二十世紀の神話
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
文学 |
ポータル |
各国の文学 記事総覧 |
出版社・文芸雑誌 文学賞 |
作家 |
詩人・小説家 その他作家 |
『二十世紀の神話』(にじゅうせいきのしんわ、Der Mythus des zwanzigsten Jahrhunderts)は、1930年に公刊されたアルフレート・ローゼンベルクの著書で、ナチス・イデオロギーの根本文献。ヒトラーの『我が闘争』に次いで、党員に影響を与えた書物である。
[編集] 構成
- 第1巻 価値の葛藤:「種族と種族魂」「愛と名誉」「神秘説と行」
- 第2巻 ゲルマン芸術の本質:「種族的な美の理想」「意志と衝動」「人格様式と事象様式」「美的意志」
- 第3巻「来たるべき国」:「神話と類型」「国家と両性」「民族と国家」「北方的ドイツ的法律」「ドイツ民族教会と学校」「新しき国家組織」「本質の統一」
[編集] 教義と内容
ローゼンベルクはアーリア人種が、その道徳への感受性やエネルギッシュな権力への意志によって優れ、他の人種を指導すべき運命にあると論ずる。アーリア人とは北ヨーロッパの白人種を指す。ところが現代の芸術や社会道徳を支配しているセム系人種の悪影響が広く蔓延し、アーリア人種は堕落しつつある。アーリア=ゲルマン人種、北方人種の優越性、そしてユダヤ人に代表されるとする劣等人種との混交の危険性を説き、「人種保護と人種改良と人種衛生とは新しい時代の不可欠の要素である」と断言している。 ”神話”という用語は、この著書では”道徳・文化・信仰のための組織”という意味で使われている。その思想の源泉はニーチェと推測できるが、この他に、アトランティスから太陽神話から人種論、神秘から戦争論までが詰めこまれ、読みづらく退屈で衒学的な印象を与える、という評価が一般的である。
[編集] 反響
ヒトラーのチベット・占い・オカルトへの好みに、多大な影響を与えたと言われるこの本は、刊行以来6年のうちに50万部を売り、最終的には100万部以上売れたという。 1935年のノーベル賞委員会が、ドイツのカール・フォン・オシエツキーに平和賞を与えたことを侮辱とみなしたヒトラーは、「ドイツ学芸国民賞」を設け、その第1回受賞者の1人としてアルフレート・ローゼンベルクを選んだ。論理を無視し、専門研究家の厳密さを軽蔑する調子が、ナチス時代の知的風潮にはあっていたとも考えられる。 日本では昭和17年に中央公論社から翻訳発行され、この本について言及しているのは次の2人である。
神話をただ過去の時代のものと考へることは間違つてゐる。ナチスの指導者の一人ローゼンベルクの『二十世紀の神話』は全くの宣傳の書である。宣傳と啓蒙とは相反する作用をなし、歴史は兩者を共に必要とするのである。他の宣傳を無力にするには啓蒙は重要な手段である。また先んぜられた他の宣傳に對抗するための自己の宣傳は一層多くの啓蒙的要素を含まねばならないであらう。しかし啓蒙だけで宣傳と同じ效果が得られるやうに思つてはならぬ。すべてかやうなことは今度の事變における對外宣傳についても考慮すべきことであらう。
- 斎藤茂吉「双葉山(一月二十八日夜話)」より
吹田順助氏訳の『二十世紀の神話』でローゼンベルクは好い事を云つてゐた。「理論と実行との矛盾は、シラーやシヨーペンハワーと同様にゲーテにもある。十九世紀の全部の美学の罪は、それが芸術家の作品に結び付かないで、彼等の言葉を分析したことにある」といふので、彼等といふのは、シラー以下の諸先進のことを指してゐる。私自身の備忘録として原文を引くなら、原文は、”An die Werke der Künstler anknüpfen“である。この、”anknüpfen“といふ語は、糸などを結ぶことに用ゐられてゐる。つながり、接続、関係、機縁、縁故などといふ意味にもひろがつてゐるが、兎に角、結合してゐて離れない意味がある。ローゼンベルクはその事をいつてゐるのである。世の(過去の)芸術批評家や美学者などといふものは、希臘希臘と騒ぎ立てて、何でも希臘を標準として、自分の脚下の芸術を批評しようとして居る。人種も民族もおかまひ無しだ。それでは本当の批評は出来ない。さういふ点ではウインケルマンでもレツシングでも駄目であるし、十九世紀の美学全般が駄目である。なぜかといふに、実際の作物(Werke)と緊密に結びついてゐない論議ばかりしてゐるからである。さうローゼンベルクは云ふのである。ローゼンベルクの芸術論は、最近の独逸主義実行の必要上、随分一方的で無理な点があるけれども、時々は有益なことをいつてゐる。