マルス
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マルス(マールス、Mārs)は、ローマ神話の戦いと農耕の神。元の名はマウォルス(マーウォルス、Mavors)であるらしく、また、マメルス(マーメルス、Mamers)とも呼ばれていた。聖獣は狼、聖鳥はキツツキである。
ギリシア神話のアレスと同一視され、軍神としてグラディウス(グラディーウゥス、Gradivus, 進軍する者の意)という異称でも呼ばれる。しかし、疫病神のように思われており、全く良い神話のないアレスに対し、マルスは勇敢な戦士、青年の理想像として慕われ、主神なみに篤く崇拝された重要な神である。
マルスは他のローマ神話のどの神とも違い、ローマ建国時に既にローマにいた神であった。3月の神であるのも、農耕の始まる季節に一致する。当時のローマ暦は、新年は農耕の始まる3月におかれた。ローマ建設者とされる初代ロムルス王の父親がマルスという伝承があることから、主神と同様に扱われた。主神が農耕神マルスであるのは、ローマ人が農耕民族であった証拠とされる。
旧来の学説では、勇敢に戦い領地を増やしたロムルス王と像が重なり、のちに軍神としても祭られるようになったと考えられていた。また、元は地下神であったため、地下に眠る死者との関連づけから軍神になったとする説もあった。しかし現在では、インド・ヨーロッパ語族比較神話学の進歩により、マルスはもともと軍神であり、三機能イデオロギーの第二機能(戦闘)を担っていたと考えられている。