ホモトピー
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ホモトピー (homotopy)とは、点や線や面などの幾何学的対象、あるいはそれらの間の連続写像が連続的に移りあうということを定式化した位相幾何学における概念の一つ。
空間に "穴" が開いていれば、曲線をそれを越えて連続的に変形することができない。したがって、ホモトピーによって空間の構造や写像の振る舞いを調べることができる。ホモトピーが威力を発揮するのは、空間や写像といった幾何学的な対象から群や準同形などという代数的な対象を対応付けることであり、またそのような代数的な対象が計算という演繹的な操作により調べられるということにある。
このように、代数的な道具によって空間と写像の位相的性質を調べるという方法をとる幾何学は、代数的位相幾何学と呼ばれる。
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[編集] 概要
まず、線分の厳密な抽象化である、道(みち、path)という概念を定義する。 I を R の閉区間 [0, 1] とし、X を位相空間とする。I から X への連続写像 α を X 内の道といい、α(0) を始点、α(1) を終点という。
つまり、道とは「二点を結ぶ向き付けられた連続曲線」のことである。"道" というと自分自身と交わらない線を連想するかもしれないが、この定義に従えば途中に自分自身と交わる点があってもよく、その点については素朴な線分の概念とは異なる。特に始点と終点が一致する道は閉道(へいどう、closed path)あるいはループという。閉道の始点のことを(それは終点と言っても同じものだが)基点 (base point) という。基点以外に自分自身と交わる点を持たない閉道はサイクルと呼ばれることがある。
道を "つなぐ" ことで次のように積 "*" を定義することができる: 2 つの道 α, β に対して、α(1) = β(0) が成り立つとき、
また、向きを逆にすることで道の逆あるいは逆道が定まる:道 α に対し、α の逆道 α-1 とは、
- α − 1(t) = α(1 − t).
位相空間 X と連続関数 H(s, t): [0, 1] × [0, 1] → X が、X 内の二つの道 α, β に対して
- F(0, t) = α(t) ∧ F(1, t) = β(t)
を満たすとき、写像 H を道 α, β の間のホモトピー (homotopy) あるいはホモトピー写像という。また 2 つの道 α, β の間にホモトピーが存在するとき、α と β は互いにホモトープ (homotope)、ホモトピック (homotopic) であるまたは、同じホモトピー型であるといい、
と表す。また特に、始点と終点をそれぞれ共有する 2 つの道が与えられたとき、その始点と終点を固定するようなホモトピーを道ホモトピーあるいは端点を固定するホモトピーという。
"ホモトピー型が同じである" という関係 は同値関係であり、同値類が定義できる。この同値関係に関して道 α が属する同値類のことを α のホモトピー類といい、[α] などで表す。位相空間 X 内の一点 p を固定し、p を基点とする閉道の全体 Ω(X, p) を考えると、これは道の積に関して閉じている。これを道ホモトピー型が同じという関係で割って得られる商集合に自然な演算
を定義すると、群が得られる。これを π1(X, p) を p を基点とする基本群(きほんぐん、fundamental group)あるいは 1 次元ホモトピー群という。
[編集] 定義
閉道とは基点を持つ 1 次元球面 S1 (の連続像)であるということができる。これを一般に位相空間 X とその一点 p を固定して、p を基点とする n 次元球面 Sn(の X への連続像)の全体 Ωn(X, p) をホモトピー型が同じという関係で割ることが考えられるが、これによって商集合として得られる πn(X, p) はやはり群を成し、n 次元ホモトピー群と呼ばれる。
[編集] 性質
- ホモトピー群は位相不変量である。
- 基本群は位相空間の連結性を知る指標である。
- X が弧状連結な位相空間であれば、その基本群は基点 p の取り方によらず同型である。
[編集] 関連項目
- ホモロジー
- モノドロミー
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