下ネタ
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下ネタ(しも-)は、笑いをさそう排泄・性的な話題のこと。寄席における符牒のひとつであったが、テレビ業界で用いられるようになってから一般化した。「下がかった話」などともいう。現在ではもっぱら艶笑話について用いられ、かならずしも笑いをともなわない猥談や露骨に性的な話(エロネタ、エッチネタ)を指すこともある。下は人間の下半身(または「下品」の意味)、ネタは「(話の)タネ」を意味する。
また、この下ネタと同じ流れで猟奇的な話題を扱う没ネタも存在する。
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[編集] 下ネタの二種類
現在では、艶笑的な話題と、排泄にかかわる汚らしさによって笑いを誘う話題を総称して下ネタといっているが、本来の寄席用語では艶笑ものを「バレ(ネタ)」として区別しており、下ネタの原義は排泄物をめぐる笑話のことであったと思われる。落語においてはバレネタと下ネタ(狭義)のあいだにはあきらかな扱いの差があり、バレネタは粋や通を体現するものとして決して低く扱われないのに対し、排泄物をめぐる下ネタは下品で安易な笑いのとりかたであるとしてあまり好まれない。
以下、猥談を含んだ広義の下ネタについて述べる。落語における艶笑ものは、表現規制や戦中の禁演落語の問題ともかかわる。この点については「禁演落語」の項目参照。
[編集] 下ネタの社会的地位
一般に下ネタは下品なものと見なされ、好き嫌いは大きく分かれる。人間が生きてゆくうえで必要な事柄を利用して笑いを誘うだけに、わかりやすく、多くの人に通じやすいのは事実であるが、通常の生活において隠すべきものであり、また絶対のプライバシーとして確保されるべきものを暴露するものであるため、これに対して不快感や嫌悪感を持つ人も多い。また人間存在の根幹にかかわる性や排泄の問題は、文化や生活習慣、年代、地域、性差によってそれぞれにタブーの違いがあり、場合によっては誤解を呼んだり、相手を侮蔑・侮辱するものとして文化的な摩擦の原因となったりもする。
特に性的な下ネタは近代社会ではしばしばセクシャル・ハラスメントとして問題視されることがある。
同様の理由から、下ネタが比較的寛容に受入れられる社会であっても、私的な場と公の場においてはその待遇が違うことが多い。たとえばいわゆる艶笑落語は排泄物をめぐる下ネタよりも厚遇されているとはいえ、高座であまり大っぴらに語るべきものとは考えられておらず、小人数の内輪の会などで客席と親密な一体感を持ちながら演じられる。内容がきわどく、露骨になればなるほど、この傾向はつよく、タブーにつよくかかわる話柄であるだけに、下ネタはそれをとりまく状況やTPOにつよく左右されがちである。
[編集] 下ネタのテレビによる変質
テレビの発達にともない、寄席において生まれた下ネタという概念は大きく変質する。比較的少数の、しかも価値観を共有する均質な人々の集合であった寄席の観客とは異なり、広く大衆に向けて発信されることをその本質とするテレビにあっては、たとえ笑いの世界であっても、きわどさ、あくどさ、すれすれのおもしろさを狙う「毒」の部分が徐々に排除されてゆく。タブーにつよくかかわる下ネタはその典型的な例であって、いわば公私のあわいに存在する寄席という場においてかろうじて許されてきた下ネタであっても、公的なメディアの代表であるテレビでは「好まれざる下品なもの」として扱われることになるのである。下ネタ自体は同じものであっても、それをとりまくメディアの性格が一変したために、現在のような状況が現出したのである。
たとえばテレビにおいては、必ずしも下ネタを言わないお笑いタレントがテレビ番組で下ネタをする事が多くなると、「下ネタにしか頼れなくなったのか、もうあいつも終わりだ」という評価がつくこともある。逆に、下ネタだけに特化したタレントもいるが、そういった人は普通の番組からお呼びがかかりにくくなる。あまりにも下品なものは深夜番組でしか行われないことが多い。子供には見たり聞かせたりしたくないという、食事中に下ネタを見聞きすることで気分を害する、といった理由によって、テレビにおいては「おもしろさ」よりも「大衆的なうけのよさ」を重視するためである。
具体的にいえば、落語のなかには「実の母と関係する話」(『故郷へ錦』)や「小便を酒といつわって飲ませる話」(『禁酒の番屋』)のような相当にきわどくあくどい話があり、公然とまではゆかなくともこれらが寄席において口演された時代もあったわけだが、テレビでこの種の下ネタが披露されることはほとんどない。下ネタというきわどさ、あくどさの極北にある話柄すらも、テレビの大衆性の前においては毒抜きされざるを得ず、その結果、ブラウン管を通して下ネタとして放送されるものは、「性器や排泄物の俗称を公然と口にする」「性的な体験について語る(行為の詳細などは触れられない)」「局部を露出する」「性や排泄を暗示するような仕草をする」程度のことであって、もはや見ようによっては「下ネタが笑い全体のなかで安易な手法である」という以上に「テレビにおける下ネタがそれ以前の伝統的な下ネタの笑いのとりかたや工夫と比較して安易である」という状況が訪れているのかもしれない。
[編集] 下ネタの例
- 特に青年誌において生殖器や性行為を直接または間接的に想起させる言葉・会話・動作の表現が日常的に多用されているが、コロコロコミックやコミックボンボンのような児童誌ではあまり見られず、代わりに能動的な排泄で笑いを取る表現が多い。
- 主な漫画
- 紙入れ、明烏、磯の鮑、三助の遊び、つるつる、錦の袈裟(ちん輪)、引っ越しの夢、葛籠の間男、疝気の虫、目薬、茶漬け間男、故郷へ錦、禁酒番屋
- いわゆるバレ系統の噺には、本格的な噺よりも小噺程度のものが多い。[1]・[2]なども参照。
- テレビ
- よく練られた「ひとつの噺としての下ネタ」から、ただ単に「テレビで見せるべきではないものを見せて笑いをとる下ネタ」へと変質してゆく契機のひとつは、ザ・ドリフターズの風呂屋のコントではないかという説がある。
- 楽曲
[編集] 関連項目
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