偽医療
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偽医療(にせいりょう, Quackery)とは、一見医療行為の外観をみせるものの、その実態は全く治療効果のない医療行為のことである。医療行為と誤認させないものは、偽医療には含まない。なお、プラセボ効果以上の治療効果がある可能性のある医療行為については代替医療を参照のこと。以下、日本における状況を述べる。
医療行為とは、治療効果があることを前提にした行為のことである。なお、日本では、業務としての医療行為については特に「医業」とされ、医師法によって、医師(医師免許を持つ者)以外が行うことを禁止している。医師は、医学的正当性に基づいた医療行為を業務として行う。なお、医師以外に業務上の行為として認められている事項は、医業(業務としての医療行為)に含まれないのが通例である。
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[編集] 分類
[編集] 医師でない者による偽医療
医師でない者による偽医療は、治療効果が保証されないにもかかわらず、あたかも治療効果が保証されるようにいつわる行為のことである。カルト宗教に代表され、誤った根拠による診断、治療行為が多い。効果が認められないだけではなく、患者の健康に悪影響を与え、また、正しい医療を受ける機会を奪うことになる場合もある。
[編集] 医師を偽る者による偽医療
医師を偽る者による偽医療とは、医師免許を持たない偽医師による、一見通常の診療行為に見えるもののことである。医師法(昭和23年法律201号)の第17条には、(医師免許を有する)「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と定められており、懲役刑にもなる犯罪である。医師免許と、医学博士号とは別の資格であり、たとえ有名大学の医学博士号を取得していても、医師免許を持たなければ診療行為を行うことはできない。しかし、この点を理解していない患者は「医師免許を持たない医学博士」による診療を受けてしまう。
科学技術が発達した現代においても、一見科学的にみえる言説によって、だまされる患者は多い。疾患に対する診断方法、治療方針の決定方法を基礎理論から理解している患者は少なく、医療行為は、一般人にとっては理解が難しい事項も含まれるようになってきている。偽医師として必要な技術は、患者を信用させ、上手にだます事である。このため、医師免許を有する正規の医師よりも患者の評判が良いことがある。
[編集] 医師による偽医療
医師による偽医療とは、医学的正当性を無視した医師による行為である。これには、患者に役立つ目的なしに治療を行ったり、患者の同意なしに治療を行うことが該当する。医師が、安易に医療費を得るために行われることが多い。
以上に該当する偽医療として、場合によっては自由診療、保険外治療などと呼ばれる健康保険にない治療があげられることがある。しかしこれは、保険給付を受けられないだけで、ただちにそれが偽医療とされるわけではない。しかし、その中で、患者に意味がない治療や患者の意思を無視した治療は、偽医療とされる。これは、健康保険にある治療でも同様である。
なお、単に治療効果がないことを知りながら、そのむねを患者に説明せずに行う治療行為を偽医療と考えることもできるが、治療法が確立されていない疾患に対する姑息的治療を偽医療と呼ぶかは意見が分かれている。
[編集] 制度上の対応
国は健康増進法の改正等により、偽医療への規制の強化に乗り出している。偽医療の規制は、医学知識の欠如した者によって行われるすべての医療行為に対して行われるべきである。しかし、実際は、行政にとって都合の悪い医療行為のみが規制されているのが現実である。
[編集] セクトと偽医療(海外の例)
フランスではセクト(カルト)団体対策の一環として偽医療の取締りを強化している(精神科医の免許制度、損害賠償の拡大と被害者救済の制度、子供の虐待を発見した医師は被害者の同意の下、守秘義務が課せられることなく告発が可能)。 また医師会による指針の策定と簿弱状態にある人間への詐欺的行為の守秘義務を超えた通報許可、妊娠4ヶ月目の診断が追加され、母親が精神的に弱くなっていないかどうかを確認することなどが提案されている。
フランスにおいても日本と同じで「逸脱行為を行うセクト団体の活動は偽医療の分野に多く、病気や困難により精神的に弱くなっている人たち、そして医療関係者たちが、標的になっている」との行政書類がある。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- ロルフ・デーゲン 『フロイト先生のウソ』 (原題=『Lexikon der Psycho-Irrtuemer』(心理学間違い事典)ISBN 4167651300
- マーティン・ガードナー 『奇妙な論理-1 だまされやすさの研究』 市場泰男訳 早川書房 ISBN 4150502722