アトキンソンサイクル
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アトキンソンサイクルは容積型内燃機関を基礎として、圧縮比よりも膨張比を大きくして熱効率を改善した内燃機関の一種またはその理論サイクルである。
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[編集] 基本原理
熱機関が熱エネルギーを力学的エネルギーに変換する効率(熱効率)は、熱力学第二法則によれば熱エネルギーが移動する相の温度差が大きいほど高い。 すなわち、内燃機関では燃焼温度が高く排気温度が低いほど効率は高くなる。膨張行程は断熱変化とみなせるため、燃焼開始時の燃焼ガスの体積(≒上死点における容積)と排気開始時の体積(≒下死点における容積)の比(膨張比)が高いほど効率が高いということになる。
オットーサイクルでは機構上、吸気を圧縮する容積比(圧縮比)と膨張比は等しいため、圧縮比が高いほど熱効率は高くなるが、通常のガソリンエンジンは圧縮比を高くしすぎると圧縮行程で混合気が過熱して異常燃焼(ノッキング)が発生してしまうため、高々9~11の範囲に抑えられている。 そこで、膨張比だけをより大きくして熱効率を改善したのがアトキンソンサイクルである。
[編集] 機構
当初のアトキンソンサイクルは、閉リンク機構とクランク機構を併用して上・下死点の位置をストローク毎に変化させることで、膨張比が圧縮比よりも大きくなる状態を実現したものだが、機構が複雑すぎるため実用化には至っていない。実際には圧縮比を14程度まで高めたオットーサイクルに対し、吸気バルブの閉じるタイミングを下死点の前後に一定量ずらすことで実質的な圧縮比を小さく抑え、当初のものと同等の原理を再現したものが R.H.Miller によって考案され、ミラーサイクルとして実用化されている。オットーサイクルとの違いはバルブのカム形状だけであり、従来の部品がほとんどそのまま流用できるのは応用上の大きな利点である。しかしながら同一排気量のオットーサイクルと比べた場合、吸入できる混合気(=発生熱量)が制限されてしまうため、発生できる出力は低くなってしまう。これを補うため過給器を組み合わせることで機関重量あたりの出力を向上させたものが実用化されている。
熱機関のサイクルとして論じる場合、ミラーサイクルはアトキンソンサイクルに含まれると考えることができるが、内燃機関としての機構を論じる場合は両者は区別される。
[編集] 応用例
中-小規模のコジェネレーション用ガス発電機の動力源として応用が進んでいる。幅広い出力レンジが要求される自動車用エンジンとしては、リショルムコンプレッサーと組み合わせたミラーサイクルエンジンを搭載したマツダ・ユーノス800や、電動機と組み合わせたトヨタ・プリウスのほか、可変バルブタイミング機構を備えたものに類似の効果を持つもの(BMW・バルブトロニックなど)がある。