小穂
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小穂(しょうすい)というのは、イネ科・カヤツリグサ科の花序を構成する単位である。
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[編集] 小穂とは
イネ科やカヤツリグサ科の植物では、穂が出てもきれいな花にはならない。多くの場合、高く伸びた茎の先には、緑色か褐色の鱗片が折り重なったような一定の形の構造物をいくつもつける。よく見れば、ある時期にその鱗片の間から雄しべや雌しべが顔を出すので、花があることがわかる。この構造物のことを小穂という。小穂は、多数の鱗片が折り重なったものもあれば、ごく少数の鱗片だけを持つものもある。
この小穂を構成する鱗片は、主として個々の花の付け根に生じる包葉から由来したものである。イネ科・カヤツリグサ科は、花びらがある普通の花を咲かせていた先祖から、風媒花の方向へ進化してきた。この過程で、虫を呼ぶ必要がないので花びらを退化させたと見られる。その一方で、外側の包葉が花と果実を包むようになった。しかも、一つの枝に並ぶ複数の花がよりあって、互いの包葉が重なり合い、まとまって一つの形を取るようになった。これが小穂である。小穂は、それ自体が花序に由来するが、花序の構成要素にもなっており、イネ科やカヤツリグサ科では、○○花序という場合には、小穂の並び方をさす。
[編集] 構成
小穂は花序に由来するのだから、一個の小穂に複数の花が含まれているのが基本的である。小穂に含まれる個々の花のことを小花(しょうか)という。小花の数は10-20といった多数のものもあれば、ごく少数の花だけからなるものもある。極端な場合には一個の小花しか含まないもの、あるいは花を失った装飾的な小穂の例もある。また、数が決まっておらず、成長の具合などで変化するものもあれば、一定数に決まっているものもある。イネ科では二個の小花からなる小穂の例が数多い。
ただ1つだけの花を含むものもある(例:イネ)が、その場合でも、小穂そのものは花序に由来するものであり、そこから花が減り、あるいは退化して、ただ1個の花だけが残ったという過程を配慮しなければ、その構造の理解を間違える場合がある。いずれにせよ、小穂の構造は、これらの科では属の重要な特徴になる。
雄花と雌花が分かれているものもある。一つの小穂でその両方が入っている場合、先の方に雄花、根元の方に雌花というように分かれているものが多い。この例は雄雌性という。逆の雌雄性もある。また、雄花の小穂と雌花の小穂が別に形成される場合もあり、それぞれの小穂を雄小穂・雌小穂という言い方をする。さらに、雄小穂のつく穂と雌小穂のつく穂が分かれる場合もある(例:トウモロコシ)。結実する小花のことを登実花と呼ぶこともある。
小穂は、多数の花を含んでいるが、その種子が成熟したときには、それぞれの花がバラバラになるものもあれば、小穂の軸が花ごとに折れるもの、また、小穂単位で散布されるものなどがある。 イネ科の小穂から生じる果実を穎果と呼ぶ。イネ科では小穂を構成する鱗片を穎と呼び、イネ科の果実(種子に見えるが、実は果実である)は、多くの場合、その穎に包まれて落ちる。
[編集] カヤツリグサ科の小穂
カヤツリグサ科では、包葉に由来する鱗片が1枚、その中に花が1個という構造が、小穂の軸の上に穂状に並ぶ形の小穂が多い。花の配列が2列になっていれば、全体の形は扁平な楕円形などになり、軸の周りに螺旋につけば、紡錘形などの形になる。
花には中心に雌しべ、周囲に雄しべがあるが、それ以外に花弁の名残のようなひもや針状の付属物がある場合があり、それらの有無・数や形は属や種を決める重要な手がかりとなる。ホタルイ属やミカヅキグサ属では、このような付属物がよくわかる。また、ワタスゲの綿毛はこれが結実後に伸びて広がったものである。テンツキ属やカヤツリグサ属では、鱗片の中には雄しべと雌しべしか入っておらず、花被の痕跡はない。
もっとも種類の多いスゲ属では、雄花と雌花にわかれる。雌花では、鱗片の中に果包と呼ばれる袋状の構造が出来て、雌しべはその中にあり、先端の穴から柱頭が顔を出す。 花の配置の仕方には、雄小穂と雌小穂に分かれるものと分かれないもの、雌雄異株のものがある。
カヤツリグサ科は属の数がそれほど多くなく、特徴が比較的はっきりしているので、属までの同定は比較的やさしい。しかし、属ごとの種数が多く、種名を決めるのが難しい。
[編集] イネ科の小穂
イネ科では小穂の鱗片を総じて穎(えい)とよぶ。イネ科の小穂では、中心に雌しべがあり、周囲を雄しべが囲むのが花であり、その外側を2枚の包葉に由来する鱗片が包むのが、花の基本構成である。2枚の包葉は、花の出る元の枝、つまり小穂の軸に対して腹背方向に位置する。軸の側にあるのが小穂の内側に、軸の反対側にあるのが小穂の外側に回ることになる。この、外側のものを護穎(ごえい)、内側のものを内穎(ないえい)と呼ぶ。また、小穂の一番基部には、花のつかない穎が2つある。これは花序の枝の基部の包葉から由来するもので、それぞれ第一包穎・第二包穎(ほうえい)と呼んでいる。従って、イネ科の小穂には、まず基部に二枚の包穎があり、その内側に護穎と内穎に挟まれた小花が配置する。小花の数が多ければ、当然護穎と内穎も多い。また、護穎と内穎は小穂に含まれる花の数だけあることになるが、これらの穎だけを残して、花本体が退化しているものもある。そうすると、花の数から期待されるより多くの穎があることになる。
穎の先端からは棘状の突起が出るものが多い。これを芒(のぎ、ぼう、とも)という。芒の有無は属や種の判別に使われることもあるが、種内の変異がある場合もある。
雄花と雌花が分かれているもの、雄小穂と雌小穂が分かれるもの、花序そのものが分かれるものなどがある。小穂の構造、小穂の配列などが属を決める重要な手がかりとなるが、イネ科は属の数がとても多く、同定はなかなか大変である。