スタンガン
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スタンガン(Stun gun)とは、広義には非殺傷性個人携行兵器の総称。非殺傷性のゴム弾などを発射する場合、通常の銃火器などでもスタンガンと呼称される場合もある。 狭義には、暴漢などの相手に電気ショックを与える器具(護身用具)。電撃銃と言う和訳もあるが一般的ではない。本項目ではこちらについて述べる。
スタン(Stun)とは、英語で(打撃によって)気絶させる、呆然とさせる等の意味で、これに銃を意味するGunを付けてスタンガン(呆然とさせる銃)と呼ばれる。アメリカ合衆国で開発された。
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[編集] 概要
スタンガンは大別すると、携帯型のハンディータイプと警備用の大型警棒タイプに分けられ、この他にもワイヤーと針によって通電するタイプの物が存在する。ただし日本国内では、主にハンディタイプの物と一部警棒タイプの物が見られるのみで、数メートルの射程を持つワイヤー針タイプの物は見られない。
護身用として販売されている為に、日本国内では通常型のあらゆるスタンガンの購入・所持・携帯及び実際の使用についての特別な許可や届け出等は一切必要ない。このため一般の商店や通信販売等によっても購入可能となっている。しかし国外・国内問わず航空機などへの持込などは禁止されている場合があり、その他公共交通機関によりそれぞれ違うため注意が必要である。
スタンガンの電極から放電(スパーク)させ、この放電部に接触することにより、暴漢などの相手の神経網を強烈に刺激して、一時的に体の制御が利かなくなり歩行が困難な状態となる。その隙に危険から退避する十分な時間を確保することができる。また放電が閃光を発し「バチバチ」と音がするため、実際に使用しなくても威嚇効果や戦意を喪失させることが期待できる。 TVや漫画などではスタンガンで人を気絶させる描写があるが、現実ではスタンガンで気絶することはまずない。
[編集] スタンガンの仕様
- 電圧は、一般的なものは5万~50万ボルト。電圧は非常に高いが、電流は0.8~1.0アンペアと非常に低く押さえられている為、殺傷能力はない。例外的により高電圧のモデル(最高110万ボルトまである)や、超小型のより低電圧のモデルが存在する。
- 8万ボルト以上のものになると、厚手の服の上からでも効果があり、15万ボルト以上になると皮製のジャンバーや厚手の毛皮コートの上からでも効果があるとされている。
- 電源には、大部分の物が9ボルトのアルカリ電池を使用している。
- 殺傷能力や、後遺症を残すような力は無いとされている。ただし、何等かの疾患を持つものに行使した場合や、首や皮膚の敏感な所に過度に使用した場合に、何等かの健康被害を被ったり、後遺症や火傷の跡が残る場合もあるという。
- 電圧ではなく特殊なパルス信号によるものも存在する
[編集] ワイヤー針タイプのスタンガン
- ワイヤー針タイプの物は、1970年代末~1980年代初頭に開発された。1990年代より米国で裁判所に採用され、判決に怒った被告や原告が、裁判所関係者に危害を加える危険があった時に、使用されるようになった。相手に近づけない場合に、銃よろしく間合いを取って使用出来る。ただし、ワイヤー針タイプの物は、ガス圧等で針を飛ばすため連続的に使用できず、一度発射したらワイヤー針のカートリッジを交換する必要がある等、扱いが難しい模様である。
- Tazer International Inc.の製品が著名であるため、エア・テイザーやテイザー銃、あるいは単にテイザーと俗称されることも多い。
- 全てのモデルがそうである訳ではないが、発射時に「カートリッジ固有のID番号」を印刷した「紙製のチップ」を撒き散らすことで、犯罪に使用された場合に追跡を容易にする工夫が為されている。
- 日本においては、このタイプのスタンガンは市販されておらず、一般に認知されることも少ない。これは、針の発射機構が「液化炭酸ガス」あるいは「小量の火薬」を使用するものであり、銃刀法により実銃として扱われるためである(警視庁の通達による)。なお、問題となるのはあくまでも「針の発射機構」のみであり、スタンガン本体については日本国内でも合法である。
- 発射体に電源部を内蔵してワイヤーを不要とし、通常の銃器のように使用できるモデルも開発が進んでいる。こちらも発射機構は実銃に準じた物となる。
[編集] 使用上の問題点
- アメリカでは護身・防犯用品として広く知られた存在だが、日本では一般的な護身具としても「店舗用の防犯用品」としても普及しているとは言えない現状の中で、防犯ブザーなどと違ってやや攻撃的な護身具のスタンガンは、購入・所持はおろか実際に使用するのを躊躇する国民性であるといえる。
- 身体に危険性が無いとはいえ、使用状況にもよるが心臓などの危険部への攻撃によるショック死や、転倒によって頭部を強打した場合など過剰防衛と受け取られる可能性が無いわけではない。
- 防犯用途で危険を避けるために用いるには効果的な器具であるが、これを使っての強盗事件や暴行事件も後をたたない。この場合は明確な後遺症がなくとも、警察側では傷害事件として扱うため、乱用は犯罪である。
2004年3月には、これを自分の長女である乳幼児に押し当てて、児童虐待を行っていた東京都渋谷区在住の男性が、「乳幼児に使用すれば心停止の危険もあった」として殺人未遂で逮捕されるという事件も起きている。成人に対しては重篤な危険は無いとはされるスタンガンではあるが、使い方を誤れば危険なため、誤用は絶対に避けるべきである。
[編集] 人間以外
- 家畜への応用
- 人間以外の動物に使用するスタンガンの一種では、家畜などを追い立てる際に使用する電撃棒や電気柵が存在する。これらでは、家畜用の物では電圧が押さえられ、麻痺させずに不快感を与えて追い立てる際に使用され、鞭や鍵爪よりも傷つけない事から広く利用されている模様で、と畜場でも同種の装置が用いられている。
- クマ対策
- クマ出没地域では山間地で作業する農林業従事者が身の安全を確保するため、警棒タイプのスタンガンを携帯する者も見られる。ただしこれら機器は電流を使用する事から水に濡れたりする所では利用しがたいため、熊用の催涙スプレーのほうが(匂いによる追跡も妨害できるため)効果的であるとする意見も聞かれる。