アンゴルモア
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アンゴルモア(Angolmois, 「アンゴルモワ」とも表記される)とは、ノストラダムスの『予言集』百詩篇第10巻72番に登場する言葉である。
直訳では前の行にある、天から来るだろう「恐怖の大王」が「アンゴルモアの大王」を蘇らせるとある事から、この二者はともに世界を滅ぼすものに関わりがあると解釈されることがあり、時として両者が混同されることもあった。
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[編集] 出典
この語は、『百詩篇集』第10巻72番に登場する。その詩の直訳はひとまず以下のようになる(翻訳上のより詳しい問題は#第10巻72番を参照)。
- 1999年7か月
- 空から恐怖の大王が来るだろう
- アンゴルモアの大王を蘇らせるために
- その前後マルスは首尾よく支配する
[編集] 解釈史と主な説
この詩は20世紀に入るまではほとんど全く注目されず、主要な注釈者の中では、テオフィル・ド・ガランシエール、バルタザール・ギノー、アンリ・トルネ=シャヴィニーなどの例外を除いて誰も解釈した者がいなかった(このうち、4行まとめて解釈したのはギノー一人である)。「アンゴルモア」ないし「アンゴルモアの大王」について、20世紀に入ってから展開された主な解釈(=複数の論者に支持されていた解釈)は以下の四説である。
[編集] ジャックリー説
ノストラダムス予言の信奉者の一人であったアメリカの出版業者ヘンリー・C・ロバーツは、1947年の文献において、このアンゴルモアをジャックリー(ジャックリーの乱)とみなした(根拠は不明)。五島勉は、ベストセラー『ノストラダムスの大予言』の中で、もっともらしい脚色をまじえてこの説を紹介したため、その説に追随して、何らかの大反乱を意味する言葉であると解釈する信奉者も日本ではしばしば見られた。
ただしそこでジャックリーの乱について言われる「指導者が『大魔王』と名乗った」(あるいは「指導者の名はギヨーム・カイムだ」)「(南西部の)アングレームに波及した」といった話は、いずれも史料的に確認が取れない。なお、本説は、しかしながら海外では追随者の見られない、どちらかと言えば特異な説である。
[編集] アッティラ説
かなり早い時期に解釈を行った1930年代のマックス・ド・フォンブリュヌらは、アンゴルモアをアングーモワとみなし(この点後述も参照)、古代にそこまで侵攻したアッティラを思わせる、黄色人種による欧州侵攻がある、という黄禍論的な解釈を展開した。後に現れるモンゴル説は、黄色人種の欧州侵攻を想定しているという点で、この解釈の変種と見ることができる(信奉者の中には、その二説を複合している論者もいる)。
[編集] モンゴル説
モンゴル説では"Angolmois"を"Mongolians"などのアナグラムとみなし、「アンゴルモアの大王を蘇らせる」とは「モンゴルの大王=大ハーン」すなわちチンギス・ハーンの再来を思わせる人物の出現を予言している、と解釈した。この説では、ワールシュタットの戦いに代表されるモンゴル軍侵攻の話が恐怖心をもって語り伝えられていて、ノストラダムスはそれを元に予言詩を作ったのではないか、と考える論者もいる。
[編集] フランソワ1世説
それらに対し、当時"o"と"ou"の違いがあいまいであったことから"Angolmois"は"Angoulmois"のことだと指摘する論者もいる(1605年以降の『百詩篇集』では"Angoulmois"となっているものもある)。これはフランスのアングーモワ地方(現代フランスの綴りでは"Angoumois")を意味する普通の単語であった(フランス国立図書館にはその意味で"Angoulmois"を表題に用いている当時の文献が多く収蔵されている)。ノストラダムスの予言を16世紀フランス史の文脈で捉えようとする立場の論者は、その読みに基づき「アングーモワの大王」はアングーモワ地方出身でノストラダムスの青年期にフランス王であったフランソワ1世の暗喩であるとみなしている。
なお、この「アンゴルモアの大王」=「フランソワ1世」説は非信奉者特有の説というわけではなく、ガランシエールも同様の読みを展開していた。
[編集] 参考文献
- 樺山紘一 村上陽一郎 高田勇 共編 『ノストラダムスとルネサンス』 ISBN 400001809
- 山本弘 『トンデモ大予言の後始末』 ISBN 4896914694
[編集] アンゴルモアがキャラクターとして、出てくる作品
しばしば「恐怖の大王」とアンゴルモアが混同される傾向にある。
- ケロロ軍曹(アンゴル=モア、綴りはAngol MoisまたはAngol Moa)
- ドラえもん のび太の宇宙漂流記
- ワイルドアームズ(魔王アンゴルモア)
- 榊一郎「ウィークエンド・メサイア」(『突撃アンソロジー 小説創るぜ!』ISBN 4829116021 所収)
- ルナティックドーン
- 小さな巨人ミクロマン