トラ・トラ・トラ!
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『トラ・トラ・トラ!』 (TORA!TORA!TORA!) は1970年に公開された、1941年の日本軍による真珠湾攻撃を題材とする日米共同で制作された戦争映画である。
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[編集] 概要
日米双方の立場を公平かつリアルに描いていることから高い評価を受け、特に日本では熱狂をもって受け入れられた。しかし、そのあまりにも怠惰としたリアルな米国描写のため、米国では興行的には大失敗した(後のビデオ発売によりこの損失は埋め合わされた)。このため、1976年の『ミッドウェイ』ではこれを受ける形で米国中心視点での製作に戻されている。また、同じ史実を題材にした映画に、2001年公開作品の『パール・ハーバー』があるが、こちらは興行的には成功を収めたが、その日本軍に関する描写や歴史考証の矛盾に対する批判も多く、それによりかえって『トラ・トラ・トラ!』が再評価されることともなった。
ベトナム戦争の真っ只中であったこの時代に、単に米国が攻撃されるという内容のみならず、日本側の視点を大幅に取り入れ、ある意味日本軍を主役として描きだす映画をこれだけ力を入れて製作できる事から、当時の米国と言う国の懐の深さを感じ取れるものとなっている。また、真珠湾奇襲を防ぐことのできなかった原因を、史実に即してワシントン側に求める描写となっており、それまで奇襲攻撃に対して無防備であった責任の多くを問われていたウォルター・ショート司令官やハズバンド・キンメル提督は、大統領をも情報共有から除外したワシントンの隠蔽体質のため有効な対処手段をとることができなかったという日米開戦当時の模様を浮かび上がらせる(両名は2000年10月、米国議会により名誉回復されている)。
当初、日本側の監督を黒澤明が務めることとなっていたが、撮影開始直後に降板した。理由は、「黒澤の精神的病気」と発表されたが、アメリカ側の制作会社である20世紀フォックスとの撮影方針をめぐる対立からという見方が一般的。一説には、黒澤の映画に対するこだわりから、倍額の予算が無ければこの映画は撮れないと主張したからだと言われている。また20世紀フォックスと交わした契約書の中に「製作途中で放棄したりオーバーした予算は黒澤側が払う」という条項があったが、「予測できない事態が起こった場合は保険会社の支払対象になる」という条項もあったため、黒澤を無理やり病気に仕立てたとの説もある。
日本側の監督は舛田利雄と深作欣二(クレジット上は共同監督だが、深作が担当したのは特撮合成が必要となる戦闘機のコクピットシーンのみで実質的にはB班監督)に交代した。このため、以後日本では黒澤が「気難しい完全主義者」であるというイメージが強くなったともされる。アメリカ側の監督はドキュメンタリー映画出身で「ミクロの決死圏」「海底2万マイル」のリチャード・フライシャー。なお、日本側の部分の脚本の大半は黒澤明の執筆のものがそのまま使われたが、黒澤の強い要望による製作会社側との協定で、本編では一切黒澤のクレジットはでなかった。なお、黒澤はその脚本を阿川弘之の『山本五十六』を下敷きとして書いた。後に20世紀フォックスは原作料を阿川に支払ったと記録しているが、本人は記憶にないという。
なお、映画の最後で山本五十六連合艦隊司令長官の発する有名なせりふ「眠れる巨人を起こし、奮い立たせたも同然である」は史実ではないとされている。
[編集] 再現された日本海軍航空隊
本作撮影のため、米国製のT-6練習機等を改造して、旧日本海軍の航空隊が再現された。再現された機種は、零戦、九九式艦上爆撃機、九七式艦上攻撃機で、実機とあまり似ていない機体を改造し、出来る限り“本物”に似せようと工夫を重ねたスタッフの努力は高く評価されている。こうして再現された日本海軍の航空機に多くの米国人スタントパイロットが“日本海軍パイロット”に扮し乗り込み、危険な超低空飛行や空中戦などのアクロバットを繰り返して、迫力あるシーンを造り上げた。
また、払暁に離艦していく攻撃機や、墜落していく戦闘機などの映像は、模型であるにもかかわらず2001年の『パール・ハーバー』のCG然とした演出のものと比較してもまったく遜色がなく、そのリアリティーは米軍従事者からも賞賛されている。日本側の航空母艦の撮影にはレキシントン (CV-16)があてられた。また、戦艦長門、ネヴァダのほぼ実物大のオープンセットが組まれ、迫力ある画面を作り出すことに成功している。
尚、劇中で日本海軍の下士官が部下のパイロット達に対して、艦のシルエットが描かれたパネルを見せて、その艦種を言い当てさせる訓練していたが、あるパネルを見せた時に部下が即座に「エンタープライズ!」と答えるが、下士官は「これは赤城だ、自分たちの旗艦だぞ」と叱るシーンがある。この時、パネルに描かれていたシルエットは実際の空母赤城とはまったく異なる艦形で、実は撮影で「赤城」として使用された米国海軍の空母のシルエットが描かれていた。後の航空機の発艦シーンで空母の艦形に違和感を感じさせないための配慮だが、叱られたパイロットの答えはある意味正解であった。
ちなみに、戦中の映画「ハワイ・マレー沖海戦」から影響を受けたと思われるシーンもいくつかある。上記のシルエット当てのシーンなどはその一例である。
この映画で復活した日本海軍機は、その後に作られた多くの戦争映画や、米国の航空ショーなどでも活躍している。
[編集] スタッフ
[編集] 監督
[編集] 脚本
- ラリー・フォレスター
- 小国英雄
- 菊島隆三
[編集] キャスト
- ハズバンド・キンメル太平洋艦隊司令長官:マーティン・バルサム
- 山本五十六連合艦隊司令長官:山村聰
- ヘンリー・スチムソン陸軍長官:ジョゼフ・コットン
- 源田実海軍少佐:三橋達也
- ブラットン大佐:E・G・マーシャル
- ウィリアム・ハルゼー海軍中将:ジェームズ・ホイットモア
- クラーマー少佐:ウェズリー・アディ
- 南雲忠一海軍中将:東野英治郎
- ウォルター・ショート陸軍中将:ジェイソン・ロバーズ
- フランク・ノックス海軍長官:レオン・エイムス
- ハロルド・スターク海軍作戦部長:エドワード・アンドリュース
- コーデル・ハル国務長官:ジョージ・マクレディ
- ジョージ・マーシャル陸軍参謀長:キース・アンデス
- 淵田美津雄海軍少佐:田村高廣
- ジェームズ・リチャードソン提督:ロバート・カーネス
- ジョセフ・グルー駐日米国大使:メレデス・ウェザビー
- 野村吉三郎駐米大使:島田正吾
- 近衛文麿首相:千田是也
- 東条英機陸軍大将:内田朝雄
- 松岡洋右外相:北村和夫
- 吉川猛夫:マコ岩松
- 東郷茂徳外相:野々村潔
キャスト追加
[編集] 参考文献
- 田草川 弘『黒澤明vs.ハリウッド 『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて』(文藝春秋、2006年) ISBN 4163677909
[編集] 外部リンク
カテゴリ: アメリカ合衆国の映画作品 | 日本の戦争映画 | 第二次世界大戦の映画 | 1970年の映画