一票の格差
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一票の格差(いっぴょうのかくさ)とは、主に国政選挙などで、有権者の投じる票の持つ影響力の違いのことである。一票の重みの不平等とも言われている。
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[編集] 概説
選挙区を区分して選挙をする方式では、州や都道府県などの境界、そして地理的な条件による境界を無視することはできず、一票の格差が完全に無くなることはありえない。このため、合理的な範囲を超えて不必要な格差がある場合が問題となる。
議員1人当たりの有権者数が選挙区によって違うため、有権者数が少ない選挙区ほど有権者一人一人の投じる1票が選挙結果を左右する可能性は大きくなり、逆に有権者が多い選挙区ほど1票の影響力は小さくなる。
さらに、各選挙区の有権者数を揃えても、選挙区毎に投票率が異なるため、投票率の高い選挙区の一票の影響力は小さくなり、投票率の低い選挙区の一票の影響力は大きくなる。このため、ある選挙区の落選者が得た票数が、別の選挙区の当選者が得た票数より多くなることがある。
[編集] 日本における問題
日本では法の下の平等に反すると各地で訴訟が起こされている。最高裁判所の判例では、「衆議院は3倍以上、参議院は6倍以上が違憲状態」とされている。
衆議院・参議院はこれまで対症療法的に一票の格差を是正することに取り組んできた。しかし、選挙制度改革とも関連しており政党や議員の利害が複雑に絡む問題で抜本的改革には至っていない。
衆議院は選挙区画定審議会を設置し格差が2倍以上にならないことを目標にしているが達成されていない。過去に1986年の「8増7減」、1992年「9増10減」、2002年「5増5減」の是正を実施した。目標達成には都道府県にまず議席を配分する基礎配分方式が障害となっており実現は難しい。
参議院は改革協議会の下に専門委員会を設置し議論しているが衆議院に比べて是正は遅れている。1994年に「4増4減」、2000年に定数削減を実施した。半数改選のため定数が最低でも2になることや都道府県単位の選挙区設定が是正を困難にしている。なお、鳥取県と島根県の選挙区を合区してしまうとある程度、一票の格差が解決する為に、そうした県境を越えた合区もたびたび提案されるが、これには否定的な意見が多い。最高裁判所の平成16年判決では、合区した場合には「政治的にまとまりのある単位を構成する住民の意思を集約的に反映させることにより地方自治の本旨にかなうようにしていこうとする従来の都道府県単位の選挙区が果たしてきた意義ないし機能が果たされなくなるおそれがある」と述べて、合区制度が採用されない現状に理解を示している。
かつては定数2の選挙区が定数4の選挙区より有権者が多い逆転現象も存在していた。
参議院ではアメリカの上院のように都道府県からの代表選出にすれば、一票の格差の問題はなくなるとする意見もある。しかし、その場合は国会議員が地域代表としての性質を帯びることを制度上追認することになるため憲法14条の平等権と憲法43条に定められた「国会議員は全国民の代表者」という扱いに反する可能性が指摘されており、憲法改正をしない限り憲法違反の問題は解消しないとも言われる。
[編集] 最高裁判決例
選挙投票日 | 判決日 | 衆議院 | 参議院 | ||
---|---|---|---|---|---|
格差 | 判決 | 格差 | 判決 | ||
1962年7月1日 | 1964年2月5日 | - | 4.09 | 合憲 | |
1971年6月27日 | 1974年4月 | - | 5.08 | 合憲 | |
1972年12月10日 | 1976年4月14日 | 4.99 | 違憲 | - | |
1977年7月10日 | 1983年4月27日 | - | 5.26 | 合憲 | |
1980年6月22日 | 1983年11月7日 | 3.94 | 違憲状態 | - | |
1986年3月 | - | 5.37 | 合憲 | ||
1983年6月26日 | 1987年9月 | - | 5.56 | 合憲 | |
1983年12月18日 | 1985年7月17日 | 4.40 | 違憲 | - | |
1986年7月6日 | 1988年10月21日 | 2.92 | 合憲 | - | |
1988年10月 | - | 5.85 | 合憲 | ||
1990年2月18日 | 1993年1月20日 | 3.18 | 違憲状態 | - | |
1992年7月26日 | 1996年9月11日 | - | 6.59 | 違憲状態 | |
1993年7月18日 | 1995年6月8日 | 2.82 | 合憲 | - | |
1995年7月23日 | 1998年9月2日 | - | 4.97 | 合憲 | |
1996年10月20日 | 1999年11月10日 | 2.309 | 合憲 | - | |
1998年7月12日 | 2000年9月6日 | - | 4.98 | 合憲 | |
2001年7月29日 | 2004年1月14日 | - | 5.06 | 合憲 | |
2004年7月11日 | 2006年10月4日 | - | 5.13 | 合憲 |
[編集] 諸外国の一票の格差
- 10年ごとの国勢調査に基づき、下院は州ごとにヒル方式で議席を配分したうえ、州内で均等に区割りをする。この方式が出来うる限りで一票の格差はもっとも少なくなる方法である。現状では格差は1.4倍以下だが、各州の人口の格差が広がれば、一票の格差は増加してしまうが、他に方法があるわけではない。上院は憲法に保証された各州平等の原則に基づき、各州2議席で、格差に換算すると70倍を超える。
- 1.50倍以内で調整。
- 総選挙があるたびに、1年以内に一票の格差を是正する。
- 全人口を選挙区数で割り、1議席あたりの人口の平均値を求め、原則としてこの+25%から-25%に収まるように区割りがなされる。ただし、州境を超えないようにするためにやむを得ない場合などは、+33%から-33%まで許容される。このため最大格差は2倍まで発生し得る。
- 比例ブロックは開票後、実際に投票した者の数に比例して定数を配分する。このため投票率の低いブロックの有権者一人当たりの議員数は減少し、一票の格差が生じる。
- 1.22倍以内で調整。
- 全国一区の比例代表制のため、議席は投票者数に比例して配分される。区割りそのものが存在しないため、一票の格差の問題自体が起こらない。
- 全国一区の比例代表制のため、議席は投票者数に比例して配分される。区割りそのものが存在しないため、一票の格差の問題自体が起こらない。
[編集] 何に比例して区割りを行い、議席を配分するか
- 人口に比例
- 代議士を、非有権者を含む全ての住人の代表とする考え方。アメリカ他多くの国で行われる。非有権者(子供、移民など)も含めた人口による議席配分であり、非有権者にとって有利。非有権者が多い地区の有権者の影響力が大きくなり、有権者間の一票の格差が生じる。
- 有権者に比例
- 代議士を、有権者(納税者)のみの代表とする考え方。イギリスで行われる。有権者間での一票の格差は生じない。非有権者の存在を完全に無視しており、「人頭の格差」が生じる。棄権した有権者も含めた有権者数による議席配分であり、棄権者にとって有利。投票率の低い地区の投票者の影響力が大きくなり、投票者間の一票の格差が生じる。
- 投票者に比例
- 代議士は、棄権した有権者を代表できないとする考え方。イスラエル・イラクなどの全国一区の比例代表制をとる国や、ドイツで行われる。投票者間での一票の格差は生じない。棄権者の存在を無視しており、有権者間の一票の格差が生じる。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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