新幹線N700系電車
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新幹線N700系電車 | |
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起動加速度 | 2.6km/h/s |
営業最高速度 | 270(東海道)/300(山陽)km/h |
設計最高速度 | |
減速度 | |
車両定員 | |
編成定員 | 1,123人(普)+200人(グ)=1,323人 |
全長 | 27,350(25,000)mm |
全幅 | 3,360mm |
全高 | 3,500(3,600)mm |
車両重量 | |
編成重量 | 約700t |
軌間 | 1435mm |
電気方式 | 交流25,000V 60Hz |
駆動装置 | 誘導電動機 |
モーター出力 | |
編成出力 | 305kW×56=17,080kW |
歯車比 | |
制御装置 | VVVFインバータ制御 |
ブレーキ方式 | 回生併用電気指令式空気ブレーキ(応荷重装置付き) |
保安装置 | ATC-1、ATC-NS |
備考 |
新幹線N700系電車(しんかんせんN700けいでんしゃ)は、現在開発中の東海道・山陽新幹線の第5世代の車両である。300系及び500系、700系を置き換える次期主力車種として2007年に営業運転の開始が予定されている。
目次 |
[編集] 概要
700系をベースに、さらなる高速性と快適性そして環境性能向上の両立を目指して、東海旅客鉄道(JR東海)と西日本旅客鉄道(JR西日本)および車両メーカーによる共同開発中の新幹線用電車である。開発の発表当初は700Nと称しており、N700系は通称であったが、2004年5月28日にN700系が正式な形式名称に決定したと発表された。Nはnew、next等の意味を込めたものと説明されている。
日本国有鉄道(国鉄)の分割・民営化以降、新幹線についてもサービスの向上が図られ、JR西日本は最高速度300km/hで運行できる500系を開発したが、線形が悪く270km/hしか出せない東海道区間ではオーバースペックであった事と、1編成(16両)で約50億円にものぼる高コストがネックとなり、また、既にその当時主流となっていた300系と比べて各車両毎の定員が異なる事で運用の共通化に支障を来したため、500系は結局9本しか製造されず、その後は汎用性を重視してJR東海と共に最高速度285km/hの700系を開発する事となった。700系は、最高速度が220km/hと低い100系の置き換えとして多くの編成が製造され、新幹線の高速化に大きな成果を上げた。
しかしその後、JR西日本は航空機との競争の関係で500系と同等の最高速度300km/hの高速性能を、JR東海は品川駅開業とそれに伴う東海道区間の本数増加、デジタルATC(ATC-NS)の導入に伴ってより高い加減速性能を持つ新車両を求め始めた。その両社の需要を実現するべく共同開発されたのがN700系である。
現在東海道区間においては、全体の1/3しか東海道区間の最高速度の270km/hを出していなかったが、車体傾斜システムを搭載したN700系の場合、これまで最高250km/hであった曲線区間を270km/hで走行することにより、全体の2/3以上で270km/hを出せるようになる。このことと加減速性能の向上によって、東京~新大阪間で5分の短縮が可能となる。
2005年3月4日に日本車輌製造および日立製作所により先行試作車(Z0編成) が完成、10日未明に浜松駅~静岡駅間の本線を初走行し、7月16日には三島駅~浜松駅間の日中走行も実施した。24日には初めて東京~新大阪間を走行し、29日には山陽新幹線に乗り入れて博多まで走行した。9月7日には速度向上試験で320kmを記録した。今後は2年間の実験走行を経て量産車(Z2編成以降とJR西日本所有車)を投入し、2007年夏に営業運転に就く事が決定した。なお、先行試作車は実験走行終了後、編成番号をZ1に改め、量産化改造を受けて営業運転に就く予定となっている。
