冪乗
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冪(べき、power, exponentiation)あるいは冪乗(べきじょう)、累乗(るいじょう) とは、ある一つの数同士を繰り返し掛け合わせるという操作のこと、あるいはそれによって得られる数のことである。
なお、「冪」 の文字はもともと 「覆う、覆うもの」 という意味の漢字で、しばしば略字として巾を用いることもある(江戸時代の和算家が用いたものであるらしい)。常用漢字・当用漢字に含まれなかったことから1950年代以降、出版物などではかな書きあるいは「累乗」への書き換えが進められた。結果として初等数学の教科書では専ら「累乗」が用いられ、「冪」や「冪乗」という言葉は排除されたが、一方で「降べきの順」「昇べきの順」というような言葉の一部としては残ったままになっている。
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[編集] 定義
実数や群など、積の定義された集合 X の元 x と自然数 n に対し、X の新たな元 xn を x を n 回掛け合わせものと定義して、これを x の n 乗と呼ぶ。冪乗 xn に対して、x は底(てい、base、基数)と呼ばれ、n は冪指数または単に指数(しすう、exponent)と呼ばれる。また、底 x を固定し、冪指数 n を任意の自然数にわたり動かすときに得られる数を総称して、x を底とする冪乗あるいは単に、x の冪と呼ぶ。
冪乗は以下のように帰納的に定めることも可能である:
- x1 = x,
- xn+1 = xn × x.
集合と写像の言葉で言えば、N を自然数全体の成す集合としたとき、冪乗とは写像
- N × X → X; (n, x) → xn
のことである。このとき、指数 n を固定して、x を変数とする写像 X → X; x → xn を考えることができる。このような関数を総称して(X 上の)冪写像あるいは冪関数と呼ぶ。あるいは底 x を固定して N から X への写像 n → xn も考えられる。これは後述するような指数の拡張に伴い定義域を拡張できる場合がある。
x の 2 乗、3 乗は特に、それぞれ x の平方(へいほう、square)、立方(りっぽう、cube)と呼ぶ。この呼び名自体はそれぞれ、方形(四角形)、立方体の方、立方と同じものである。2 乗を自乗ということもある。
[編集] 指数の拡張と指数法則
x が逆元 x-1 を持つならば、自然数 n に対し、
- x-n = (x-1)n
と定義してやることで、x を底とする冪乗の指数を整数の範囲まで拡張することができる。 同様に、自然数 m に対し、x が m 乗根すなわち m 乗して x になるような数 y をただ一つ持つならば、そのような y を x1/m とし、自然数あるいは整数 n に対し
- xn/m = (x1/m)n
と定めることにより、x を底とする冪乗の指数を有理数の範囲まで拡張することができる。 このとき、指数法則と呼ばれる以下の関係式が成り立つ。
- xr+s = xr × xs 。
- xr×s = (xr)s 。
ただし、r や s は冪乗の定義できる範囲の有理数であるものとする。つまり、x が逆元を持たないなら自然数、逆元は持つが冪根を持たないなら整数、m 乗根を持つが逆元を持たないならば m を分母とする正の有理数、逆元も m 乗根も持つならば m を分母とする有理数である。また、x と y が積 × について可換であれば
- (x × y)r = xr × yr
が各項がきちんと定義されるような有理数 r に対して成り立つ。これも指数法則と呼ばれることがある。
なお考えている集合が、単位元を持つ・積が可換な環構造を持つならば、その和 + について、指数が自然数 n であるような冪
- (x + y)n
は二項定理に従う。
[編集] 指数関数
上で述べたことを x が実数の範囲で考えてみると、x が 0 でないならば 1/x が x の逆元であるから、
- x-n = (1/x)n = 1/xn 。
また、x が正の数であれば任意の自然数 m に対する正の m 乗根 m√x がただ一つだけ存在するから、任意の有理数 n/m に対し
となる。
さて、a が正の実数であれば、a を底とする冪乗の指数が有理数の範囲全体で定義されたのであるが、このとき a の冪乗はその指数に関して単調性をもつので、実数全体の集合 R における有理数の稠密性から、これは R 上で定義された連続関数に一意的に拡張される。これを a を底とする指数関数と呼ぶ。