即興詩人
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『即興詩人』(そっきょうしじん、Improvisatoren)は、デンマークの童話作家として知られるハンス・クリスチャン・アンデルセンの出世作となった最初の長編小説で、イタリアを舞台とするロマンチックな恋愛小説である。原書は1835年刊行。
明治期の森鴎外による典雅な擬古文訳で名高く、「原作以上の翻訳」と評された。森鴎外は本作をドイツ語訳で読んで「わが座右を離れざる書」として愛惜していた。鴎外がドイツ留学より帰国して『舞姫』を発表した後、明治25年から34年(1892~1901年)の九年間にかけて、軍務の傍ら丹精を込めて独訳書から翻訳し、断続的に雑誌『しがらみ草紙』などに発表した。単行本としての刊行は明治35年(1902年)である。 その後、岩波文庫やちくま文庫などに所収されている。
当時は言文一致の流れで日本語の口語体が完成しつつある時期であったが、鴎外の翻訳は、敢えて雅俗折衷の流麗な文語体で綴られており、また必ずしも直訳ではなく、西洋の故事に由来する表現を中国古典の表現に置き換えるなど、技巧を凝らしている。
ドイツ語からの重訳である鴎外訳以外にも、デンマーク語原典からの口語訳として、大畑末吉訳(岩波文庫収録)と神西清訳がある。
目次 |
[編集] 書き出し
[編集] あらすじ
ローマはピアツツア・バルベリイニ(バルベリーニ広場)の貧しい家に生まれた少年アントニオは、思いつくままに詩を紡ぐ即興詩人になることを夢見ていた。幼くして母親を亡くすという悲劇にあったものの、彼の才能を買ってくれる名家も出てきて、アントニオの運命は順風満帆と見えたが、ローマの謝肉祭、復活祭の中での歌姫アヌンチヤタとの悲恋、親友ベルナルドオとの出会いと決闘を経て、数奇な運命に巻き込まれることとなる。アントニオはローマを逃れてナポリ、ヴェネチア、ポンペイとイタリア各地を遍歴する。そしてついにはアヌンチヤタと再会するが……
北欧出身のアンデルセンあこがれの地、南国イタリアを舞台に、親友の貴族ベルナルドオ、薄倖の歌姫アヌンチヤタ、小尼公フラミニア、盲目の美少女ララ、サンタ夫人、そしてヴェネチア一の美女マリアらの美男美女を配し、イタリア各地の名勝旧跡、風光明媚な自然のたたずまいを情熱をこめて描写している。鴎外訳『即興詩人』は、その流麗な雅文で明治期の文人を魅了し、『即興詩人』を片手にイタリア各地を巡礼して回る文学青年が続出した。正宗白鳥もその一人である。現代に至るも、画家の安野光雅が鴎外訳『即興詩人』に惚れ込んで、周りに『即興詩人』の魅力を布教して回り、実際にイタリア各地で作品の舞台となった土地をスケッチした『繪本 即興詩人』を発表したほどである。
なお、ダンテ・アリギエーリの叙事詩『神曲』の邦訳名は、『即興詩人』の一章「神曲、吾友なる貴公子」で鴎外が訳して以来、定着した。
[編集] 関連項目
- ハンス・クリスチャン・アンデルセン
- 森鴎外
- カプリ島(琅玕洞=青の洞窟)