カイガラムシ
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カイガラムシ上科 Coccoidea | ||||||||||||||||
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ルビーロウカイガラムシ Ceroplastes rubens |
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カイガラムシ(介殻虫)は、カメムシ目・ヨコバイ亜目・腹吻群・カイガラムシ上科(Coccoidea)に分類される昆虫の総称。果樹や鑑賞樹木の重要な害虫となるものが多く含まれるとともに、いくつかの種で分泌する体被覆物質や体内に蓄積される色素が重要な経済資源ともなっている分類群である。
目次 |
[編集] 概要
熱帯や亜熱帯に分布の中心を持つ分類群であるが、植物の存在するほぼ全ての地域からそれぞれの地方に特有のカイガラムシが見出されており、植物のある地域であればカイガラムシも存在すると考えても差し支えない。現在世界で約7300種が知られており、通常は28科に分類されている(ただしカイガラムシの分類は極めて混乱しており、科の区分に関しても分類学者により考え方が異なる。)
日本に分布する代表的な科としてはハカマカイガラムシ科(Orthezidae)、ワタフキカイガラムシ科(Margarodidae)、コナカイガラムシ科(Pseudococcidae)、カタカイガラムシ科(Coccidae)、マルカイガラムシ科(Diaspididae)などがある。
[編集] 固着生活への適応
アブラムシやキジラミなど腹吻群の昆虫は、基本的に長い口吻(口針)を植物組織に深く差し込んで、あまり動かずに篩管液などの食物を継続摂取する生活をするものであり、しばしば生活史の一時期や生涯を通じて、ほとんど動かない生活をする種が知られる。その中でもカイガラムシ上科は特にそのような傾向が著しく、多くの場合に脚が退化する傾向にあり、一般的に移動能力は極めて制限されている。
脚が退化する傾向にはあるものの、原始的な科のカイガラムシではそこに含まれるほとんどの種が機能的な脚を持っており、中には一生自由に動き回ることができる種もいる。ワタフキカイガラムシやオオワラジカイガラムシはその代表例で、雌成虫にも脚、体節、触角、複眼が確認できる(ただし、雌成虫に翅は無い)。しかしマルカイガラムシ科などに属するカイガラムシでは、卵から孵化したばかりの1齢幼虫の時のみ脚があり、この時期には自由に動き回ることができるものの、2齢幼虫以降は脚が完全に消失し、以降は定着した植物に完全に固着して生活するものがいる。こうしたカイガラムシでは、1齢幼虫以外は移動することは不可能で、脚以外にも体節、触角、複眼も消失する。雌の場合は、一生を固着生活で送り、そのまま交尾・産卵、そして死を迎えることになる。
基本的には固着生活を営む性質のカイガラムシでも、一部の科以外のカイガラムシでは機能的な脚を温存しており、環境が悪化したり、落葉の危険がある葉上寄生をした個体が越冬に先駆けて、歩行して移動する場合もある。
だが、基本的に脚が温存されるグループのカイガラムシであっても、樹皮の内部に潜入して寄生する種やイネ科草本の稈鞘下で生活する種などでは、脚が退化してしまい成虫においては痕跡的な脚すら持たないものもいる。
また固着性の強い雌と異なり、雄は成虫になると翅と脚を持ち、自由に動けるようになる(後述)。だが、雄でも幼虫の頃は脚、体節、触角、複眼が消失し、羽化するまで固着生活を送る種が多い。
[編集] 虫体被覆物
もうひとつカイガラムシに特徴的な形質は体を覆う分泌物で、虫体被覆物と呼ばれる。虫体被覆物の主成分は余った栄養分と排泄物である。通常虫体が露出しているように見える種のカイガラムシでも、その表面は体表の分泌孔や分泌管から分泌されたセルロイド状の分泌物の薄いシートで被覆されている。また、分泌物の量が多いものでは体表が白粉状や綿状、あるいは粘土状の蝋物質で覆われていることが容易に観察できる。マルカイガラムシ科のカイガラムシは英語で Armored scale insects と呼ばれるように、虫体からは分離して、体の上を屋根のように覆う介殻と呼ばれる貝殻状の被覆物を、腹部末端の臀板と呼ばれる構造によって作り上げる。この介殻も、余った栄養分と排泄物から成り立っている。
[編集] 生活史
他のカメムシ目(半翅目)の昆虫と異なり、仮変態(新変態、副変態とも言う)と呼ばれる変態を行う。雌雄では成長過程が大幅に異なっている。