2006年5月26日の両社の発表によれば、2009年度までにJR東海で16両編成42本(672両)、JR西日本で16両編成12本(192両)、計54本(864両)の導入が予定され、東海道・山陽新幹線直通の全「のぞみ」をN700系に置き換える。2010年度以降の増備も検討中である。
営業運転開始に当たっては、差し当たり東海道・山陽新幹線の中核列車的存在の東京駅~博多駅間直通の定期のぞみ運用を山陽区間での300km/h運転に統一する事が予想されるため、まずは2007年夏から東京駅~博多駅間の700系および500系「のぞみ」の置き換えを行い、その後それ以外の発着の700系「のぞみ」も順次置き換える予定で、これらの車両を置き換え時期が迫っている300系の代替に振り向ける可能性が高い。
形式番号は従来の700系はグリーン車が710番台、普通車が720番台に対し、N700系はグリーン車が770番台、普通車が780番台となる。例えば、グリーン車の車両番号は「777-30」、普通車は「785-3505」といった具合である。
[編集] 構造・性能
前述の要求に基づき、まずは従来の300系や700系との各号車別定員の共通化を図ることを前提に、開発が開始された。
[編集] 外装
外観は、先頭部が700系の「エアロストリーム」型を「遺伝的アルゴリズム」により改良した「エアロ・ダブルウィング」と呼ばれる形状で長さ10.7m。先頭形状の長さを抑えつつ、微気圧波形状のピークを分ける事で最大値を抑え、騒音の抑制と先頭車の定員確保に一役買っている。塗装は現行の700系と同じになるが、独自のエンブレムを車体側面に掲げる。客室窓は軽量化しつつ十分な強度を確保するため、面積が700系の約60%に小型化された。行先表示器はJR東海の新幹線用電車では初めて電光式(フルカラーLED)を採用する。※JR東海の在来線用電車313系のうち、2006年度製造分にもフルカラーLEDを採用している。
また、車両間に「全周ホロ」を採用、連結車両間を伸縮性のゴム素材でほぼ完全に覆ってしまう事で、車体側面の空気抵抗と車両内外の騒音の軽減を達成した。これは、結果的に省エネにも寄与することとなった。
パンタグラフに於いても、それとしては0系以来の基礎中の基礎ともいえる部分の設計から抜本的に見直す事により小型化・軽量化が図られた。また試作車両には800系のU-001編成と同様にカメラ、センサ、投光器で構成される架線の検測装置が備えられた。
[編集] 性能
N700系の起動加速度は新幹線車両としては最高の2.6km/h/s(大都市の通勤電車並み)で、およそ3分で270km/hまで加速する性能を有している。営業運転での最高速度は500系と同じ300km/hとされた。これを達成するため、主電動機の出力を向上(275kW(700系)→305kW)し、MT比(電動車(M車)と付随車(T車)の割合)も変更(12:4(700系)→14:2)した。これにより編成出力は17,080kWとなり、700系と比べ約30%の向上をみている。
ブレーキについては、MT比の見直しに伴い700系で使用されていたT車の渦電流ブレーキが廃止され、常用ブレーキでは14両のM車の回生ブレーキで制動力を得る様にした。ATCの老朽置き換えに伴い設置されたデジタルATC(ATC-NS)が搭載され、制動距離と閉塞間隔の最適化が行われる。
また、従来は250km/hに減速して走行しなければならなかった東海道区間のR=2,500mのカーブを、最高速度である270km/hのまま走行できる様にするため、新幹線車両で初めて空気バネによる車体傾斜装置(最大傾斜角1°)を採用し、さらに700系では一部の車両のみに搭載されていたセミアクティブサスペンションを性能向上(700系:4モード選択切替制御→N700系:無段階制御)の上、全車両に搭載する事で乗り心地の改善を図っている。
そして、走行時のエネルギー消費についても、前述の改良によって余分な加減速が不要となるため、高効率な700系よりさらに19%向上し、270km/h走行時の利用客1人当たりの消費エネルギーが13.23kWh(700系が270km/h走行時14.7kWh、100系の220km/h走行時が13.9kWh)となると予想されている。走行試験の結果、予想値よりさらに10%高い省エネ性能が得られたことが確認された。全周ホロの寄与が考えられるという。
