麻疹・風疹混合ワクチン
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麻疹・風疹混合ワクチン(ましん・ふうしんこんごうワクチン)とは、従来の麻疹・風疹ワクチンを混合し、1回で接種するために使用されるワクチンである。予防接種法改正に伴い、2006年4月から接種が開始された。麻疹(Measles)、風疹(Rubella)の頭文字をとってMRワクチンともいう。
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[編集] 沿革
1988年から、麻疹・流行性耳下腺炎・風疹混合ワクチン(新三種混合ワクチン、MMRワクチン)の接種が始まった。しかし、ムンプスワクチンによる無菌性髄膜炎の発症率が予想外に高かったため、そのことが問題とされて1993年にはMMRワクチンの接種は中止された。
このことには薬害エイズ問題などで薬の副作用に対する社会的関心が高まっていた時期であること、薬害問題が起こった際に厚生省(現:厚生労働省)がマスコミ等から厳しく責任を追及されたことが影響しているものと考えられる。
このような背景から、ある程度の副反応は必ず伴うワクチン接種を危険視するような論調や、副作用は自然にかかる病気よりも危険である、という偏った認識も多く見られ、その結果日本の感染症予防行政は他の先進諸国と比べて大きく遅れをとっている。
上記のような経過がありながらも、今回麻疹・風疹混合ワクチンが認可され、2回接種が標準法とされたことには以下のような理由がある。
- 女性の社会進出に伴い、乳幼児の集団保育が増加していること。また、集団保育機会の増加が求められていること:集団保育は、その当然の帰結として感染症罹患の機会を増加させることとなる。そのため、感染力の強い疾病の予防策を強化する必要が生じた。また、現に感染症に罹患している際にはワクチン接種を受けられないため、ワクチン計画全体での接種回数はなるべく少ないほうがよい。そのため、2種のワクチンを別個に接種するよりも、混合接種したほうが有利である。
- 麻疹・風疹の流行が減少したことにより、ワクチン既接種者が麻疹・風疹患者に接触する機会が減少し、ワクチン接種後長期間を経過することによって抗体価の低下が起こっていること:ワクチン既接種者では、その後に対象ウイルスに接触することによりさらに抗体価が上昇する(ブースター効果)。しかし麻疹・風疹の流行が減少したため、ブースター効果が得られず、成人する頃には感染防御に十分な抗体価を有さない者も増加していると考えられる。2006年、関東の一部地域で、ワクチン既接種者に麻疹(修飾麻疹)が流行していると報じられたのも、このような背景があってのことである。2回目の接種を行うことでブースター効果を発生させ、抗体価の上昇を得る狙いがある。
- 先天性風疹症候群の危険性:先天性風疹症候群は、妊娠初期~中期の妊婦が風疹に罹患することにより、胎児が白内障、先天性心疾患、難聴、精神発達遅滞などの先天性障害を持つものである。かつては風疹ワクチンは女子のみに定期接種が行われていたが、これは性差別であるとして、男女とも幼児期に接種するように改められた。しかし、妊婦が風疹に対する抗体価を有していたとしても、不顕性感染による先天性風疹症候群の発症を予防できない可能性が示唆されている。このため、風疹ワクチンを2回接種として風疹の流行自体を予防することが必要という主張がある。
- 諸外国との関係、麻疹撲滅:現在、ワクチンによる予防の徹底により、先進諸国では麻疹はほとんど見られない疾患となった。そのため、小規模ながらも麻疹の流行が見られる日本は、諸外国からは麻疹の「輸出国」と見られている。麻疹は理論上は、痘瘡(天然痘)のように撲滅が可能な疾患であるため、日本は麻疹撲滅の動きの足を引っ張っているという批判もある。このため、麻疹ワクチンの接種率を高め、2回接種を徹底させて麻疹の流行を予防することが、国外からも求められるようになった。
以上のような事項を踏まえ、2006年4月以降、新規にワクチンを接種する1歳以上2歳未満の幼児からは、麻疹・風疹混合ワクチンを接種することとなった。
[編集] 接種スケジュール
1回目・・・月齢12~23ヶ月
2回目・・・小学校入学前の1年間
2回目の麻疹・風疹混合ワクチンの接種を受けることができる者は、1回目の接種を混合ワクチンで受けた者、とも規定されている(1回目を麻疹ワクチン、風疹ワクチン別個に受けているものは、現行法では2回目の接種の対象にならない)。2006年6月2日の予防接種法施行令の再度改正により、1回目を単抗原ワクチンで別個に受けたものも、2期の対象に加わった。
[編集] 現行法の問題点
◎1回目の接種を既に個別のワクチンで受けているものは、2回目の予防接種の対象からもれてしまっている。これでは流行予防対策としては不十分といわざるを得ない。
平成18年6月の予防接種法の再度改正により、1回目を単抗原ワクチンで別個に受けたものも、2回目の対象に加わることになった。これにより、上記の問題点は解決することとなった。
◎平成18年4月1日時点で2歳を超えており、且つ麻疹・風疹ワクチンの接種を受けていないもの(保護者の個人的信条のほか、卵アレルギーや、保育園通園に伴う感染症の反復などで接種機会を逃している者もいる)には、そもそも麻疹・風疹ワクチンを公費負担で接種する機会が失われてしまった。
ただし、上記のような問題点は行政側にも自覚されており、近年中に何らかの対策が立てられるものと思われる。
[編集] 諸外国の現状
そもそもMMRワクチンが中止となった直接のきっかけであるムンプスワクチンは、諸外国では改良されて副反応の軽減が図られている。
また、ムンプスワクチンによる無菌性髄膜炎は軽症であり、命にかかわったり後遺症を残すことは極めてまれである一方で、流行性耳下腺炎の合併症としても無菌性髄膜炎や脳炎が少なからず見られる(こちらもおおむね軽症だが)。
このため、諸外国ではムンプスワクチンの副反応は、日本でのようには重視されていない。結果、MMRワクチンは現在でも、日本以外のほとんどの先進国、数多くの発展途上国で接種されている。
2005年9月、米国食品医薬品局(FDA)は、MMRにさらに水痘-帯状疱疹ワクチンを加えたMMRVワクチンを認可した。
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