エノコログサ
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エノコログサ(狗尾草)は、日本全土に分布するイネ科エノコログサ属の一年 草。俗称は、猫じゃらし。
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[編集] 特徴
エノコログサ(Setaria viridis P. Beauv.)は、単子葉植物イネ科エノコログサ属の植物で、1年生草本である。ブラシのように毛の長い穂の形が独特な雑草である。
草丈は40-70cmになる。茎は細く、基部は少し地表を這い、節から根を下ろす。夏には茎が立ち上がって伸び、先端に穂をつける。葉は匍匐茎にも花茎にも多数ついており、最大20cm位、イネ科としてはやや幅広く、細長い楕円形、薄く、緑色でつやがない。茎を包む葉鞘と、葉身の境目につく葉舌は退化して、その部分に毛だけが残る。また、よく葉が裏表逆になっている。葉の付け根でねじれて、裏側が上を向くもので、そのような葉では、上を向いた裏側の方が濃い緑でつやがあり、下を向いた表側の方が、裏のような様子になる。
花序は円柱形で、一面に花がつき、多数の毛が突き出すので、外見はブラシ状になる。イヌビエなどの穂から出る毛は、小穂を包む鱗片(穎)の先端から伸びる芒であるが、エノコログサの場合、この毛は芒ではなく、小穂の柄から生じる長い突起である。
夏から秋にかけてつける花穂が、犬の尾に似ていることから、犬っころ草(いぬっころくさ)が転じてエノコログサという呼称になったとされ、漢字でも狗(犬)の尾の草と表記する。猫じゃらしの呼称は、花穂を猫の視界で振ると、猫がじゃれつくことから。
[編集] 小穂の構造
エノコログサの小穂は、果実が熟すると、一個の種子(実際には果実)を鱗片が包んだものに見える。小穂の中には花は一つしかない。しかし、本来は二つの小花があるべきもので、そのうち一つが退化したものと解釈されている。
穂の軸から出る、短い柄の先に、普通は一個の小穂がつく。第一包穎は背が低くて横長で、表側の基部を包む。第二包穎は第三穎と共向き合って小花を包んでいる。その内側には護穎と内穎に包まれた花がある。本来は、第三は消失した小花の護穎であったもので、小花の消失とともに内穎もなくなったものである。
[編集] 変異
エノコログサはさまざまな所に生え、そのためもあってか種内変異が多い。穂が紫がかるものをムラサキエノコロ forma purpurascens Maxim. という。これは特に穂の剛毛が紫に染まるものである。また、海岸に生える型をハマエノコロ var. pachystachys (Fr. et Sav.)という。違いとしては、背が低く、比較的よく地表を這うこと、茎や葉が短く硬いこと、それに、穂が短くほとんど楕円形で、小穂が密で毛が長く、そのために穂の外見がかなり異なる点が挙げられる。ただし、内陸に入ると次第に普通の型に移行する。
しかし、なんと言っても最大の変異はアワ(S. italica Beauv.)である。別種として扱われているが、エノコログサを元に作り出されたものと考えられている。エノコログサに比べると、高さは1mを越え、花序の長さは20cmにもなる。また、熟しても果実が簡単にはこぼれず、これは収穫をたやすくしている。かつては日本でも広く栽培された。これとエノコログサとの雑種があり、オオエノコロ(S. xpycnocoma (Steud.) Henrard ex Nakai)という。エノコログサに似るが穂が一回り大きく、また、エノコログサでは穂の軸の枝に小穂が一つづつつくのに対して、その枝に複数の小穂がついて、円錐花序になる点が異なる。畑地に時折見かけられる。
[編集] 近似種
日本にある同属の種は七種ばかりある。最も似ているのはアキノエノコログサ S. faberi Herrm.である。エノコログサによく似ているが、やや毛が多く、穂が細長くて垂れることなどが外見上の相違点である。小穂を見れば、エノコログサでは第二穎が小穂の長さと同じで、小花が隠れるのに対して、この種では第二穎が短く、小花が半分顔を出す。そのため、この両者は別種とされている。ザラツキエノコロ(S. verticillata (L.) Beauv.)は、穂の剛毛に細かい逆棘があって、さわると非常にざらつくのが特徴である。群生しているところでは、穂が互いに絡み合っているのが見られる。
やや細い穂を出すのがキンエノコロ(S. glauca L.)である。穂は長さ3-10cmで直立し、茎や葉には毛がない。穂からでるブラシ状の毛が金色をしているのが名前の由来である。コツブキンエノコロ(S. pallide-fusca (Schumch.) Stapf et C. E. Hubb.)はこれに似て、小穂が一回り小さい。いずれも北半球の温帯に広く分布し、日本でもほとんど全土に普通に見られる。
[編集] エノコログサ属
この属の特徴は、先に述べたような小穂を、円錐花序につけるものである。また、小穂のつく枝に刺状の突起をもつ。世界に約100種が知られる。日本では、上記のエノコログサ類のほかに、以下の種がある。
- イヌアワ(S. chondrachne (Steud.) Honda)は、本州から九州の木陰にはえる多年草で、夏から秋にかけてまばらな円錐花序をつける。
- ササキビ(S. palmifolia (Koenig) Stapf)は,木陰にはえる多年草で、葉が幅広く、多数の縦じわがあって、ちょっとシュロの葉を思わせる。九州以南にあり、広くアジアの熱帯域に分布する。やはりまばらな円錐花序をつける。
日本産エノコログサ属(主なもの)
- エノコログサ Setaria viridis P. Beauv.
- オオエノコロ(S. xpycnocoma (Steud.) Henrard ex Nakai)
- アキノエノコログサ S. faberi Herrm.
- ザラツキエノコロ S. verticillata (L.) Beauv.
- キンエノコロ(S. glauca L.)
- コツブキンエノコロ(S. pallide-fusca (Schumch.) Stapf et C. E. Hubb.
- イヌアワ(S. chondrachne (Steud.) Honda)
- ササキビ(S. palmifolia (Koenig) Stapf)
[編集] 利用
一般的に食用としては認識されていないが、若い葉と花穂は軽く火であぶり醤油などで味付けしたり、天ぷらにしたりして食べられる。ただし終戦直後大量に食べて中毒した学者がいる。 また、猫じゃらしの名の通り、これを用いて猫をじゃらすことができる。