シートベルト
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シートベルトとは、体を座席に固定するベルト状の安全装置である。法令の条文ではこれを座席ベルトと表記する。
シートベルトは自動車のほか、飛行機、ロケット、ジェットコースターなどの乗物にも付けられている。
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[編集] シートベルトの効果
[編集] 非常の場合(事故などの場合)について
自動車が衝突する時、体には急激な加速度がかかる。そのとき、体を固定していないと、体が自動車の内部(ハンドルやフロントガラスなど)に衝突してしまう。また、体が車外に放出してしまう場合もある。それを防ぐために、シートベルトで体やチャイルドシートを座席に固定する。
現在の自動車の主流である3点式シートベルトでは、通常はベルトが動いて上半身を拘束しないようになっているが、衝撃が加わると瞬時にベルトをロックし、上半身を拘束するようになっている。 なお、シートベルトは、2点式ベルトは骨盤に、3点式なら肩ベルトは鎖骨に掛けるようにする。 これは、骨盤と鎖骨がかなり強固であると同時に、最悪、骨折したとしても、それらの部位なら重傷にはなっても致命傷にはなりにくいからである。
誤解が多いが、シートベルトの機能は、これら骨盤や鎖骨を支点としてベルトの張力の範囲で衝撃の大部分を吸収するのであり、人体と接するベルトの面での衝撃の分散吸収は、あくまで補助的なものである(たとえば腹部にベルトを掛けていると、内臓などは比較的簡単に破裂してしまう)ので注意が必要である。
自動車についている他の安全装置にはエアバッグがある。しかし、エアバッグはあくまでも『シートベルトを補助する装置』であり、シートベルトと一緒に使わないと効果が無い上にとても危険(死亡例が存在する)である。
飛行機の場合、速度が速いために事故に対してはシートベルトはまず無力であろう。後述する離着陸時の急加速・急減速や突発的な乱気流の発生に備えた意味合いが強い。
また一般の旅客機においては腰部2点式のシートベルトのため、力学的見地からその身体防御能力に疑問が呈されており、自動車と同等に3・4点式シートベルトやエアバッグの装備も当然に求められている。
[編集] 非常の場合以外について
自動車を運転すると、カーブを曲がる時、ブレーキをかけた時、加速をした時などに、体には慣性による力が掛かり、前後に揺れようとする力がかかったり、左右に揺れようとする力がかかったりすることがある。その時に、体が固定されずに揺さぶられてしまうと、乗り物酔いを起こしやすくなったり、また運転手の場合は安全に安定した運転ができなくなってしまう場合がある。それを防ぐという意味でも、シートベルトで体を座席に固定する必要がある。
飛行機の場合、急激な加速や減速を伴う離着陸時や、気流の悪い場合、シートベルト着用指示が出される。ただし、着用指示がなくても突発的な乱気流の発生に備え、着席中は常にシートベルトを着用しておくことが推奨されている。(急激な高度の低下が発生した場合にシートベルトを着用していないと、天井に頭を打つことがある。シートベルトを着用していれば座席に固定されるので、頭を打つ心配はない)
[編集] シートベルトの歴史と変遷
1899年イギリスのロンドンで、ダイムラーの自動車による事故で乗員2人が放り出され死亡したことがきっかけとなり、シートベルトが開発されたといわれている。それを端とした開発は1903年、フランスの技術者であるギュスターブ・ルボール(Gustave-Desire Lebeau)により、シートベルトの原型である、高い背もたれと交差式ベルトからなる「自動車等の防御用ベルト」というものの開発へと至ったという。
シートベルトが初めて自動車に搭載されたのは1922年である。当初は競技用自動車に任意で取り付けられていた。一般の乗用車への採用は1955年であり、フォードがオプションとして採用した2点式シートベルトであった。その後、1959年、ボルボが3点式シートベルトを発明し特許を取得した。しかし、安全に必要な技術ということで無償で全メーカーに公開した。このおかげで、3点式シートベルトは全世界の自動車に付いている装置となった。代表的な3点式の他にも、2点式、4点式、5点式、6点式がある。一部の高性能スポーツカーには4点式の採用例が見られ、現在のレーシングカーには6点式シートベルトが使われる。2点式は自動車の後部座席や飛行機の座席に用いられているが、事故の際に腰の部分への負担が大きく、上半身の保護能力も期待できないため、近年では自動車の後部座席も3点式のものに変わりつつある。
面白いことに、F1などのフォーミュラカー(葉巻型ボディから4つの車輪が飛び出した一人乗りレーシングカー)では、1960年代末までシートベルトが義務化されていなかった(乗用車改造マシンのレースでは既に義務化されていた)。フォーミュラカーは運転席が狭く、事故で火災が発生すると脱出が困難になりやすいとされ、「焼け死ぬよりは車外に投げ出された方が安全」と考えられていたからだ。しかしフォーミュラカーにおいてもシートベルトを装着する方が安全と認識され、'70年代以降シートベルトは絶対的な義務となっている。