雌の場合、2齢幼虫を経て成虫になるが、脱皮せずにそのまま成虫になる種が多く見られる。これは脚などが消失し、固着生活を送る種では顕著に見られる。すなわち、羽化をせずに成虫になる、ということである。このような種では体内に大きな卵のうを有しているため産卵活動もせず、交尾後、雌成虫の死骸から孵化した1齢幼虫が這い出してくる形となる。また、脚などが消失せず、移動生活を送る種でも、脱皮して成虫になる種は多くはない。
雄の場合、3齢幼虫を経て成虫になるが、この3齢幼虫は擬蛹と呼ばれる。つまり、完全変態昆虫の蛹に該当するが、体内構造が完全変態昆虫の蛹のそれとは大幅に異なっている。むしろ、アワフキ類やコナジラミ類に見られる擬蛹期幼虫と体内構造が似ている。このため、「カイガラムシの雄には蛹の期間があるため、完全変態である」という説明がよくされるが、厳密には不完全変態である(不完全変態の中でも、不完全変態と完全変態の中間的な性質をもち特殊化した物と、考えられている)。前出の仮変態もこれに因んでいる。そして、羽化して翅と脚を有する成虫になるが(翅は2対4枚有るが、退化して1対2枚しか無い種も多く存在する)、雄成虫には口吻が無く、精巣が異常なまでに発達している。そして、交尾を済ませるとすぐに死んでしまう。成虫の寿命は数時間から数日程度で、交尾のためだけに羽化する事になる。
近年、カイガラムシ上科に属する種の中には、雌雄が逆転した種も発見されている。すなわち、雄が一生を固着生活で終えるのに対し、雌が擬蛹→羽化によって、有翅の成虫となるのである。そして、活発に交尾・産卵をして短い成虫期間を生殖に費やす。また、雌雄ともに擬蛹→成虫というプロセスをたどる種も発見されている。さらには、最終齢幼虫(擬蛹)が不動ではなく摂食する種も存在する。だが、これらの種をカイガラムシ上科に分類するべきではない、とする学説も存在する。カイガラムシの分類学的研究が大幅に遅れているため、これらの種に対しては決定的な分類は未だされていない。
[編集] 食性
草食性で、大半の被子植物に寄生する。雌成虫は口吻が異常なまでに発達している種が多く、固着生活を送る種では顕著である。これらの種では寄生している植物から引き剥がしても、口吻が確認できない事が多い。引き剥がした際、口吻まで引きちぎられている事が多いからである。そのため、すぐに死んでしまう。また、移動生活を送る種の場合は、口吻でもって植物体にくっついているが、それ以外の部分は密着している訳ではないため、寄生している植物から引き剥がしても口吻が確認できる(腹面に隠れている頭部全体や脚も確認が可能な事が多い)。
[編集] 分類
カイガラムシ上科は28科に分けられることが多いが、カイガラムシの分類学的研究は大変遅れているため科の概念すら研究者間でコンセンサスが得られていないものも多い。
ここでは日本に分布しており、分類学的にも安定していると考えられる以下の12科について概説する。
ハカマカイガラムシ科 Ortheziidae
ワタフキカイガラムシ科 Margarodidae
フクロカイガラムシ科 Eriococcidae
コナカイガラムシ科 Pseudococcidae
タマカイガラムシ科 Kermesidae
カタカイガラモドキ科 Aclerdidae
カタカイガラムシ科 Coccidae
フサカイガラムシ科 Asterolecaniidae
フジツボカイガラムシ科 Cerococcidae
ニセタマカイガラムシ科 Lecanodiaspididae
カブラカイガラムシ科 Beesoniidae
マルカイガラムシ科 Diaspididae
[編集] 人間との関係
[編集] 害虫
「カイガラムシ」と一口に言ってもその種類は多く、いろいろな草花、樹木がカイガラムシに吸汁される(ただし草本類への加害は樹木への加害に比べ比較的少ない)。吸汁された植物は、篩管液を奪われることにより生長に直接的な悪影響が出る。また、排泄物を介殻の材料として利用するマルカイガラムシ科以外のカイガラムシの排泄物は多くの場合、余剰の糖分を大量に含むため、これを栄養源とするすす病の発生を間接的に誘発する。なおコナカイガラムシ科やカタカイガラムシ科のカイガラムシのなかには植物病原ウイルスを媒介するものも知られている。また、マルカイガラムシ科の一部は担子菌類のモンパキン科に属するコウヤク病菌(Septobasidium spp.)と共生して樹木にコウヤク病を引き起こす。
[編集] 防除方法
カイガラムシは防除が難しい害虫である。これは虫体が蝋状の物質で覆われたり、殻があったりするため、農薬を散布しても十分に虫体に付着しないからである。
このためガス効果のあるピリミホスメチル(商品名アクテリック)、浸透移行性のあるアセタミプリド(商品名モスピラン)、気門を塞ぎ窒息を狙うマシン油乳剤(商品名スプレーオイル、機械油乳剤)などがよく使われる。これらは園芸店やホームセンターなどで容易に入手でき、一般家庭でも使用しやすい農薬である。
