エール
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エール (’ēl 、エルとも音写)はセム語派に於いて最も普通に用いられる神を指す言葉。なお、エールはヘブライ語形で、アラビア語形ではイラーフ (ilāh)、ウガリット語形やアッカド語形でイル (il [’ilu])等という。
またこの言葉は普通名詞として「神」を指すほか、神の中の神である最高神の名称として固有名詞的にも用いられる。 ウガリット神話の最高神イルや古代アラブの最高神アッラーフがこれに相当する。
ウガリット神話で、最高神イルはアーシラトやアスタルトの夫であらゆる神々の父と呼ばれ、最高神にして創造神である。一般には、王権を象徴する角のついた冠を頂き玉座に座った男性の姿で表される。
彼はまた神々の会議を招集し議長を務め、また神々の王を指名しまた自由に罷免する権限を持つ。 しかし年老いた神ともされ、事実上の主神はむしろバアルである。そのせいか、神話においてイルはバアルには冷淡で、彼の敵対者であるヤム・ナハルやモートを神々の王として擁立した。
旧約聖書にもエール・エルヨーン(いと高き者)、エール・オーラーム(永遠の神)などの名が現れるが、実際にはほとんどヤハウェの異名として用いられている。
イスラム教以前のいわゆるジャーヒリーヤ時代のアッラーフは、カアバ神殿に祭祀されていた360の神々の最高神であり、特に緊急時の救済を司る神として崇められていた。また、アッラート、マナート、アル・ウッザーという三女神の父とされていた。