サスペンション
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サスペンション(suspension,懸架装置)とは、主に車両において、路面の凸凹を車体に伝えない緩衝装置としての機能と、車輪、車軸の位置決め、車輪を路面に対して押さえつける機能を持つことで、乗り心地や操縦安定性などの改善を目的とする機構である。またその他の機械類における、防振機構のことをいう場合もある。 名称の由来はサスペンス(suspense、不安な状態、揺れ動いている状態の意)から。
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[編集] 自動車のサスペンション
さまざまな方式のサスペンションが考案され実用化されているが、前述の2つの機能を満足することができれば、方式による優劣はないといえる。また、サスペンションの取り付け方やその調整によってどのようにでも設定できるため、同じ方式のサスペンションを使用していても、車種によって全く異なる挙動をする。
[編集] 方式
動作形式から固定車軸(リジッド・アクスル)と、独立懸架(インディペンデント・サスペンション)に分けられる。
[編集] 独立懸架方式
左右の車輪が独立して動作するサスペンション形式。バネ下重量が軽く、乗り心地や路面追従性に優れる事から、スポーツカーやレーシングカーに留まらず、現在では、一般的な乗用車や中型以下の貨物車、さらには三菱の観光バスでも、フロント・サスペンションは独立懸架である。 また乗用車では、リア・サスペンションにも独立懸架が多く用いられ、インディペンデント・リア・サスペンション(Independent Rear Suspention)の頭文字をとってIRSとも呼ばれる。
独立懸架方式には、ストラット式、リーディング式、トレーリング式、ダブルウィッシュボーン式、マルチリンク式、スイングアーム式、スイングアクスル式、横置きリーフスプリング式、ツイントラクションビーム(T.T.B. 分類上の形式名では無く、米フォードの登録商標)などがある。
一般には、独立懸架式の方が以下の点で固定車軸に比べると有利とされているが、現在の多くの自動車が後輪に駆動用の装置をもたない前輪駆動(FF)方式であり、この場合は必ずしも独立懸架式が有利とはいえない。
- 独立懸架式の優位点
- 両輪が同時に上下する固定車軸と異なり、動作部分の重さ(バネ下重量)が軽く、動作が機敏になるため路面への追従性がよい。
- ストローク時のジオメトリー変化を利用した操縦特性の変更が可能(ジオメトリー変化にはデメリットもある)。
- 車軸ごと上下する固定車軸に比べて自動車の床を低くすることができる。
[編集] 固定車軸方式
左右の車輪を車軸(アクスル)で連結したサスペンション形式。固定車軸方式は、構造が簡単で、耐久性が高い。またストロークが大きく取れ、最低地上高の変化が少なく、左右のサスペンションが連動して動作するなど、悪路走破性を重視する場合の長所も多い。反面、バネ下重量が重く、乗り心地や路面の追従性が悪いなどの短所がある。
固定車軸方式には、リンク式、リーフリジット式、コイルリジット式、ドディオン式、トーションビーム式などがある。 主に商用車や本格クロスカントリー車で採用されていることが多い。
[編集] 構造
一般的な自動車のサスペンションは、大まかにはサスペンションアームとスプリング、ショックアブソーバーより構成される。
自動車で最も多いのがストラット式である。 ついでダブルウィッシュボーン式、マルチリンク式などが用いられる。 トラックの後輪で車軸式が用いられる。ちなみに、F1などのフォーミュラカーのサスペンションはダブルウィッシュボーン式に分類される。
俗に"サス(サスペンション)がへたる"というが、実はこのときにへたっているのは、ほとんどの場合はショックアブソーバーやブッシュなどのゴム系部品で、スプリングが劣化していることは稀である。
[編集] オートバイのサスペンション
オートバイに使われるサスペンションは、スプリングとショックアブソーバーを組み合わせた物で、高級品にはさらに高圧ガスを併用したものを使用する。
[編集] 前輪
前輪は、フロントフォークと呼ばれる、テレスコピック式サスペンションをタイヤをはさむ様に2本配置したものが大多数を占める。サスペンションのインナーチューブがアウターチューブより上に配置されている物を正立、下に配置されている物は倒立と言う。前者に比べて後者は剛性の高いアウターチューブがフロントフォーク構造に組み込まれるので全体の剛性が高い。しかし、重力に逆らう形でショックアブソーバーが配置される為、オイル漏れ防止などに注意が払われており、正立に比べて高価である。
テレスコピック以外の方式に、テレレバーという方式もある。これはBMW社のオートバイに採用されている。サスペンション機構がフロントフォークから外れた位置にあり、タイヤを支えるフレーム部分をレバーで地面に押し付ける形になっている。
[編集] 後輪
後輪は基本的にスイングアーム式だが、前輪に比べ多様なバリエーションがある。スイングアームにサスペンションを2本、タイヤをはさむ様に取り付けたもの、スイングアームの支点に近い位置に1本のサスペンションを取り付けたもの、またスイングアームにテコとなるリンクを取り付けレバー比の変化を調整したもの等様々である。駆動系とスイングアームを一体化した物もある。
[編集] 鉄道車両のサスペンション
新幹線鉄道において、高速走行時の車両の安定化を図るために、JR西日本の開発した500系 において、アクティブサスペンションを取り入れ、これにより300km/hでの運行を実現した。
[編集] 戦車のサスペンション
リーフスプリング、コイルスプリング、クリスティー式、トーションバー式、油圧式などがある。
[編集] 家具におけるサスペンション
- サスペンション・チェア: 主に事務用の椅子において、人の身体の触れる部分の表層にクッション性と通気性を兼ね備える目的で用いる弾性樹脂により製造された網目状の布若しくは材料。サスペンション・ファブリック若しくはSF(Suspension Fabric)と呼び、この材料を用いた椅子はSFチェアーやメッシュチェアーの名で呼ばれる。
サスペンション・ファブリックを用いた椅子の多くは、鋼製若しくは高強度の樹脂を成形した剛性の高いフレームにサスペンション・ファブリックを緊張して張ることで、メッシュによる素通し感や簡素化された仕組みの外観の割りにデザインにエルゴノミクス(人間工学、作業姿勢、ergonomics)を盛り込んでいるため、クッション性に優れ、座り心地が良い。
[編集] 建築におけるサスペンション
- サスペンション工法: 建築物の外装材として用いられることの多いカーテンウォール部材では低層階部分で採光・開放性・デザイン性等を求めて巾2m内外、高さ4-5m程度の大判のガラスを建物側面に用いることがある。
この時、ガラスには外装材の役割として風圧に耐える厚みが求められ、且つ、人や物が衝突して容易に破損しない耐衝撃性が機能的に求められ、20mm程度の厚みになることが多い。
ガラスの比重は約2.5 - 3.0程度であり1枚当たりのガラス重量は数百kgになる。一般的な小規模なガラス板ではガラスの重量はサッシュ下辺に伝達されるが、大判ガラスの場合は全ての重量をサッシ下辺のみで支持することは施工性や費用面で容易ではない。
サスペンション工法ではガラス上端を吊り金物で挟み、上部構造体の梁やスラブに緊結してガラスの重量を分担することで問題を解決している。
[編集] 関連用語
- サスペンションジオメトリー
- ホイール・アライメント
- エアサスペンション
- 独立懸架
- スタビライザー
- ストラットタワーバー
- リーフスプリング
- 倒立ストラット