動物行動学
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動物行動学(どうぶつこうどうがく、英 ethology)とは動物の行動を研究する生物学の一分野。行動生物学または単に行動学とも呼ばれるほか、時に比較行動学の訳語が当てられたり、訳語の混乱を嫌って欧名のままエソロジーと呼ぶ場合もある。人間の行動を社会科学的に研究する行動科学とは、関連性はあるものの別の学問である(behavioristics も「行動学」と訳されるが、ここで言う行動学(ethology)とは別のものである)。ただし、動物行動学の方法論をヒト研究に応用した「人間行動学」(英 human ethology)という分野もある。
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[編集] 行動とは
外界からの刺激や、内からの指示によって、動物が体のある部分で何らかの変化を起こすのはよく知られた当然のことである。これは単なる反応ではあるが、それが成長のような形を取らないもので、それらが一連の組み合わせで、結果としてその動物の生活に一定の役割を果たす場合に、それを行動という。一般に、動物は”動く物”であるので、その反応には移動を伴うが、必ずしも移動しなければ行動とは呼ばないわけではない。広い意味では体色変化や発光も行動の一部であり得る。
行動には、一定の目的が存在する(これは必ずしもそれを動物が認識していることを意味しない)。だから単純な反応であっても、目的があれば行動と呼び得る。たとえば人間のあくびは生理的な反応だが、講演者に横槍を入れるためにわざと大きくあくびをするのは行動である。行動は、その目的によって分類することも出来る。たとえば繁殖行動、探索行動などという呼び方をする。
広く考えれば、植物の場合も環境に対して一定の反応をするのであり、それを行動と呼べなくはない(たとえば陰で発芽した植物が日向に向かって伸びる)。しかし、植物の場合、それらは成長の調節の形を取るので、行動と呼ばない。
[編集] 動物行動学の範囲
広義には分子生物学や遺伝学的な手法を用いてモデル生物に対する実験を行う動物行動遺伝学も含むが、一般的には狭義の野外で野生の状態を観察する生態学的な研究や、研究室内でラットやチンパンジーなどを用いる研究を指す。野外では哺乳類や鳥類、社会性昆虫などを対象とすることが多い。
様々な行動を比較するとき、その目的によって分ける考え方はわかりやすい。たとえば餌を食べるための摂食行動、繁殖のための繁殖行動といった具合である。また、繁殖行動は、さらに配偶者を求める配偶行動や卵を産むための産卵行動や子育てのためのといった細分化が可能である。 特に生殖に直結する繁殖行動は注目されることが多い。
しかし、動物自体が目的を意識しているかどうかはわからない。そのようなものを科学の対象としては据えられないから、動物の行動を研究対象とするには、違う方向からの切り込みが行われることが多い。
その一つは、行動を維持するしくみの研究である。その行動が、生得的なものであるのか、後天的なものであるのかで分け、それぞれにそれを支えるしくみを解明する方向である。生得的なものであれば、それは遺伝子に基づき、神経系や筋肉系など、作りつけの装置の構造に基づくはずである。
- 反射や走性はそれ自体では行動と見なされることはあまりない。しかし、生活史の中で特定の時期に働いて、重要な行動の要素となる場合がある。
- たとえば、サケが生まれた川に戻るのは、川の水に含まれる成分への走化性が働くためと見られる。あるいは、マダニは地表で卵から生まれ、草をよじ登って葉の先の裏側に落ち着く。これは、負の走地性と負の走光性が働くからだが、大型動物が接近すると、吐く息に含まれる二酸化炭素を感知し、途端にその方向の葉の表側に移動する。これは二酸化炭素に対する正の走化性が働き、同時に負の走光性が正の走光性に変わるのではないかとも言われる。
- 後天的にできるようになる行動を、まとめて学習と呼ぶ。実際のその内容は様々である。
- よく動物実験で行われるものに、簡単な迷路を使って、目的地にたどり着く道筋を覚えさせる、というのがある。脊椎動物であれば、何度かの失敗の後、目的地にたどり着けば、それを繰り返すうちに、次第に失敗の数が減り、やがて一気に目的地にたどり着けるようになる。つまり道筋を学習したわけである。これは学習の典型的なものの一つで、試行錯誤学習などとも言われる。
- 生後に身につける行動としてはコンラート・ローレンツによる鳥類の刷り込みがある。
最近は進化論に基づいて適応度の面から行動を説明することを試みる社会生物学的研究が主流になっている。
[編集] 関連項目
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