演繹
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演繹(えんえき、ラテン語 deducere)は、一般的・普遍的な前提からより個別的・特殊的な結論を得る推論方法である。対義語は帰納。帰納の導出関係は蓋然的に正しいのみだが、演繹の導出関係は前提を認めるなら絶対的、必然的に正しい。ただし、実際的には前提が間違っていたり、適切でない前提が用いられたりして、誤った結論が導き出されるケースが多い。近代的には、演繹法とは記号論理学によって記述できる論法の事を指す。
例えば、観測した100匹のアシカは5本指だったことから「アシカは5本指をもつ」という結論を出すのが帰納であるのに対し、「アシカは5本指をもつ」という前提から出発してアシカ亜目アザラシ科に属するアザラシもまた5本指を持つだろうと推定するのが演繹である。この例では、アシカ亜目の定義が5本指という事象に基づいていれば適切な前提であり、指の本数と無関係であれば不適切な前提である。
以上のことを一般化した演繹の代表例として三段論法がある。 「人は必ず死ぬ」という大前提、「ソクラテスは人である」という小前提から「ソクラテスは必ず死ぬ」という結論を導き出す。この例のように二つの前提から結論を導き出す演繹を三段論法という。演繹においては前提が真であれば、結論も真となる。
ここで、「ソクラテス」の代わりに「私」を入れても正しい演繹となる。演繹による必然性とは前提には依存しておらず、前提を仮に認めるとすれば、必然的に結論が導かれるという形になってあらわれる。
アリストテレスが演繹の体系を構築し、フレーゲの登場までそれが長らく西洋論理学の中心となっていた。
数学は演繹法を用いて得られる事実のみを扱う学問である。
イマヌエル・カントは、通常の意味とは異なった形で演繹(Deduktion)という語を用いている。カントにおいて演繹とは概念の正当性の証明を意味する。最も代表的な例は『純粋理性批判』におけるカテゴリー(範疇)の超越論的演繹である。演繹のこのような用法は当時の法学用語に由来するといわれ、カントのいたるところにみられる。
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