動力分散方式
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動力分散方式(どうりょくぶんさんほうしき)とは、電車や気動車で組成された列車のような、列車の動力が複数の車両に取付けられている方式のことである。
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[編集] 長所と短所
[編集] 長所
- 列車総重量が動力集中方式より軽くなる(機関車が牽引する場合に比べて車両にかかる引張力が小さいため、車両の台枠の強度を下げ、軽量化できる)
- MT比が高い(大きい)程、加・減速性能やブレーキ性能が良くなり、上り勾配で高速走行が可能
- (電車の場合限定)回生ブレーキを有効に用いる事が出来るため、省エネルギーである
- 終着駅やスイッチバックで折り返す際、機関車の交換が必要ないので時間がかからない
- 動力車の一部が故障した場合でも、運行を続けることができる
[編集] 短所
- 製造費が高くなる
- メンテナンスに手間がかかり、故障箇所を発見しにくい
- 原動機によってはMT比が低い(小さい)程、加・減速性能やブレーキ性能が悪くなり、上り勾配での速度が落ちる
- 動力車は騒音や振動により乗り心地を損なわれる
- 2階建車両の車内が動力集中方式の客車に比べて窮屈となる
- 動力伝達装置に起因する抵抗が大きく、特に高速域でのロスが大きい
- 正面衝突時の乗客への被害が大きい
- 異なる電化方式の区間や非電化区間への乗り入れが限定される(電車の場合非電化区間では走行できず、気動車の場合も長大トンネルや地下鉄を排気ガスの換気が困難であることから走行できない)
[編集] 日本の動力分散方式の特徴
日本では曲線・勾配が多く、地盤が弱く(一般に機関車は重量が非常に大きくなり、軌道に大きな負担をかける)、駅間距離が短く、ターミナルにおける機関車付け替え用地の確保の困難などから動力分散方式の採用が進み、通勤列車から新幹線などの長距離特急までこの方式が使われている。
現在、日本の旅客列車では大部分の夜行列車と、一部の臨時列車(団体向け等)を除いて、ほとんどすべての列車が動力分散方式によっている。他国では、近距離列車は動力分散方式、長距離列車は動力集中方式という棲み分けをする場合が多く、世界的に見ると日本のような運行形態はむしろ珍しい(他国ではイタリアが日本同様の動力分散方式主体)。
日本でも昭和20年代まで、長距離列車は動力集中方式が中心であったが、昭和30年代になってから国鉄151系、153系、小田急SE車、そしてそれらの技術を発展させた新幹線0系といった優れた新性能電車が普及し、この頃に動力分散方式の優位が決定的になった。寝台列車に関しても車内の騒音や振動対策を施した動力分散方式の寝台電車として1967年に581系が、翌の1968年に583系が登場。その後、1998年に285系が登場している。また、2004年には編成を組成する貨物列車としては世界初の動力分散方式の試みとして、貨物電車のJR貨物M250系電車が登場している。
[編集] 技術の進歩による動向の変化
近年ではVVVF制御など、急速なまでの技術革新が進み、主電動機一台あたりの出力を大幅に向上させて、編成全体の電動車比率(MT比)を下げながらも従来の車両と同等もしくはそれ以上の出力を確保する手法が主流になっている(新幹線でも似たような手法で一部系列で付随車を連結しているものがある)。言わば動力集中方式的な要素も取り入れているとも言える。
- JR東日本209系電車以降の通勤・近郊型車両などのように、車体を大幅に軽量化した分主電動機の出力を下げて、その分を主電動機を過負荷運用させてカバーする手法もあるが、これは同社の極力保守にかけるコストや労力を減らして、老朽化した車両を速やかに大量に置き換える発想から来ている。
しかし、電動車一両あたりにかかる負荷が大きくなりがちであり、雨天時などの悪条件下で空転が多発するなど、運用面で問題が生じるケースも相次いだ。
対策として、電動車一両に積む主電動機数を減らし、その分を編成全体の電動車比率を上げる事でカバーする事で、編成全体の重量バランスを平準化させる手法を取る車両も登場している。JR西日本321系電車がその思想を本格的に採用した事で知られる。なお、同社所属の単行運用を基本とする125系電車でも、同様の手法を先行的に導入している。
[編集] 関連項目
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