バラスト水
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船舶は、荷物を積載していないと不安定である。このため、積荷のない状態では船内に海水を積んで重し代わりとし、船体を安定させる。このときに積まれる海水のことを、バラスト水(Ballast Water)と呼ぶ。底荷(ballast:船底に積む重し)として用いられることからその名が付いた。
[編集] 生態系への影響
船舶は、無積載で出港するとき、その出港地の海水をバラスト水として積み込む。 例えば17万トンクラスの貨物船の場合、空船時には約5万トンのバラスト水を積載する。 これら大量の海水は、立ち寄る港で荷物を積載する代わりに排出される。
海水を積み込む港と排出する港が異なるため、バラスト水に含まれる水生生物が多国間を行き来し、地球規模で生態系が撹乱されるなどの問題が生じている。 バラスト水が原因で起こる問題としては、具体的には以下のようなことがある。
- 日本などから豪州にもたらされたマヒトデが、ホタテやカキなどの養殖魚類を食い荒らした。
- 東欧から北米などへもたらされたゼブラ貝が、五大湖沿岸の発電所や公共施設の取水口を塞ぎ、運転停止を招いた。
- 豪州近海の食用貝が北アジアからもたらされたウズベンモウソウを食べて毒化した。
- メキシコ湾にもたらされたコレラ菌により南米で100万人が感染し、1万人が死亡した。
IMO(国際海事機関)によると、年間約120億トンのバラスト水が世界中を移動していると推定されている。 日本は、推定1700万トンのバラスト水が海外から持ち込まれ、逆に3億トンのバラスト水を海外に排出している。
[編集] 規制への取り組み
- 1973年のIMO会議で、はじめてバラスト水による伝染病蔓延の危険性が指摘された。
- 1988年には、バラスト水被害に関するカナダの報告により、IMOにおけるバラスト水排出規則の具体的な取り組みが始まった。
- 2004年のIMO会議で、バラスト水を積載する船舶を規制する条約が採択された。
この条約により、2009年以降に新しく建造される船舶には、バラスト水に含まれるプランクトンや病原菌を極めてゼロに近い数値にまで処理できる装置を搭載することが義務付けられた。 また2016年以降は、既存の船を含むすべての船舶について、バラスト水の処理装置の搭載が義務付けられる。 それまでの間は、入港前に陸地から200カイリ離れた場所でバラスト水を交換することとなる。 この条約は、バラスト水を積載しない軍艦や、他国の排他的経済水域(EEZ)を航行しない船舶には適用されない。