ブラックメタル
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1990年代に入って現れた、サタニズム及び黒魔術への傾倒を特徴とする、反キリスト教主義を強く打ち出したヘヴィメタル。ブラックメタルバンドの中には、ペイガニズムやナチズムを掲げるものも多い。元はノルウェーを中心とした、スカンディナヴィア地方が本場だったが、現在ではフランスやウクライナをはじめ、ヨーロッパ、南米、北米、東アジア、東南アジア、オーストラリアなど世界各地のアンダーグラウンドでシーンが築かれている。
音楽性においては、スラッシュメタルバンドVenomが1982年に出したアルバム『BLACK METAL』が始まりだとされている。さらにその後出てきたHellhammerやBathoryにより、今日のブラックメタルの基本となるサウンドが作り出された。1980年代には、これらのサタニックなスラッシュメタルバンドが「ブラックメタル」と呼ばれることもあった。(また、現在でもオールドスクール・ブラックと呼ばれている。)
長らく人の知るところではなかった、この路線を継承したバンドが俄に注目を浴び、ブラックメタルの名が広まるに至ったのは、スカンディナビアの反キリスト教組織Inner Circleの存在が大きい。
Inner Circleは、Mayhem、Emperorのメンバーを中心とし、教会への放火、十字架の破壊、殺人、窃盗、自殺などと数々の事件を起こした。組織内の格付けは行った犯罪の大きさで決まったと言われている。中でも最も有名なのは、Burzumの中心人物、カウント・グリシュナック(Count Grishnackh、本名:Varg Vikernes)による、Inner Circle及びMayhemのリーダーであったユーロニモス (Euronymous) の殺害である。この事件でカウントが捕まった事をきっかけに、Inner Circleの犯罪が次々と発覚し、最初期のブラックメタルシーンは崩壊してしまう。
ファッション面の特徴として、顔全体を白く、目の周りを黒く塗ったコープスペイントをする者が多い。他には全身黒服、鋲が多く打たれたリスト・バンド、ガンベルト、バンドTシャツ、センター・パートのロング・ヘア、革ジャケット、ロング・ブーツ等。ただし、これらのファッションはブラックメタルに限らず、一般的なメタルシーンでも見られる。
ブラックメタルのバンドやファンの中には、ブラックメタルをあくまでアンダーグラウンドの音楽だと考えている人が多く(特にサウンドプロダクションに関しては、クリアでない方がいいと考える人が多い)、商業的な姿勢をとるバンドはしばしば非難が浴びせられる。(代表格はクレイドル・オブ・フィルス、ディム・ボガー。彼らの音楽は既に、ブラックメタルとは別物になってしまったとされる場合もある。)
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[編集] 特徴
一口にブラックメタルと呼んでも、楽曲演出はバンドによりさまざま。
- 例:スラッシュメタルに近い楽曲のバンド、野獣性の強いバンド、キーボードを使い荘厳な雰囲気を重視するバンド、デスメタルに近い楽曲のバンド、限りなく悪い音質とノイズや不協和音を多用するバンド、流麗なメロディーを重視するバンド、攻撃的でハイスピードな楽曲のバンド、重苦しくひきずるような遅さを持つ楽曲を重視するバンド、破滅的かつ混沌・錯乱したような演出のバンドなど。
ただし、ブラックメタルに括られる音楽にはいくつかの特徴を見出すことが確かに出来る。もちろん、ここに挙げる全ての特徴が当てはまるバンドは少ないが、ほとんどのバンドは以下の特徴のいくつかを持っている。
- 高音域を強調したノイジーなギターサウンド
- トレモロリフ
- 速くシンプルなドラムビート。ブラストビートが頻繁に使われる。
- キーボードを使用することで寒々しく憂鬱な雰囲気を作りだす。
- うなり声、金切声
- ローファイなサウンド
ギターリフはスラッシュメタルやデスメタルのほか、ハードコアやクラシックに影響を受けている場合もある。キーボードアレンジに関しては、シンフォニック・ブラックメタルにカテゴライズされるバンド群では特に、クラシック風のフレーズが使われることがある。その他のジャンルの影響としては、中期SatyriconやMyrkskogのようにインダストリアルメタルから影響を受けたもの、後期EmperorやBorknagarのようにプログレッシブロックから影響を受けたもの、Absurd のように Oiパンクから影響を受けているものなどがある。また、メンバーがサイドプロジェクトとしてアンビエントやインダストリアルノイズをやっている場合もある。
[編集] 思想・哲学
ブラックメタルのシーンには、音楽活動を通して思想を伝播することを重要だと考えているバンドが数多くいる。一般的なブラックメタルの思想は、サタニズム(悪魔主義)という言葉に集約されている。サタニズムには色々な面があるが、ブラックメタルのシーンではアントン・ラヴェイの影響は少ない。むしろ、ラヴェイの考えはブラックメタルのバンドから蔑まれる傾向が強い。
ブラックメタルの歌詞で歌われているテーマには、キリスト教徒の虐殺、キリスト教の滅亡などキリスト教を攻撃するもの、悪魔を称えたり、天使や神、天国を罵るなど冒涜的なもの、人間愛、平和、自由などを否定する反道徳的なもの、自殺、孤独、人間への嫌悪を歌った厭世的なものなどがある。これらのテーマは全く別のものというわけではなく、それぞれがつながっている。
ブラックメタルで言うサタニズムとは、キリスト教の倫理の逆を行く事、すなわち自分の欲望に忠実に生き、弱者を強者の糧にするのをよしとする思想を表している。そのため、キリスト教を弱者のものとして否定したフリードリヒ・ニーチェの思想(ニヒリズム)が好まれる傾向にある。また、サタニズムは弱者の排除という点でナチズムと共通するが、Varg Vikernesのようなネオナチ活動家や、Absurd、Graveland、Nokturnal Mortumのようなネオナチバンド(ナショナル・ソーシャリスティック・ブラックメタルと呼ばれている)を除いては、ブラックメタルのシーンで人種差別が肯定的に捉えられることはない。
