イタコ
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イタコは、日本の東北地方などで口寄せ(神仙や死者・行方不明者の霊などを自身に乗り移らせてその言葉を語ること)を行う巫女で巫の一種。
シャーマニズムに基づく信仰習俗上の職である。
[編集] 概要
イタコは霊能者という表向きをとっているものの、実際は心理カウンセラーの面が大きい。死者あるいは音信不通者との縁を忘れられないでいる、あるいは時々思い出し供養に訪れる人々に対し、それらの気持ちを汲み取り、話を聞くことによってその心を和らげるのが、イタコとその信仰の本来の姿なのかも知れない。
イタコの一部は、交霊の際に楽器を用いることがあり、その際の楽器は梓弓(あずさゆみ)と呼ばれる弓状の楽器が多い。他に倭琴(「やまとごと」、または「わごん」)や太鼓なども用いられる。これらは農村信仰などで用いられた日本の古代音楽の名残とされ、日本の伝統音楽史において現存するうちの最も古いものの一つとされる。
口寄せ以外にもイタコには「オシラアソバセ」を執り行う役目がある。「オシラアソバセ」とは、東北の民間信仰であるオシラサマの御神体である二体の人形を遊ばせることである。オシラサマは各家庭に祀られており、一部地域ではその家庭の家族の変わりにイタコがオシラ祭文を読み上げる。
似たもので市子という霊能者もあり、こちらは東海道中膝栗毛にも登場する。文中の描写は滑稽本らしく胡散臭いものだが、口寄せの描写に関してはイタコと極めて類似する。
[編集] 弱視者との関連
イタコは、先天的もしくは後天的に目が見えないか、弱視の女性の職業であった。日本の東北地方に多く見られる習俗・民間信仰で、夏の恐山大祭(青森県)で行われるものが特に知られている。青森県の「津軽のイタコの習俗」や秋田県の「羽後のイタコの習俗」などは、国指定選択無形文化財となっている。
盲目や弱視の女性がイタコになったのは、かつては生活の糧を得るためという事情もあった。第2次世界大戦の終結、高度成長期などを経て、日本の生活環境も大きく変化していった。と同時に、厳しい修行を必要とするイタコに敢えてなろうとする者も極めて少なくなっていった。そのため、現役のイタコのほとんどは高齢者である。