ボランチ
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ボランチ、あるいはヴォランチ(葡:Volante)は、サッカーのポジションの一つであり、「中盤の底」とも言われる。 日本では守備的ミットフィルダーという意味不明な表現方法で伝えられているが、それは大きな間違いである。
ブラジルでのみ使われるポルトガル語の用法のひとつが日本に輸入されたものであり、ブラジルと日本以外では通用しない言葉である。ブラジル以外の国にも、これに相当するポジションが存在するが、その役割と呼び方は、国によって差異がある。
また、日本語でのボランチという言葉の使われ方も、ブラジルでのものとは微妙に異なる。
ブラジルでは、ポジションだけを指すのではなく選手の役割も含めた呼び方であり、中盤の底に位置するからといって、必ずしもボランチとは言えないようであるが、日本でボランチと言う場合は、普通、ミッドフィールド後方のポジションの守備的ミッドフィールダーの選手のことを指す。
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[編集] ボランチの語源
- 説1 「ボランチ=ハンドル」説
- 元の意味はポルトガル語で「(車の)ハンドル、舵」。
- 語源はハンドルや舵を切るように、チームを操ることに由来すると言われている。
- 説2 「ボランチ=うろつき回る」説
- 南米にサッカーが本格的に伝わった当時、そのフォーメーションはフォワード、ハーフバック、フルバックのピラミッド型のクラシック・システムであった。
- その二列目のハーフバックのうち、真ん中に位置する選手は、フィールドを自由に動き回ることを許された、攻撃と守備を司る特別な選手であった。
- 当時、その選手のことをイギリスでは“ロービング”・センターハーフと呼んだ。ロービングとは、日本語で「うろつき回る」という意味である。その「うろつき回る」をスペイン語に訳すと「ボランテ」、ポルトガル語なら「ボランチ」となる。これが語源だという説。
- ちなみに、かつてアイスホッケーには、フォワードとフルバックの間に「ローバー」というポジションがあった。アイスホッケーはホッケー(フィールドホッケー)を参考に誕生したのだが、そのホッケーはサッカーの戦術を参考にしていた。そしてローバーは、ちょうどセンターハーフの位置に当たるポジションであった。
- ローバー(英:Rover)とは、「漂流者、うろつき回るもの」という意味である。
[編集] 一般的な役割
日本でボランチと言う場合、DH ディフェンシブハーフのポジションを表す。 しかし、ブラジルでの本来の意味には、中盤のスペースをコントロールし、守備と攻撃の両方で高い能力を発揮する役割が含まれると言われている。従って厳密には、ポジション名とは言い難く、役割名と言うべきかもしれない。
ボランチが1人の場合、運動量によってピッチをカバーしきるのは明らかに不可能なので、それよりもそれを補うポジショニングや味方に支持するコーチングなどの戦術センス、さらにはキープ力と展開力といった、総合力とインテリジェンスが非常に重要視される。
ボランチを2人採用する場合はワンボランチと違い味方のカバーを当てに出来るのでオールラウンダーでなくともタイプの違う選手同士を組み合わせてお互いを補完しあうことができる(例えば守備力の劣るゲームメーカータイプの選手を完全なハードマーカーと組ませる等)
現代サッカーでは最も重要な役割の一つで、頭脳、体力、技術の3つが高いレベルで要求される。
プレッシングというディフェンスの隆盛によって、最も人が密集している中盤中央では、トップ下の選手によるゲームメイクはほぼ不可能。その点ボランチはやや下がり目に位置するので、相手のFWや攻撃的MFからのプレスは受けにくくDFからは遠い。その利点を生かして、守備だけでなく攻撃の組み立てにも加わることを要求されるようになり、「守備的」という言葉だけでは言い表せなくなってきた。そのため、ちょうど同じ頃にブラジルから入ってきたボランチという言葉が、それまでの守備的ミッドフィールダーという言葉に代わって用いられるようになった。
南米ではわりと昔からゲームを作るのはこのポジションであったが、欧州ではほぼ守備力だけが重視されてきた。 しかしながら90年代初めヨハン・クライフの率いたバルセロナのジョゼップ・グアルディオラ(イタリアではアルベルティーニ)の出現以降は、より前線にスペースが無くなってきた事もあり、展開力のある選手が起用されるようになってきた。
[編集] 各国での呼び名
[編集] ブラジル(ポルトガル語)
ボランチとは、中盤の底で、相手の攻撃の起点となるプレーを潰し、その一方で自分のチームの攻撃の起点となり、あるいは積極的に攻撃参加するミッドフィールダーのこと。攻守両面に関わる、日本よりもオールラウンダー的なイメージの選手。
ブラジルでボランチという言葉が使われるようになったのは1970年代。70年のメキシコ・ワールドカップでのクロドアウドがその起源ではないかと言われている。
最近ではブラジルでも2人のボランチが使われることが多い。そして、その2人を役割によって区別することもある。ひとつはより守備に重点を置くプリメイロ・ボランチ=第1ボランチであり、もうひとつは攻撃の組み立てにも加わるセグンド・ボランチ=第2ボランチである。