Inner Circleの目標がスカンディナビアからキリスト教を撤廃し、古代の宗教を復活させることだったこともあり、ブラックメタルのシーンではキリスト教以外のヨーロッパの宗教(ペイガニズム)が讃えられることが多い。また、指輪物語などのファンタジーに出てくる悪の象徴、ギリシャ神話や北欧神話(ゲルマン神話)の死の象徴(ハデスなど)が、悪魔のかわりにテーマとされることがあり、ドラキュラ映画や西洋魔術もブラックメタルバンドにインスパイアを与えている。ただし、クレイドル・オブ・フィルスのように思想がともなわず、イメージだけが先行するものは嫌われる場合もある。
[編集] バンド一覧
[編集] ノルウェー
- 1349
- Aura Noir
- Arcturus
- Borknagar
- Burzum
- Carpathian Forest
- Darkthrone
- Dodheimsgard
- Emperor
- Enslaved
- Forgotten Woods
- Gorgoroth
- Ildjarn
- Immortal
- Joyless
- Keep of Kalessin
- Khold
- Limbonic Art
- Mayhem
- Myrkskog
- Nattefrost
- Obtained Enslavement
- Ragnarok
- Red Harvest
- Satyricon
- Tsjuder
- Zyklon-B
[編集] スウェーデン
- Abruptum
- Arckanum
- Armagedda
- Bathory
- Blackwinds
- Dark Funeral
- Dawn
- Diabolicum
- Dissection
- In Battle
- Funeral Mist
- Marduk
- Lord Belial
- Naglfar
- Pest
- Silencer
- Setherial
- Shining
- Swordmaster
- The Legion
- Thy Primordial
[編集] フィンランド
- Azaghal
- Beherit
- Behexen
- Black Death Ritual
- Clandestine Blaze
- Funeris Nocturnum
- Horna
- Impaled Nazarene
- Sargeist
- Satanic Warmaster
- Wyrd
[編集] デンマーク
- Angantyr
- Holmgang
- Nortt
- Sortsind
[編集] ドイツ
- Absurd
- Desaster
- Moonblood
- Nargaroth
- Nihil Nocturne
- Wolfsmond
[編集] オランダ
- Cirith Gorgor
[編集] ベルギー
- Enthroned
- Lugubrum
[編集] オーストリア
- Abigor
- Amestigon
- Asmodeus
- Summoning
[編集] スイス
- Celtic Frost
[編集] イギリス
- Anaal Nathrakh
- Axis of Perdition
- Cradle of Filth
- Hecate Enthroned
- Frost
- Reign of Erebus
- Venom
[編集] フランス
- Anorexia Nervosa
- Arkhon Infaustus
- Belketre
- Blut Aus Nord
- Deathspell Omega
- Kristallnacht
- Mutiilation
- Nehemah
- Sacrificia Mortuorum
- Seth
- Sombre Chemin
- Temple of Baal
- Vlad Tepes
[編集] イタリア
- Aborym
- Forgotten Tomb
- Opera IX
[編集] ギリシャ
- Legion of Doom
- Naer Mataron
- Nocternity
- Rotting Christ
- Stutthof
- The Shadow Order
[編集] ウクライナ
- Astrofaes
- Drudkh
- Dub Buk
- Hate Forest
- Khors
- Lucifugum
- Lutomysl
- Nokturnal Mortum
- Runes of Dianceht
- Underdark
[編集] ポーランド
- Arkona
- Behemoth
- Capricornus
- Demiurg
- Gontyna Kry
- Graveland
- Infernal War
- Moontower
- Thor's Hammer
- Thunderbolt
[編集] 日本
- Abigail
- Amducias
- Deathchurch
- Endless Dismal Moan
- Frozn
- Funeral Rites
- Gallhammer
- Infernal Necromancy
- 凶音
- Sabbat
- Sigh
- SSORC
- Tyrant
[編集] アメリカ
- Absu
- Abyssmal Nocturne
- Black Funeral
- Crimson Moon
- Cult of Daath
- Demoncy
- Dragonlord
- Draugar
- Havohej
- Hemlock
- Judas Iscariot
- Krieg
- Kult ov Azazel
- Leviathan
- Nachtmystium
- Nokturne
- Thornspawn
- Velvet Cacoon
- Von
- Vrolok
- Weltmacht
- Xasthur
[編集] オーストラリア
- Abominator
- Abyssic Hate
- Bestial Warlust
- Destroyer 666
- Gospel of the Horns
- Spear of Longinus
[編集] シンガポール
- Impiety