帰化
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帰化(きか)は、ある国家の国籍を有しない外国人が、国籍の取得を欲して、ある国家がその外国人に対して新たに国籍を認めること。
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[編集] 「帰化」という語について
「帰化」という語句の意味は、「君主の徳に教化・感化されて、そのもとに服して従うこと」(後漢書童恢伝)である。
日本史の歴史用語としては、過去に「帰化人」という呼称が使われた。しかし、「帰化人」には、日本中心的な意味合いを含むこと、全ての人が自らの意思で海を渡って日本に来たかどうかは不明確なこと、などから、現在では「渡来人」とするのが主流となっている。
また、現代において、ある国の国籍が欲しいという場合に、その国の君主がどのような人物であるかはおおよそ考慮されない。いきおい、ひとえに本人の能動的な意思であることをより反映するものとして、「国籍取得」という表現が広く用いられている。
以上のようなことから今日の日本では、日常生活において単に「帰化」という言葉を使うことは、ほとんど無い。なお、「帰化植物」「帰化動物」の用語については外来種を参照。
[編集] 現代の日本における帰化
国籍法(昭和25年法律147号)では、帰化を許可する権限は法務大臣にあり、普通帰化、特別帰化(簡易帰化)、大帰化の3種類(この区分名はいずれも通称)が認められている。帰化を望む者は各地の法務局(一部の支局、全ての出張所を除く)又は地方法務局(前同)へ帰化の申請手続を行う。許否の結果が出るまでの期間は個々人で異なるがおおむね1年半程度を要するとされる。帰化申請の内容が認められた場合は、法務大臣による許可行為として官報に日本国内の現住所・帰化前の氏名・生年月日(元号表記)が告示(掲載)され、告示の日からその効力を生じることとなる。告示における氏名表記に外国文字(アルファベット・ハングル等)は用いられず、すべて日本語(漢字・平仮名・片仮名)に置き換えて表記される。過去においては、当該告示には帰化前の氏名に加え帰化後の日本名(帰化前に日本的通称名を複数使用していた者についてはそれら全て)が括弧付きで原則併記されていたが、1995年(平成7年)3月以降は帰化前の氏名だけが記載されるようになっている。
[編集] 普通帰化
普通帰化とは、次の要件を満たす外国人に対して許可される帰化の通称である。婚姻等による日本人とのつながりがない外国人の場合などがこれに相当する。
- 引き続き5年以上日本に住所を有すること
- 20歳以上で、本国法(帰化前の母国の法令)によって行為能力を有すること
- 素行が善良であること
- 自己又は生計を一にする配偶者、その他の親族の資産又は技能によって生計を営むことができること
- 国籍を有さず、または日本の国籍取得によって元の国籍を失うべきこと
- 日本国憲法施行下において、日本政府を暴力で破壊したり、それを主張する政治活動等に参加を企てたり、それを行なった経験が無い者であること
- ただし、自国民の自由意思による国籍の離脱を認めない国が存在する可能性を考慮して、そのような国の国籍を有する者からの帰化申請については、状況により上記5.の母国籍喪失の可能性を問わない場合もある。
[編集] 特別帰化(簡易帰化)
特別帰化(簡易帰化)とは、婚姻等により一定の要件(日本人とのつながり)を満たす外国人などに対して許可される帰化の通称である。広義では普通帰化に含まれる。具体的には、次のような緩和措置がある。
- 日本人の配偶者である場合、居住要件は5年以上から3年以上に緩和される。また、婚姻後3年が経過していれば、居住要件は1年以上に緩和される。また、20歳未満でも帰化が可能である。
[編集] 大帰化
大帰化とは、普通帰化や特別帰化の要件を満たさない(あるいは満たすが本人が積極的に帰化を申し出ない)が、日本に特別の功労のある外国人に対して国会の承認を得て行う帰化の通称である。国籍法第9条に規定があるが、現行の国籍法施行下(1950年7月1日以降)で認められた例はない。他の帰化のように本人の意思による自発的な帰化でなく、日本が国家として一方的に許可するものであるため、本来の国籍を離脱する義務は課されない。