シートベルトが窮屈だという理由で装着しない人がいる。そのため窮屈にならないように、ベルトを装着したときにだけ巻き取りバネの力を弱めて、窮屈感を和らげるシートベルトが開発された。このタイプのシートベルトは「テンションレリーファー(レデューサー)付きシートベルト」と呼ばれ、一部の高級車に装備されている。衝突時に帯がゆるんでいる場合には、乗員を拘束する性能が低下するため、衝突の際にたるんだ帯が締まるような仕組みを持つシートベルトが開発された。このタイプのシートベルトの事を「プリテンショナー付きシートベルト」と呼ぶ。さらには衝突後、帯に入る荷重が設定荷重になると帯が伸び出し、エネルギーを逃がすタイプのシートベルトも開発されている。このタイプのシートベルトを「ロードリミッター付きシートベルト」と呼ぶ。プリテンショナーとロードリミッター付きシートベルトの開発により、衝突時の乗員に対する安全性は飛躍的に改善された。
自動車では、チャイルドシート固定機能付シートベルト(一杯に引っ張り出してから収納すると、完全に収納するまでは収納のみ可能となり、ベルトが一定の位置で固定される)も開発され、後部座席に取り付けられている車種が多い。
また、SFの世界(特にロボットもの)では、パイロットスーツそのものにシートベルトとしての機能を持たせるなどの描写が見られる。
[編集] シートベルトの素材
主に引張り強さに優れたポリエステル繊維で帯(ウェビング)を作り、一方に金属でできたバックルを付け、座席に取り付けられた受け側金具(タング)へ挿入して固定させる。帯の単純引っ張り強度は3kN程度あり、普通乗用車一台をつり上げるのに十分な強度がある。
[編集] シートベルトの仕組み・構造
[編集] シートベルトの着用義務
日本においては道路交通法第71条の3により、一部の自動車を除き、自動車では、運転席及び前列シートに着座する際はシートベルトを着用しなければならない。但し、疾病でベルトの着用が好ましくない者や、配送車両や緊急車両の運転者など、止むを無い場合は免責されている(詳しくは道路交通法施行令第26条の3の2及び座席ベルト装着義務の免責に係る業務を定める規則を参考のこと)。
前述の規定を根拠に、妊婦はシートベルトによって腹を圧迫し、胎児に悪影響を与える恐れがあるとして着用が免除されている。しかしそれは装着の仕方により変わるものであり、胎児に影響を与えない装着の仕方がある。問題となるのは腹部(子宮)の圧迫であり要はそれを避けること、つまり腹の膨らみの上部沿線に沿って肩から腰にかけて伸びるベルトを通し、腰を2点で拘束するベルトは太腿を含めた腹の膨らみ下部沿線以下に通すようにするのである。この事実を基に、また、妊娠は疾病ではないとの理由から、妊婦のシートベルト着用を推進しようという動きがある。
因みにチャイルドシートの着用義務については同法第71条の3第4号で触れている。
[編集] 日本に於ける着用義務の変遷
日本でシートベルトの自動車への設置を義務付けたのは1969年であり、当時は着用に関しての規定はなかった。1971年7月にようやく高速道路及び自動車専用道路に於ける運転者と助手席同乗者に対して着用が努力義務とされた。1985年9月、高速道路等での着用が義務化され、罰則規定も設けられた。一般道路に於けるシートベルトの着用義務化は1986年11月からである。尚、後部座席においては着用は努力義務であって罰則はない。
法律上は、道路運送車両の保安基準第22条の3に於いて、専ら乗用の用に使用する定員10人以下の普通・小型・軽の各自動車の前列には第二種座席ベルトを、その他の座席には第一種若しくは第二種座席ベルトを備えることが義務付けられている。第一種座席ベルトとは、「当該座席の乗車乗員が座席前方に移動することを防止するための」シートベルトであり、第二種座席ベルトとはこれに加えて「上半身を過度に前傾することを防止するための」シートベルトである。シートベルトは、上述のように車体が幾つの点で結ばれるかによって○点式シートベルトと呼ばれるが、2点式シートベルトが第一種座席ベルト、それ以上の点で固定されるものは第二種座席ベルトということになる。
[編集] シートベルト非着用者の言い分
シートベルトを着用しない者には幾つかの理由がある。窮屈であるというものや、万一事故が起こり、それが元でシートベルトが故障した場合、速やかに脱出できないというものである。しかし、そうした際に備えた器具としてシートベルトカッターが市販されている。それを手の届く範囲に装備しておけば不安はより解消されるだろう。また、シートベルトが脱出の妨げになり死亡する可能性よりも装着によって死亡を免れたと考えられる割合の方が格段に高いと思われる。2004年1月から11月までにおける交通事故による死亡者のうちシートベルト着用者が1065人、非着用者が1466人となっている。この数値だけでも非着用者の死亡者数は着用者の約1.38倍、しかしこのままでは正確に比較ができない。警察庁と日本自動車連盟が共同に行った調査による運転座席着用率の2004年の全国平均90.7%を考慮すると、非着用の方が13.42倍も死亡する可能性が高いということになる。但し、着用者と非着用者の運転マナーの比較等が考慮されていないため、参考程度にしかならないことを付け加えておく。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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