武家諸法度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
武家諸法度(ぶけしょはっと)は、江戸時代に江戸幕府が諸大名を統制するために定めた法令である。
豊臣政権の五大老であった徳川家康は、1600年(慶長5年)の関ヶ原の戦い後征夷大将軍に任命され、江戸に武家政権 江戸幕府を構築し始める。
武家諸法度とは、江戸幕府が1611年(慶長16年)に諸大名から誓紙を取り付けた3カ条に、金地院崇伝が起草した10カ条を付け加えたもので、1615年(元和元年)7月に2代将軍の徳川秀忠が伏見城で諸大名に発布した(通称「元和令」)。
法度は大名、徳川家家臣を対象として、当初は13か条であったが、将軍の交代とともに改訂され、3代将軍の徳川家光が参勤交代の制度や大船建造の禁などの条文を加え、19か条の定型となる(「寛永令」)。5代将軍の徳川綱吉は諸士法度と統合して「天和令」を定める。
後、8代将軍徳川吉宗が6代将軍徳川家宣の定めた(実際には新井白石が改訂し、7代将軍家継が短命だった事もありそのまま用いられ続けた)「正徳令」を破棄して、「天和令」を永く伝えていく事を宣言し、以後武家諸法度の改訂は行われなくなった。
[編集] 武家諸法度「寛永令」のおもな内容
- 一、文武弓馬ノ道、専ラ相嗜ムベキ事。
- 訳:武芸や学問にたしなむこと。
- 一、大名・小名在江戸交替相定ムル所ナリ。毎歳夏四月中、参勤致スベシ。従者ノ員数近来甚ダ多シ、且ハ国郡ノ費、且ハ人民ノ労ナリ。向後ソノ相応ヲ以テコレヲ減少スベシ。但シ上洛ノ節ハ、教令ニ任セ、公役ハ分限ニ随フベキ事。
- 訳:大名は自分の領地と江戸とを(1年ごとに)毎年4月に参勤すること。最近は供の数が多く、領地や領民の負担となる。今後はふさわしい人数に減らすこと。ただし上洛の際は定めの通り、役目は身分によること。
- 一、新規ノ城郭構営ハ堅クコレヲ禁止ス。居城ノ隍塁・石壁以下敗壊ノ時ハ、奉行所二達シ、其ノ旨ヲ受クベキナリ。
- 訳:新たに築城することは厳禁する。居城の石塁以下が壊れ、修理をする時は幕府の役人に申し出て許可を受けてからにすること。
- 一、江戸ナラビニ何国ニ於テタトヘ何篇ノ事コレ有ルトイヘドモ、在国ノ輩ハソノ処ヲ守リ、下知相待ツベキ事。
- 訳:江戸やその他の所で何か事件などが起こったとしても、国元にいる者はそこを守り、幕府からの命令を待つこと。
- 一、何所ニ於テ刑罰ノ行ハルルトイヘドモ、役者ノ外出向スベカラズ。但シ検使ノ左右ニ任セルベキ事。
- 訳:どこかで刑罰が執行されていても、担当者以外は出向いてはならない。検視者に任せること。
- 一、新儀ヲ企テ徒党ヲ結ビ誓約ヲ成スノ儀、制禁ノ事。
- 訳:謀反を企て、仲間を集め、制約を交わすようなことは禁止とする。
- 一、諸国主ナラビニ領主等私ノ諍論致スベカラズ。平日須ク謹慎ヲ加フルベキナリ。モシ遅滞ニ及ブベキノ儀有ラバ、奉行所ニ達シソノ旨ヲ受クベキ事。
- 訳:大名は私闘をしてはならない。日頃から注意しておくこと。もし争いが起きた場合は奉行所に届け出て、その指示を仰ぐこと。
- 一、国主・城主・一万石以上ナラビニ近習・物頭ハ、私ニ婚姻ヲ結ブベカラザル事。
- 訳:大名、近習(将軍の側近の武士)、物頭(常備兵の隊長)は、幕府の許可無く勝手に結婚してはならない。