[編集] 帰化申請書類
提出するもの
- 帰化申請書、帰化動機書、宣誓書、履歴書
- 生計概要を説明する書類、親族概要を説明する書類
- 事業主の場合、事業概要を説明する書類・財務諸表・確定申告書(控え可)
- 会社役員の場合、法人登記簿謄本
- 社員の場合、在職を証明する書類・給与証明書
- 納税証明書(コピー可)
- 自宅・勤務先付近の略図
- 国籍証明書、もしくは国籍を有しないか帰化により現在の国籍を失うことを証明できる書類
- 外国人登録原票記載事項証明書・自動車運転免許証
- その他、法務局から追加提出指示を受けた書類
呈示するもの
- 卒業証明書
- 技能証明・有資格証明書
- 事業主の場合、事業における許認可証明書
- 預貯金残高証明・有価証券証明・不動産登記簿謄本
- その他、法務局から呈示指示を受けた書類
上記書類は例示列挙であり、実際には添付書類の少ない者でも副本を合わせて申請書類は1cm程度の厚さとなる。事業所得者の場合や世帯内で複数の帰化申請者が居る場合、親族状況の確定が簡単でない場合などは、申請書類はその厚さが4~5cmもある膨大なものとなる。
帰化申請における添付書類は、国籍・所得の内容・出生地・家族の状況・住居の状態などによってひとりひとり個別に違い、取得のタイミングが大変重要である。また、国籍証明書などは帰化できることがある程度定まってから取らないと大変な事態となるので注意しなければならない。
[編集] 単独日本国籍保持者の他国への帰化
他の国籍を同時に有しない純然たる日本国籍保持者(日本人)が、自らの志望により外国の国籍を取得した場合(つまり帰化した場合)には、国籍法第11条第1項の規定により当該帰化と同時に自動的に日本国籍を喪失する。しかし、当該事実を日本国政府として自動的に把握する制度・機構がない(他国籍離脱者には離脱完了時に日本の市町村へ届け出る義務はあるが、日本の当局と外国政府とが直接的に国籍情報を交換する制度はない)ため、離脱者本人からの届出がない場合は形式的には日本人としての戸籍はそのまま存置することとなる。このため、法律の建前上は日本国籍喪失状態であるにもかかわらず、当該(本来は無効である)戸籍謄本を用いて日本国旅券を取得したり住民登録するなどして、事実上多重国籍状態を継続する者もあるとされる。
なお、同法第11条第1項の「日本国籍自動喪失」規定はあくまで「自らの志望によって」他国籍を取得した場合という限定条件が冠されており、つまりは手続を踏んで自ら他国へ帰化した場合に適用されるものであり、たとえば当該他国における貢献などが認められて、前述の「大帰化」に相当する措置(その国における国会決議や大統領指令など)により当該他国籍を一方的又は恩恵的に付与された場合には、日本国籍を自動的に失うことはないと解される。
[編集] 日本国籍を有する多重国籍者の国籍選択の実情
前節のような単独の日本国籍者として出生・生育した後に自主的に他国へ帰化した者とは異なり、出生時点で合法的に多重国籍を有する状態になった者については、少なくとも日本国側の見解では22歳になるまでは多重国籍の保持が認められている(日本側で容認していても、外国側のほうでより若年齢での国籍選択を求める例があり、絶対的に22歳まで全ての多重国籍を保持することが担保される訳ではない。)。国籍法上の規定では22歳までにいずれか一つの国籍を選択し、その旨を日本の市町村に届け出ることとなっているが、仮に「日本国籍を選択する」と宣言した場合でも、残る他国籍を離脱するのは義務でなくあくまで努力規定である(離脱成就時の届出は義務であるがその前段階の離脱自体は義務でなく、またそもそも他国籍の離脱手続は日本国政府が関与できる事項でない)ため、日本国籍選択の宣言をしながら実際には他国籍をそのまま保持したり、日本を含む複数国の旅券(パスポート)を取得し使い分けたりする者もあるとされる。