪い評判が広がり広島に居れなくなり、末妹に「にいちゃん、どこにゆくんの、よそ行つちゃいけんよ、行つちゃいけん、行つちゃいけんいけん」と泣きつかれ、後を追って来るのを振り切って上京した。三等車の隅っこに乗り「俺をボンクラ扱ひにして、廣島の奴等、今に見て居れ、絶対に見返してやるけん」と心に誓った。この後、残った石田一家は広島市内段原に転居、1945年原爆投下で、この末妹を含め兄弟三人は皆死んだ。
[編集] 演歌師
レンズ工員を経て法政大学予科入学。授業料を稼ぐため1920年、演歌の大先輩・添田唖蝉坊らの東京倶楽部に入り演歌師となる。テキヤの乾分（子分）となり、中学時代に少し習ったバイオリン片手に毎夜東京中の縁日をまわり暗闇の中、書生節を歌い自ら編集した流行歌の歌本を10倍の値段で売って生計を立てた。全ての資金を稼ぐにはこの危険な商売しかなく大学の予科3年・本学3年の卒業まで計約6年、これを続けた。ヤクザに殴られ殴り瞼の縁が常に紫色に腫れていた。代表作・インテリ時事小唄『のんき節』はこの時代1923年頃の作とされる。卒業後1930年、『酋長の娘』を作詞・作曲、1931年には藤波笑声名で『噫中村大尉』を歌いいづれも大ヒットした。
1932年、吉本興業専属となり浅草万成座で初舞台。“インテリ・時事小唄・法学士”の看板を掲げて高座に上がり、洋服姿でバイオリン片手に『のんき節』で売り出し人気を博した。『のんき節』は添田唖蝉坊が作ったものだが、石田は自作を加え替え歌にして庶民の側から社会を風刺した。「～凡て内密で取引きするのが闇取引きで御座います。帝国議会の闇取引きは秘密会議と申します～ハハのんきだね～」などと当時の軍部や政治権力、社会の矛盾を辛辣に批判。権力に抵抗する演歌師の姿勢をそのまま昭和の寄席に持ち込んだともいうべき芸で当局には睨まれ、しばしば出演停止を命じられたが庶民からは圧倒的人気を博した。
また舞台、テレビのほか、エンタツ・アチャコ(横山エンタツ・花菱アチャコ)の東宝映画・「東京五人男」にも出演するなど幅広く活躍した。また若い頃から政治志向が強く町会議員選挙にも出ている(当落不明)。
[編集] 芸能人代議士
1946年4月10日、戦後初の衆議院議員総選挙に一人一党の日本正論党を掲げ東京1区から立候補。この選挙は女性議員が数多く出馬し初当選して話題を呼んだが、石田も今度は「～地盤とカバンは有りませんけど、看板だけなら日本中～ハハのんきだね～」などと演説の間に持ち歌を歌って人気を集め当選した。当時は「タレント」という言葉が無かったので「芸能人代議士」と呼ばれた。この為今日言われるタレント議員・第一号とされその草分けとされる。
この後連続当選4回し代議士として活躍。三木武夫らの国民協同党に属した。議席を得ても芸能活動は辞めず昼は国会、夜はステージに立った。1951年、国民民主党に名前を変えていた党の党議に背き日米安保条約・対日平和条約の批准に反対、“全面講和”を主張して離党。1953年の「バカヤロー解散」による総選挙で落選、1956年、胃癌により死去。享年53。
他のヒット曲に『時事小唄』、『のんきな父さん』、『いやぢゃありませんか』、『春の名残り』、『男の恨み』など。
[編集] のんき哲学
1946年、衆議院議員となった年の12月に出版された自著「のんき哲学」は、タイトル通り自身の哲学、社会批判や自身の生い立ちなどが綴られており、近年一般的に出ている「タレント本」のメソッドと変わらない。戦前こうしたタレント本が出ていたのか不明だが、「のんき哲学」は「タレント本」としても先駆的な本かも知れない。
『のんき節』の替え歌には他に
「鮹に骨なしナマコに眼なし 政府に策なし議員に抱負なし 民に職なし 愛もなし 皮肉にや抱負と骨がある へゝのんきだね」
「物の闇なら物さへ作りや 闇はやむけどやみ難い 人の心に悲しい闇の 影がさしたら世は闇ぢゃ へゝのんきだね」
「正邪善惡非富不富は 人の心の奥にある 善をなしてるつもりでも つもりは心ぢゃありません へゝのんきだね」
「醜い南瓜に唇よせて だまつて見てゐる青い空 南瓜はなんにもいはないけれど 南瓜の氣持はよく判る へゝのんきだね」
「權利々々と振りまはされては 權利も權利にやなりかねる 權利を振り廻しすぎますと 利権あさりと間違へる へゝのんきだね」
「生きてゐりやこそ平和も御座る 死んで花見があるものか 焦土に芽をふく名無草 咲こうよ日本の平和境 へゝのんきだね」 など ― 自著 『のんき哲学』より
[編集] 著書・参考文献
- のんき哲学（自著）大元社 1946年12月
- 闘った「のんき節」タレント議員第一号・演歌師石田一松 水野喬著（文芸社）
