四谷怪談
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四谷怪談(よつやかいだん)とは、元禄時代に起きた事件を元に創作された日本の怪談。東京都四谷が舞台となっているために、この名がある。
鶴屋南北の歌舞伎や三遊亭圓朝の落語が有名だが、怪談の定番とされ、おりに触れ、舞台化・映画化されているため、さまざまなバリエーションが存在する。最近の小説・映画化には京極夏彦の『嗤う伊右衛門』がある。
「貞女岩が夫伊右衛門に惨殺され、幽霊となって復讐を果たす。」というのが基本的なストーリーとなっている。
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[編集] 四谷雑談集
『四谷雑談集』(享保十二年(1727年)の奥付)に、元禄時代に起きた事件として記され、四世鶴屋南北の『東海道四谷怪談』の原典とされた話。
しかし、(物語中では失踪したとされる)岩が1500年代に稲荷神社を勧請したことが田宮神社の由来とされ、『四谷雑談集』の内容とは年代があわず、また、田宮家も現在まで続いており、信憑性には疑問がある。永久保貴一は、田宮家ゆかりの女性の失踪事件が、怪談として改変されたのではないかとしている。
史実では、岩の父、田宮又左衛門は徳川家康の入府とともに駿府から江戸に来た御家人で岩と伊右衛門は江戸の町でも有名な仲のよい夫婦だったといわれている。事実、伊右衛門は収入がとぼしく、食べる物もないような生活をしていたが、岩が奉公に出て生活を支えていた。岩が田宮神社を勧請したのちは生活が上向いたと言われており、岩を田宮家中興の祖とする見方もある。
[編集] あらすじ
四谷在住の田宮又左衛門の娘岩は、婿養子である伊右衛門にいびり出され、失踪する。
岩の失踪後、田宮家には不幸が続き断絶。その跡地では怪異が発生したことから於岩稲荷がたてられた。
[編集] 『東海道四谷怪談』
4世鶴屋南北作の歌舞伎狂言。5幕。作者南北の代表的生世話狂言であり、怪談狂言、夏狂言である。『仮名手本忠臣蔵』の外伝という位置付けで書かれ、1825年、江戸中村座で初演された時には忠臣蔵の幕間に演じられた。配役は、岩、小仏小平、与茂七の3役は5世松本幸四郎、民谷伊右衛門は7世市川団十郎、お袖は2世岩井粂三郎であった。
塩治義士、佐藤与茂七らが登場しているが、四谷怪談のみを上演した場合、塩治義士がらみのエピソードが浮くため、省略・改変を受けることが多い。
忠臣蔵と続けて演じた場合には、主君への忠義を尽した与茂七と、禄のためには敵である高師直にすら仕官しようとする伊右衛門との対比がより鮮明になる。
有名な舞台面としては、岩が毒薬のために顔半分が醜く腫れ上がったまま髪を梳き、悶え死ぬ、2幕目の伊右衛門内の場、岩と小平の死体を戸板1枚の表裏に釘付けにしたのが漂着し、伊右衛門がその両面を反転して見て執念に驚く、3幕目の隠亡堀戸板返しの場、へび山の庵室で伊右衛門がおびただしい数の鼠と怨霊に取り殺される場、などがある。
岩の役は、5世菊五郎に継承大成された。音羽屋のお家芸とされた。
[編集] あらすじ
(塩治藩のお取り潰しまでが演じられる)
塩治藩士、四谷左門の娘岩は夫である伊右衛門の不行状を理由に実家に連れ戻されていた。 復縁を迫る伊右衛門は左門を殺害。岩を言いくるめ、復縁する。 同じ頃、岩の妹袖に横恋慕していた下男直助は、袖の夫佐藤与茂七を殺害。仇討ちを条件に袖と結婚する。 民谷家に戻った岩は産後のひだちが悪く、病がちになったため、伊右衛門は、岩を厭うようになる。 高師直の家臣伊藤喜兵衛の孫梅は伊右衛門を気に入り、婿に望む。そのため、邪魔者となる伊右衛門の妻の殺害を計画。薬と偽って、毒を贈る。 伊右衛門は宅悦に岩を強姦させ、不義を言い立てて離縁しようと画策する。 梅からもらった薬のために髪が抜けた岩を見て脅えた宅悦は伊右衛門の計画を暴露。岩ともみ合いになり、殺害してしまう。 伊右衛門は岩と家宝の薬を盗んだとがで惨殺した小平の死体とを戸板にくくりつけ、川に流す。 伊右衛門は伊藤家の婿に入るが、梅との祝言の席で幽霊を見、錯乱して梅と喜兵衛を殺害。梅の乳母と妹までも手にかけ、逃亡する。 袖は宅悦に姉の死を知らされ、仇討ちを条件に直助に身を許すが、そこへ死んだはずの与茂七が帰ってくる。 結果として不貞を働いた袖はあえて与茂七、直助二人の手にかかる。 直助と袖とは実の兄弟だったことが分かり、直助は自害する。 真相を知った与茂七は舅と義姉の敵である伊右衛門を討つ。
(討ち入りが演じられる)
[編集] 落語 四谷怪談
三遊亭圓朝の創作落語。 伊右衛門の見た幽霊は、アルコール依存症による幻覚であるという解釈が加わっている。 伊右衛門の見る幻覚は、(アルコール依存症患者の見る幻覚として)精神科医の検証に耐えうるほどのリアリティをもっている。
[編集] 映画作品(戦後)
- 『四谷怪談(前・後篇)』(1949年松竹 監督:木下恵介 伊右衛門:上原謙、お岩:田中絹代)
- 『四谷怪談』(1956年新東宝 監督:毛利正樹 伊右衛門:若山富三郎、お岩:相馬千恵子)
- 『四谷怪談』(1959年大映 監督:三隅研次 伊右衛門:長谷川一夫、お岩:中田康子)
- 『東海道四谷怪談』(1959年 監督:中川信夫 伊右衛門:天知茂、お岩:若杉嘉津子)
- 『怪談お岩の亡霊』(1961年東映 監督:加藤泰 伊右衛門:若山富三郎、お岩:藤代佳子)
- 『四谷怪談』(1965年東京映画 監督:豊田四郎 伊右衛門:仲代達矢、お岩:岡田茉莉子)
- 『四谷怪談 お岩の亡霊』(1969年大映 監督:森一生 伊右衛門:佐藤慶、お岩:稲野和子)
- 『忠臣蔵外伝 四谷怪談』(1994年松竹 監督:深作欣二 伊右衛門:佐藤浩市、お岩:高岡早紀)
- 『嗤う伊右衛門』(2004年東宝配給 監督:蜷川幸雄 伊右衛門:唐沢寿明、お岩:小雪)
[編集] アニメ作品
[編集] 外部リンク
- 田中貢太郎「南北の東海道四谷怪談」(青空文庫)
- 田中貢太郎「四谷怪談」(青空文庫)