[編集] ポルトガル
ポルトガル本国ではトリンコ(葡:Trinco,掛け金)がそれに当たるが、守備専門のミッドフィールダーである。
[編集] 英語圏
英語では、Defensive midfielder のこと。
ポジション的には、最近よく使われる Central midfielder が相当するが、こちらはミッドフィールド中央の選手全体を表す言葉である。その中でも、最近流行の
- Holding midfielder
- Holding player
- Midfield anchorman
- Anchorman midfielder
などと呼ばれる、主に中盤の底での潰し役を担当する選手が、意味合いとしては近いだろう。
以前、ほぼ全チームが使っていた4-4-2のフォーメーションでは、中盤中央の2人は、少し古い言い方で
- Inside right/Inside left
または
- Right wing half/Left wing half
という呼び方となる。
- (外側の2人はRight winger/Left winger)
[編集] イタリア
イタリア語では、チェントロカンピスタ・チェントラーレ(伊:centrocampista centrale=セントラル・ミッドフィールダー)の一つ、メディアーノ(伊:mediano=「真ん中にいる人」という意味)という語が一番近い。中盤の底に位置する、ダイナモ型の守備専門のMFというニュアンスで使われる。
メディアーノは、その役割の違いによって、
- レジスタ(伊:Regista)
- インコントリスタ
- クルソーレ
などのタイプ別に分けることもできる。
[編集] スペイン
スペインではピボーテ(西:Pivote=ピボット、軸)と呼ばれ、中盤の底で少ないタッチ数でボールをピッチ全体に散らす、パスのさばき役を担う。守備を強化する場合は、2人のピボーテを使う。その内、1人が攻撃を組み立て、もう1人が相手の攻撃を遅らせたりボールを奪ったりという守備的役割を担当する。
[編集] アルゼンチン(スペイン語)
アルゼンチンでは、このポジションは数字でシンコ(西:cinco=5番)、ヌーメロ・シンコ(西:número cinco=ナンバー5)と呼ばれる。アルゼンチン人が一番こだわる番号であり、最初に決まるポジションでもある。 チームの中で、サッカーの最も上手い選手が務める。中盤の底で激しく汚く守備をしつつ、ゲームも組み立てる。ここからボールを散らし始めるというのがアルゼンチン・サッカーのスタイル。
またアルゼンチンでも、ポルトガル語のボランチと同源同形のスペイン語、ボランテ(Volante)という単語が使われるが、実は、最初にこの言葉を使い出したのはアルゼンチンである。ただし、こちらは指し示す対象がミッドフィルダー全体であり、ボランテ・オフェンシーボ(攻撃的MF)、ボランテ・ディフェンシーボ(守備的MF)、ボランテ・ラテラル(サイド・ハーフ)のように、そのあとに役割を表わす言葉をつけ加えてボジションを表現する。
[編集] ドイツ
ドイツ語ではフォアシュトッパー(独:Vorstopper) と呼ばれ、ストッパーがDFラインの前方に位置したものである。
[編集] フランス
フランス語では「6番」と呼ばれ、日本でのボランチの役割に近い。他にも回収や掃除を意味する「récupérateur」を使うこともある。
[編集] 人数の呼び方
ボランチの人数によって、ダブルボランチ、トリプルボランチと呼びわけられる。前者は2人、後者は3人ボランチを配置するシステムである。
だが、こだわる人は、英語とポルトガル語が混ざっているので使うべきでないとして、ドイスボランチ、トレスボランチという呼び方をする。(ポルトガル語では「2」はドイス、「3」はトリスと言う)。
しかし、現実問題として、ボランチという言葉自体がすでに日本語のサッカー用語となっており、マスコミなどでもダブル― 、トリプル― という言い方が定着している。
[編集] 代表的なボランチ
- フェルナンド・レドンド
- デメトリオ・アルベルティーニ
- ディエゴ・シメオネ
- ジョゼップ・グアルディオラ
- エジミウソン・アウベス
- エステバン・カンビアッソ
- マウロ・シルバ
- エマニュエル・プティ
- エメルソン・フェレイラ
- クロード・マケレレ
- ジェンナーロ・ガットゥーゾ
- シャビ
- シャビ・アロンソ
- シュテファン・エッフェンベルク
- スティーブン・ジェラード
- ダニエレ・デ・ロッシ
- ディディエ・デシャン
- ディノ・バッジョ
- アンドレア・ピルロ
- トゥーリオ・ルストーザ・セイシャス・ピニェイロス
- ドゥンガ
- トニーニョ・セレーゾ
- パトリック・ヴィエラ
- フィリップ・コクー
- フランク・ライカールト
- フランク・ランパード
- マウロ・シルバ
- ミヒャエル・バラック
- ロイ・キーン
- ローター・マテウス
- ジュニーニョ・ペルナンブカーノ
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