リベロ (サッカー)
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リベロ(Libero)はサッカーのポジションの一つ、ディフェンダーの一種。 イタリア語で「自由な人」という意味。元々はマンマークすべき相手のいない「自由な」ディフェンダーであったことから、そう呼ばれるようになった。
スイーパーの一種で、守備においてはフィールドプレーヤーの最後尾で、ディフェンスラインの後ろのスペースをカバーしつつ、チーム全体の守備を統率する。そしてチャンスがあれば、相手陣内まで上がって攻撃参加する。
[編集] リベロの起源
冒頭で述べたように、イタリア語で「自由」という意味を持つポジション。なぜ「イタリア語」なのかというと、それは、イタリアのカテナチオという戦術の中でのポジション名だったからである。 カテナチオとは、FW以外のほとんどの選手を相手チームの選手にマンマークでつかせ、ディフェンスラインの後ろ、チームの最後尾に一人だけ、マークすべき選手を持たない「自由に守る」選手を置いた戦術のこと。
カテナチオの基となる戦術自体は他国で生まれたものだったが、それを使いこなして有名にしたのはイタリアのクラブ、インテルであった。そのため、カテナチオ、リベロとも、イタリア語で歴史に名前を残すこととなった。
一方、このポジションのことを、英語ではスイーパーと呼んだ。スイーパーとは、DFの中で、マーク相手を持つストッパーの後ろでそのカバーをする役目の選手のことである。だからこの時までは、リベロ=スイーパーであった。
しかしその後、ドイツのフランツ・ベッケンバウアーが、スイーパーとしての役割をこなしつつ、攻撃にも参加するという新たなスイーパーのスタイルを確立した(スイーパーは元々、マーク相手を持たないので、攻め上がることは容易であった)。そして、それまでのスイーパーと区別するために、攻撃に参加するドイツ流のスイーパーをあらためて「リベロ」と呼んで区別するようになったのである。
[編集] ドイツのリベロ
ドイツ流のリベロには、攻め上がるというその役割上、かなり高い能力が求められる。もちろん「攻め上がる」というのは、チーム戦術にそれが組み込まれているという意味で(DFが時々攻め上がること自体はそんなには特殊ではない)、自由気ままに、という意味ではない。
「リベロ=自由人」というと、「自由に攻め上がる」と勘違いする人が多いが、実際に攻め上がるのはかつてのドイツのリベロくらいなもので、本当に自由に攻め上がる「フリーポジション」という意味でのリベロにいたっては、オランダのルート・フリットくらいのものだろう(実際フリットは、サンプドリア時代、「フリーロール(=自由な役割)」と呼ばれていた)。リベロの攻め上がりを基本戦術とするということは、選手個人にかなりの能力を期待して戦略を立てるということであり、もちろんそんな能力を持った選手は、それほど多くはないからである。
ただドイツの場合、以前は優れた能力を持った選手は、一度はリベロをやらされていた。アンドレアス・メラーなどもリベロに置かれたことがあるくらいである。
[編集] 現代サッカーにおけるリベロ
現在、スイーパー型のリベロは存在するが、ドイツ式のリベロは、ほとんど見られない。現代サッカーでは、試合の流れの中で守備陣が攻撃参加する戦術としては、サイドバックあるいはウイングバックがオーバーラップする形が主流だからである。 リベロは今で言うCBのポジションであるが、そこから前線へ攻め上がる姿は稀に見られる程度である。それもあくまでCB個人の状況判断によるものであって、戦術としては現代の主流ではない。 今でもディフェンスラインを3バックで構成する場合、ストッパー2+リベロ1の形が多いが、その場合のリベロは、大体スイーパーである。近年ではダブルボランチを置くチームが多く、うち一人が攻撃に参加する場合が多いため、更に中央のディフェンスが、リスクを冒してまで攻撃に出る必要がないという事もある。
ドイツのリベロも、90年代初頭のローター・マテウスの頃にはすでに、DFラインに欠かせない存在ではなくなっていた。その頃のリベロは、リベロとはいってもフォア・リベロ(フォアシュトッパー)だった。守備力ではなく中盤でゲームを構成する力(攻撃力)を持った選手(例えばトーン、マテウス、ザマーなど)を、ディフェンスラインの前に配置するというものであった。つまりディフェンダーから、DFラインの前に位置する戦術的制約を受けない下がり目のミッドフィールダーへと変化していたのである。そして彼らの上がったスペースを消すために、3バックの相棒2人には強力なストッパーを配置した(アウゲンターラー、ヘルマー、コーラー、ブッフバルト等)。
ドイツ人以外の他にリベロといえば、ロナルト・クーマン、フランコ・バレージ等が有名。
日本でリベロというと井原正巳や、韓国では洪明甫がそう呼ばれたことがある。彼らはシュート力があった(洪明甫は中盤としてもプレーできるタイプであった)ので攻撃に参加することがあったが、それは負けている試合の最後の攻撃であるとか、クラブチームやアジア1次予選など、相手が滅法弱い場合に限ってのことで、相手が強かったりビッグゲームでリスクを冒して前に出る事は無かった。
守備重視、堅守速攻が主流のサッカーが世界的に続いているため、実質絶滅しているポジションかもしれない。