台車についてはボルスタレス台車である事は変らない。しかし、今回からはJR西日本サイドが折れたのか、JR西日本編成となる3000番代車もJR東海と同じ、円筒ゴム併用支持方式のものを装備する。これにより、500系から700系7000番代・700系3000番代と3代に渡って続いてきた軸梁支持方式台車は、N700系でひとまず終わることになる。
なお、車体傾斜機能については最小曲線半径がR=4,000mである山陽区間において傾斜機能をOFFにして走行するが、完全に停止するわけではなく車体を水平に保つ制御(0度制御(又は水平制御))に活用し乗り心地を向上させている。
[編集] 内装
車体傾斜装置の採用により、全幅が700系に比べて20mm狭くなったが、車体壁を強度を確保しながら薄くするなどした結果、700系と同等の車内空間を確保している。
300系以降では編成重量軽量化のため、座席のスプリングを廃止しウレタンを重ねる構造であったが、座り心地の点で評判が芳しくないため、スプリングを復活させる方向である。
普通車は700系と比べて座席の幅を10mm拡大(3人掛け中央のB席を除く)し、グリーン車については新たに開発された「シンクロナイズド・コンフォートシート」が採用された。これはリクライニングに伴い座面後部が沈むもので、座り心地が改善されており、日本航空国内線のクラスJに近いものといえる。ただ、JR西日本所有車両については多少の変更点が出る可能性がある。
また、テーブルはA4サイズのノートパソコンが置けるサイズに拡大され、グリーン車の全座席と普通車の窓側・最前部・最後部の座席にはモバイル用コンセントが設けられる。
2009年春から、無線LANによるインターネットサービスを開始する予定である(地上から車内へは2Mbps、車内から地上へは1Mbpsの予定)。但し、山陽区間については、トンネルの数が多いため改良費用が高額になる事や、JR福知山線脱線事故を受けて安全対策を優先する方針から、当面改良計画が策定できない等の事情から、当面は東海道区間のみの実施となる。
トイレはすべて洋式に統一された。また一部のトイレにはおむつ交換台が、11号車の多目的室にはベビーチェアも設置されている。
N700系は700系以前の車両と違い全席禁煙とし、強制排煙装置・光触媒脱臭装置を備えた2~4人が入れる喫煙ルームを3・7・10・15号車のデッキ部分に6ヶ所設ける(先行試作車は喫煙席を設ける事を前提に製造されたため喫煙ルームがなく、営業運転までの量産化改造で設置される)。喫煙コーナーに近い座席は喫煙者優先で指定席券を発行する方向である。
この他、鉄道車両では初めてすべての乗降口付近と運転室出入口に防犯カメラを設置し、乗務員室のモニター上で監視できるシステムが備わる。これは乗降口に備え付けられている非常用ドアコックがいたずらで操作され、その安全確認のためにしばしば列車遅延を来たしていることと、電話室や喫煙室などの個室部分が増え、それらのスペースを悪用される恐れがあるため、防犯カメラによる抑止効果を計るためである。加えて、テロ防止対策という観点からもその効果が期待されているが、2005年のロンドン同時爆破事件などの経験から、防犯カメラにテロ抑止効果はあまり無い、とする意見がある。また、その運用や記録の保存体制についても公表されておらず、プライバシーの侵害を懸念する意見もある。
[編集] 外部リンク
- 次世代新幹線N700系(JR東海)
- JR東海殿向N700系新幹線電車(日本車輌製造)-外観・車内イメージ写真あり
- N700系量産車の投入計画について(JR西日本)
- 新幹線・最速への挑戦(Yomiuri on-line 関西)
- 次世代新幹線N700系に乗る-上(ホビダス)
- 次世代新幹線N700系に乗る-下(ホビダス)
現行路線 |
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