- 一、音信・贈答・嫁娶リ儀式、或ハ饗応或ハ家宅営作等、当時甚ダ華麗ノ至リ、自今以後簡略タルベシ。ソノ外万事倹約ヲ用フルベキ事。
- 訳:贈り物や結婚式、宴会などの催し、屋敷の建設などが最近華美になってきているので、今後は簡略化すること。その他のことにおいても倹約を心掛けること。
- 一、衣装ノ品混乱スベカラズ。白綾ハ公卿以上、白小袖ハ諸大夫以上コレヲ聴ス。紫袷・紫裡・練・無紋ノ小袖ハ猥リニコレヲ着ルベカラズ。諸家中ニ至リ郎従・諸卒ノ綾羅錦繍ノ飾服ハ古法ニ非ズ、制禁セシムル事。
- 訳:衣装の等級を乱れさせてはならない。白綾は公卿(=三位)以上、白小袖は大夫(=五位)以上に許す。紫袷・紫裡・練・無紋の小袖は、みだりに着てはならない。家中の下級武士が綾羅や錦の刺繍をした服を着るのは古くからの定めには無いので、禁止とする。
- 一、乗輿ハ、一門ノ歴々・国主・城主・一万石以上ナラビニ国大名ノ息、城主オヨビ侍従以上ノ嫡子、或ハ五十歳以上、或ハ医・陰ノ両道、病人コレヲ免ジ、ソノ外濫吹ヲ禁ズ。但シ免許ノ輩ハ各別ナリ。諸家中ニ至リテハ、ソノ国ニ於テソノ人ヲ撰ビコレヲ載スベシ。公家・門跡・諸出世ノ衆ハ制外ノ事。
- 訳:輿に乗る者は、徳川一門、国主、大名の息子、城主、侍従以上の嫡子、50歳以上の者、医者、陰陽道の者、病人等許可されている者に限り、その他の者は乗せてはならない。ただし許しを得た者は別とする。諸家中においては、その国内で基準を定めること。公家・僧侶・その他身分の高い者は、その定めの例外とする。
- 一、本主ノ障リコレ有ル者相抱エルベカラズ。モシ反逆・殺害人ノ告ゲ有ラバコレヲ返スベシ。向背ノ族ハ或ハコレヲ返シ、或ハコレヲ追ヒ出スベキ事。
- 訳:元の主人から問題のあるとされた者を家来として召し抱えてはならない。もし反逆者・殺人者との知らせがあれば元の主人へ返すこと。行動が定かではない者は元の主人へ返すか、または追放すること。
- 一、陪臣ノ質人ヲ献ズル所ノ者、追放・死刑ニ及ブベキ時ハ、上意ヲ伺フベシ。モシ当座ニ於テ遁レ難キ儀有ルニオイテコレヲ斬戮スルハ、ソノ子細言上スベキ事。
- 訳:幕府に人質を出している家臣を追放・死刑に処す際には、幕府の命を伺うこと。もし急遽執行しなければならない場合に執行する際には、その詳細も幕府に報告すること。
- 一、知行所務清廉ニコレヲ沙汰シ、非法致サズ、国郡衰弊セシムベカラザル事。
- 訳:領地での政務は清廉に行い、違法なことをせず、国郡を衰えさせてはならない。
- 一、道路・駅馬・舟梁等断絶無ク、往還ノ停滞ヲ致サシムベカラザル事。
- 訳:道路、駅の馬、船や橋などを途絶えさせることはせず、往来を停滞させてはならない。
- 一、私ノ関所・新法ノ津留メ制禁ノ事。
- 訳:私的な関所を作ったり、新法を制定したりして品物の流通を止めてはならない。
- 一、五百石以上ノ船、停止ノ事。
- 訳:五百石積み以上の船を造ってはいけない。
- 一、諸国散在寺社領、古ヨリ今ニ至リ附ケ来ル所ハ、向後取リ放ツベカラザル事。
- 訳:諸国に散在する寺社の領地は、昔から現在まで存在する所は、今後取り離してはならない。
- 一、万事江戸ノ法度ノゴトク、国々所々ニ於テコレヲ遵行スベキ事。
- 訳:全ての事は幕府の法令に従い、どこにおいてもこれを遵守すること。
[編集] 関連項目
カテゴリ: 江戸幕府 | 日本の歴史上の法律 | 歴史関連のスタブ項目