また、メチダチオン(DMTP、商品名スプラサイド)や石灰硫黄合剤(商品名も同じ)も効果的である。しかし前者は劇物のため入手が面倒であり慎重な取り扱いが必要、後者は皮膚や噴霧器を侵したり強い硫黄臭を出すため、一般家庭での使用には向かないと思われる。
カイガラムシが少数の場合は、農薬を使うよりも歯ブラシなどでこすり落とすのが簡単である。
また、天敵による防除が試みられた種も多く、うまく行った場合には劇的な効果が上がっている。天敵を利用したカイガラムシの防除方法の成功例として著名なものに捕食性昆虫であるベダリアテントウムシを利用したイセリアカイガラムシの防除、寄生性昆虫であるヤノネキイロコバチおよびヤノネツヤコバチを利用したヤノネカイガラムシの防除、[[Cassava mealy bug:Phenacoccus manihoti]]の、寄生性昆虫[[Apoanagyllus lopezi]]を利用した防除例などがあげられる。こうした天敵を利用した防除が劇的な効果をあげた例は侵入害虫のカイガラムシへの対策として、そのカイガラムシの原産国にいる天敵を導入した場合に多い。
カイガラムシの天敵を生物農薬として商品化したものもあるが、カイガラムシを天敵を用いて防除する場合は天敵の放飼によって永続的な効果を期待するものが大半であり、天敵を農薬的に繰り返し放飼しなければならないような例は少ないためあまり商業的には成功してはいない。
[編集] 資源生物
カイガラムシの資源生物としての利用は、多くの場合体表に分泌される被覆物質の利用と、虫体体内に蓄積される色素の利用に大別される。
被覆物質の利用で著名なものはカタカイガラムシ科のイボタロウムシ Ericerus pela (Chavannes, 1848)である。イボタロウムシの雌の体表は薄いセルロイド状の蝋物質に覆われるだけでほとんど裸のように見えるが、雄の2齢幼虫は細い枝に集合してガマの穂様の白い蝋の塊を形成する。これから精製された蝋は白蝋と呼ばれ、蝋燭原料、医薬品・精密機械用高級ワックスなどに使われている。主な生産国は中国で、四川省などで大規模に養殖が行われている。かつては日本でも会津地方で産業的に養殖された歴史があり、会津蝋などの異名も持つが、現在では日本国内では産業的に生産されていない。会津蝋で作られた蝋燭は煙がでないとされ珍重された。
色素の利用で著名なものに中南米原産のコチニールカイガラムシ科のコチニールカイガラムシ Dactylopius coccus Costa, 1829 がある。エンジムシ(臙脂虫)とも呼ばれ、ウチワサボテン属に寄生し、アステカやインカ帝国などで古くから養殖されて染色用の染料に使われてきた。虫体に含まれる色素成分の含有量が多いので、今日色素利用されるカイガラムシの中ではもっともよく利用され、メキシコ、ペルー、南スペイン、カナリー諸島などで養殖され、染色用色素や食品着色料、化粧品などに用いられている。日本でも明治初期に小笠原諸島で養殖が試みられた記録があるが、失敗したようである。
こうしたカイガラムシの色素利用は新大陸からもたらされただけでなく、旧大陸でも古くから利用されてきたものであった。例えば地中海沿岸やヨーロッパで古くからカーミンと呼ばれて利用されてきた色素はタマカイガラムシ科の Kermes ilicis (Linnaeus, 1758) から抽出されたものだった。カイガラムシ起源の色素はすべてカルミン酸とその近縁物質であるが、この名称はカーミンに由来する。
虫体被覆物質と虫体内色素の両方を利用するものに Laccifer lacca に代表されるラックカイガラムシ科のラックカイガラムシ類が挙げられ、インドや東南アジアで大量に養殖されている。ラックカイガラムシの樹脂様の虫体被覆物質を抽出精製したものはシェラック(Shellac、セラックともいう)と呼ばれ、有機溶媒に溶かしてラックニスなどの塗料に用いられるほか、加熱するといったん熱可塑性を示す一方である温度から一転して熱硬化性を示すので様々な成型品としても用いられ、かつてのSPレコードはシェラック製であった。化粧品原料、錠剤のコーティング剤としても使われる。
また、ラックカイガラムシの虫体内の色素は中国では臙脂や紫鉱、インドではラックダイと呼ばれ、染料として古くから盛んに用いられた。
また、特殊な利用に糖分を多く含んだ排泄物の利用がある。旧約聖書の出エジプト記にしるされているマナと呼ばれる食品は、砂漠地帯で低木に寄生したカイガラムシの排泄した排泄物(甘露)が急速に乾燥して霜状に堆積したものであると推測されている。
[編集] 外部リンク
- scale net - 世界的なカイガラムシの分類データベース
- 樹木の害虫「カイガラムシ」 - 農林水産技術情報協会のHP上にあるカイガラムシのコーナー
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