ワスプ
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ワスプ (WASP) は、ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント (White Anglo-Saxon Protestant) の頭文字をとった略語で、米国での白人のエリート支配層を指す語として造られ、当初は彼らと主に競争関係にあったアイルランド系カトリックにより使われていた。1964年にE・ディグビー・ボルツェルが The Protestant Establishment: Aristocracy & Caste in America を著したことで一般にも用いられるようになった。この語の指示範囲は使用者によりまちまちであり、イングランド系を指す場合と長老派教会や会衆派教会、米国聖公会に属するスコッチ・アイリッシュやウェルシュ、スコティッシュなどむしろケルト系のものまで含む場合もある。
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[編集] 概説
元来「P」はPuritan(清教徒)で「メイフラワー号の移民の子孫」という意味合が強かった。イングランド系プロテスタントのアメリカ建国以来のエリート達が現在のアメリカ合衆国の支配的な地位を占め続けているとするニュアンスがこめられ(実際、第35代即ちケネディ以前の大統領は全員ワスプである)、主に反米、反アメリカ白人、反共和党、反キリスト教原理主義によって使用される傾向がある。
「S」についてはsuburban(郊外)と解釈する見方も一般的である。アメリカ社会の多様性の成熟・成長と共に都市部に集まりだした黒人を嫌う中流階級以上の白人世帯が、こぞって郊外に居住地を移した事を指している。公民権運動のもたらした成果・啓蒙によって、人種差別=悪という考えがすっかり定着した感のある今日のアメリカであるが、残念ながらまだまだ貧困がもたらす犯罪率の割合が白人に比べ比較的高い黒人・中南米から移民(もしくは不正入国)したヒスパニック系住民と関わる日常での接点を少しでも忌避したいという感情論も影響を与えている。所得の高い世帯ほど、より都心部から離れた郊外の住宅地を好み、住宅地丸ごと高い塀に囲み、警備会社にガードされたケースも目立って増加している。中流以上の所得があり、自分達と比較しても、そう極端に見劣りしない教育を受けている有色人種・移民系住人については、身近な日常生活(近所付き合い)の場でも親身に安心・信頼して温かく接する事が出来ると考えている点などが、一般的な人種差別主義者との大きな相違・特徴である。
その一方で、所得水準の低いワスプについては、人種差別的傾向が強く、むしろその支柱的存在を担っている面もある。これは下記の背景が関連する。
家計の困窮(不満足な賃金額、もしくは失業し易い不安定な状況、或いは失業そのもの)の原因を、安い労働賃金でも引き受ける移民系の存在に求める(もしくは、企業が安い労働力を求め、アメリカ国外、即ち、中南米やアジア等へ生産拠点が移転・流出している状況も不満のはけ口である)事。
人種差別を絶対悪と自然認識出来る様に人格形成される為に、ある程度以上に必要であった教育を満足に与えられなかった為。
アメリカの市民生活を基準とした場合。必ずしもそうではないが、学費の安い公立の高校では、その辺の情操教育にまで手が回らないのか、公然と差別的感情を剥き出しにする生徒を特に指導もせず放置したまま平然と社会に送りだす傾向が強く、徐々にそういった放任姿勢が社会問題化しつつある。
寓話的・神話的感もある1950年代の白人文化中心の豊かなアメリカ(両親や祖父母が若かった頃は、自分の家庭でも当たり前の様に享受出来ていた豊かなアメリカ社会という思い込み)への憧憬と現代のアメリカの差異について、表面的な部分だけで、その原因を移民の増加や公民権拡大による黒人層の社会進出の増加に求める。一種の屈折した失地回復願望とも言える。
子供に対し教育熱心(ある程度以上、所得にゆとりがある為、教育費への捻出にも積極的)な世帯が多くを占め、長年に渡る成果として高学歴者を多く輩出し易い。それゆえ、思想もリベラル的傾向が強く、民主党支持者も多い。またワスプを批判した様々な作品にて、単に知性をファッションの一つと考え偽善的にリベラリストを気取る鼻持ちならないワスプを描いた作品も多く、一概にフィクションの世界の中だけの話とも言い切れない。子孫に代が移るに従い、生活水準・実質階級が下がっていく事への潜在的恐怖も教育熱心の原因の一つという批評もある。
スズメバチ科のスズメバチやアシナガバチの総称の派生語でもある。北米で一般に wasp と呼ばれる蜂は日本でいうスズメバチのような致死力のある恐ろしい蜂ではなく、食卓の食肉や野外の死肉にたかってくる、いわば蝿のような不快害虫であり、蔑称の意味合いが強い。
[編集] ワスプを風刺した作品、もしくは風刺する場面が登場する作品
[編集] 映画
- 愛がこわれるとき
- アダムスファミリー2
- アップルゲイツ
- アメリカン・サイコ
- カラー・オブ・ハート
- ザ・クラフト
- シリアル・ママ
- スパイダーマン3
- セント・エルモス・ファイヤー
- 大逆転
- ファイト・クラブ
- フィッシャー・キング
- 普通の人々
- ボウリング・フォー・コロンバイン
- ゆりかごを揺らす手
- レス・ザン・ゼロ
[編集] TVドラマ
- ビバリーヒルズ高校白書
- ビバリーヒルズ青春白書
- 恐竜家族: 擬人化された恐竜(進化し、現代の人類社会とほぼ同じ大量消費社会文明を営んでいる)の一家を描くファミリー・ドラマ。主人公である少年の母親の実家は、まさにワスプそのものをモデルにしている。母の父、つまり主人公の祖父(痴呆気味)は退役した元将軍で、実家も有数の名家。母の独身時代は、同じ資産階級同士の虚飾に満ちたパーティーに幻滅しながらも始終参加させられ、ごく普通の労働者階級の男性であった主人公の父親と交際を始めた際、周囲の知人・親類から偏見に満ちた理由で猛烈に反対される。
[編集] 小説
[編集] 関連用語
- スプロール現象
- 郊外
- 郊外化
- サバービア
- 田園都市
- ニュータウン
- ベッドタウン
- スラム
- インナーシティ
- 自由主義
- 新自由主義
- リバタリアニズム
- ロックフェラー・リパブリカン
- ヤッピー(二節目の方を参照の事)
- アイヴィー・リーグ
- フランクリン・デラノ・ルーズベルト